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【シドニー駐在員 野村 俊夫 5月12日発】豪州連邦政府のトラス農相は5月 3日、7月1日から施行予定の物品サービス税(GST)法を修正し、取引形態に かかわらず、すべての肉牛取引に10%のGSTを課税すると発表した。 豪州では7月1日からGSTが導入されるが、基礎的な食料品や医薬品、地方自 治体の公共サービス料金などは、例外として非課税となる。これは、昨年、GST 法案が議会で審議された際、上院のキャスティング・ボートを握る民主党が、低所 得層への救済措置として政府に認めさせたものである。 ところが、その際、非課税品目の範囲や定義について充分な議論を行わないまま 政治的に決着をつけたため、GSTの導入を目前に控えた現在に至っても、各方面 でいまだに混乱が続いている。 肉牛・牛肉業界では、牛肉は基礎的な食料品とされて非課税になったが、肉牛は 非食用の副産物が多いことから食料品には該当しないとされた。したがって、肉牛 を家畜市場などに生体で販売する場合にはGSTが課税される。 しかし、肉牛をパッカーに直接販売する場合は、両者の取引が肉牛の状態で行わ れるのか牛肉の状態で行われるのか明確でないため、判断が難しい。 この問題については、今年2月、税務当局が「と畜後の衛生検査で食用と認定さ れ、取引された場合は、食料品として課税しない」との見解を発表し、最終の決着 が付いたかに思われた。 しかし、肉牛生産者はこの見解に納得しなかった。なぜならば、肉牛生産者が使 用する飼料、薬品、農機具などの生産資材はすべて課税品目であり、生産者はGS Tを乗せて支払うことになるが、最終生産物である肉牛を食料品としてパッカーに 販売すると、GSTを受け取れないからである。 生産者は、後日、税務当局へ生産資材にかかったGSTの還付を請求できるが、 この間(通常2〜3ヵ月)キャッシュ・フローが大幅に減少することになる。 このため、生産者は、業界団体を通じて政府に強力に働きかけ、ついに今回の法 案修正を認めさせたのである。 反対に、割を食う形となったのはパッカーである。今回の修正により、生産者か ら肉牛を購入する際には例外なくGSTを支払うことになった。一方、牛肉として 販売する際、相手からGSTを受け取れないことに変わりはない。パッカーも、後 日、税務当局にGSTの還付を請求できるが、その間のキャッシュ・フローの減少 は大変な経営負担になる。 このため、パッカーも業界団体を通じて政府に働きかけ、通常は月ごとの税金還 付請求を、少なくとも週ごとに行えるよう、税務手続きの変更を求めることになっ た。これに対し、肉牛生産者団体も、税制改革のしわ寄せがパッカーに集中しない ように支援すると表明した。目前に迫ったGST導入であるが、解決すべき課題は 山積している。
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