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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 5月11日発】タイの鶏卵価格が、昨年末か ら低迷を続けている。今年3月中旬のバンコク市場における鶏卵の卸売価格は、前 年同期比21%安の1個当たり1.5バーツ(約4円:1バーツ=約2.9円)となってい る。ベジタリアン・フェスティバルや教育施設の長期休暇など、需要が減退する時 期を迎えたことがそれに輪をかける結果となっているが、鶏卵生産者団体は政府に 救済を働きかけるなど、こうした状況を脱却するための対策を講じつつある。 鶏卵生産流通輸出協会はこのほど、現在の鶏卵1個当たりの市場価格が1バーツ (約3円)程度で、生産コストの1.35〜1.45バーツ(約4円)を下回る状況が続い ているとして、農業協同組合省と商業省に対し、消費者の鶏卵購入意欲を増大させ る方策をとるよう要求した。また、同協会は、生産コストの上昇につながっている 大豆ミールなどの飼料原料に対する輸入関税の撤廃も求めている。 さらに、1個当たり0.6バーツ(約2円)と、より安価となる輸出の面でも、何ら かの助成を行うべきとしており、輸出品に付加価値を乗せるための鶏卵加工場整備 の必要性も指摘している。なお、タイは2000年1〜4月に、2千5百万個の鶏卵を 輸出した。 これら鶏卵生産者団体は、さらに矛先を大手企業に向け始めた。タイ採卵鶏振興 協会は政府に対し、飼料業界の最大手企業であり、採卵鶏のインテグレーターでも あるチャロン・ポカパン(CP)の市場独占状況を調査するよう申し立てた。この 主旨は、CPおよびその傘下グループがタイの鶏卵業界を牛耳っていることから、 これに対抗できない多くの小規模農家は鶏卵事業から撤退せざるを得ず、このまま 独占状態が続けば、タイの農業や経済に悪影響を及ぼすというものである。 また、同協会は国会議員に対して、独占を許容する法規に問題があることを指摘 するとともに、この独占状態はCPが提供する高い飼料価格や採卵鶏用のひなの過 剰供給に反映されているとして、大手企業としての倫理観に疑問を投げかけている。 これに対しCPは、雑誌のインタビューに答える形で、小規模農家が困窮するこ とは本意ではないと、弾劾の矛先をかわす姿勢を見せている。この取材の中でCP は、同社が保有する採卵鶏は約1千万羽で、タイ全体で飼養されている2千7百万 〜2千8百万羽の4割にも満たないことや、国内に鶏卵がだぶつく状況を回避する ため、余剰鶏卵をあえて利益が出ない輸出や養殖エビの飼料用に振り向けてきたこ となどを挙げて、鶏卵生産者の理解を求めている。また、独自の液卵工場を建設中 であり、他の生産者から余剰鶏卵を買い上げる計画が進行していることも併せて公 表し、企業のイメージアップに努めている。 鶏卵生産者は政府との交渉の中で、当初5月までとされていた鶏卵調整保管の期 限を、1個当たり1.5バーツ(約4円)に回復するまで延期する確約を取りつけたと されるが、ほかに政府から提示された効果的な援助策はなく、鶏卵生産者の苦悩は しばらく続くとの見方が強いようである。
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