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【シドニー駐在員 粂川 俊一 12月6日発】ビクトリア(VIC)州議会下院は 11月30日、現在、豪州で任意制度として実施されている全国家畜個体識別制度(N LIS)を義務化する法案を可決した。同議会上院でも可決されれば、来年1月1 日以降同州で生まれるすべての牛について電子耳標による個体識別が実施され、他 の州に先駆けてNLISを法的な制度として義務化することとなる。 NLISは、疾病の予防管理、残留農薬など事故発生時の追跡可能性の確保を目 的として、99年から生産者の任意参加という形で実施されている。政府・業界団体 で構成するセーフミートが管理運営を行い、具体的な事務については豪州食肉家畜 生産者事業団(MLA)が実施している。個体識別には電子耳標が使用され、その データはMLAが管理するデータベースに集積され、将来的には生産者にフィード バックすることも計画されている。なお、当初、輸出相手国であるEUから求めら れた諸条件を満たす手段として導入されたことから、EU輸出向けに限り義務的に 実施されている。 NLISの義務化については、電子耳標などの費用負担の問題をめぐって連邦政 府・生産者団体間で意見が分かれている。現在は、全国的にMLAなどが生産者の 自発的な参加を推進し、義務化については将来的な課題となっていた。(「畜産の 情報」海外編2001年7月号参照) VIC州におけるNLISへの取り組みは、開始当初の99年において、同州政府 が百万個の電子耳標を生産者に無料で配布することによって始まった。その後も、 州政府は1個当たり約3.5豪ドル(約224円:1豪ドル=64円)の電子耳標に対して 2.5豪ドル(約160円)の補助を行い、耳標装着の推進を図っていたことから、生産 者も同州政府の進取的精神を支持し、品質の高い製品の供給元としての自らの評価 を守ることを認識していたとされる。また、同州ではEU向け輸出が多かったこと もあり、パッカーにおいても、NLISを完全実施しているものもあった。このよ うに、同州は全州の中でNLISへの取り組みが最も積極的であったことから、N LISのペースメーカーとも言われていた。 今回の法案下院通過に際して、同州政府関係者は、費用の一部負担という犠牲は あるものの、すべての牛が追跡できることとなるとしており、当面、1個当たり2.5 豪ドルの補助は継続される見込みである。 同州政府は、義務化実施に当たっては、業界との調整も必要なことから、1月1 日からのスタートはまだ確定的ではなく、段階的に実施していくことも示唆してい る。ただし、少なくとも来年以降生まれる牛が農場を離れる前には電子耳標が装着 されている状態にしたいとしている。 また、個々の情報に関しては、他者からアクセスできないようにデータ管理の機 密性を高め、保護するように努めるとしている。 さらに、NLISのデータベースにすべての牛の州間移動が記録されるよう、他 の州に対しても同州の取り組みがフィードバックされるように求めていきたいとし ている。家畜の追跡について公正な真実を確保するためには、同州を横切るすべて の牛に電子耳標が装着されるべきであるとし、将来的には、他の州から同州に移動 してきた牛は、移動前か、移動後でも購入者によってすぐに装着されるような体制 に持っていきたい方針である。 VIC州でのNLIS義務化の動きは、法案の同州上院通過が前提であるが、豪 州全体における個体識別の義務化の端緒となるか今後の展開が注目される。
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