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貿易促進権限の獲得に動き出すブッシュ米政権



【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 6月21日発】ブッシュ政権の通商政策にお
ける最重要課題である貿易促進権限(Trade Promotion Authority)の獲得に向け
た動きが本格化し始めた。

 貿易促進権限とは、行政府が議会から通商協定に関する交渉権限を与えられ、議
会には、協定の実施法案について、その賛否のみを一括して問うことができるとい
う仕組みであり、以前はファスト・トラック権限と呼ばれていたものである。これ
は、先のウルグァイ・ラウンド交渉が終結し、世界貿易機関(WTO)協定への署
名が行われた94年に失効したままの状態となっており、クリントン前大統領も97年
にその再取得を提案したが、貿易相手国に対して労働・環境基準の確保を求める権
限を付与すべきか否かをめぐって議会の支持が得られず、結局断念せざるを得なか
ったという経緯がある。

 ブッシュ政権は、この貿易促進権限の早期取得により、米国のリーダーシップの
下、ヨルダンやシンガポール等との自由貿易協定や、4月の米州サミットにおいて
2005年末までの発効を目指すことが確認された米州自由貿易協定(FTAA)の実
現に弾みをつけるとともに、11月にカタールで開催予定のWTO閣僚会合における
新ラウンド交渉のスタートにもつなげたいとの意向である。

 こうした中、6月13日に貿易促進権限法案が下院貿易歳入小委員会のクレーン議
長(共和党)によって提出された。これを受け、18日にはブッシュ大統領の主催に
より、ベネマン農務長官やゼーリック米通商代表部(USTR)代表の同席の下、
本法案を支持する農業関係78団体の代表などを集めた会合がホワイトハウスで開催
された。スピーチに立った大統領は、EUの牛肉の二次関税が91〜177%、日本の
小麦が同242〜256%、カナダのバターが同299〜314%に相当することを例に挙げ、
「米国の農業者は信じ難い貿易障壁に直面している。本政権が行うべき任務は、農
産物のさらなる市場開放である」として、法案成立への一層の協力を呼びかけた。

 ただし、本件に関し、関係団体の間には、戦列の乱れも見られるところとなって
いる。中小の家族経営の維持を目標とするナショナル・ファーマーズ・ユニオンは、
議会での修正を通じた意見の反映ができないとして、従来から貿易促進権限の付与
には反対の立場をとっている。一方、全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、
同法案への支持を表明しながらも、@米国産牛肉にとって、ホルモン牛肉問題で輸
出を制限しているEUや比較的高関税を設定している日本や韓国などのアジア市場
が重要であること、A米国は世界最大の牛肉輸入国でもあり、他の輸入国のアクセ
ス改善なくして、FTAAの中の輸出国を相手とした米国市場の一方的な開放はで
きないことを理由に、WTOの下での多国間交渉を優先させるべきであり、FTA
Aの創設には反対の立場を明らかにしている。

 議会においては、6月5日に上院のジェフォーズ議員(バーモント州)が共和党
を離党したため、上院の構成が民主党50、共和党49、独立1となり、民主党が多数
党に転じた。本法案の審議においては、97年と同様、労働・環境問題の扱いを避け
て通ることはできないため、その早期成立にはさらなる困難が予想される。


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