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【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 3月15日発】カナダ国際貿易裁定委員会 (CITT)は3月7日、米国産トウモロコシ(食品向けの一部の品種を除く)の 輸入によるカナダ国内の生産者における損害はないと認定した。 本件は、補助金を受けた米国産トウモロコシがダンピング輸出され、生産者が市 場シェアの損失や赤字販売を強いられるなどの損害を受けているとして、昨年8月 にマニトバ州トウモロコシ生産者協会(MCGA)が行った申し立てに基づくもの である。これを受けて、CITTは昨年10月、米国産トウモロコシの輸入急増と、 カナダの生産者における販売価格の低下および収益の悪化との間に、明らかな関連 性を示す証拠があるとして、損害の事実についての仮認定を行った。同年11月には、 カナダ関税税務庁(CCRA)が、ダンピングおよび補助金の存在についても仮認 定したことから、1ブッシェル当たり1.58ドル(約188円:1ドル=119円)のダン ピング防止税および相殺関税の賦課が、暫定的に開始されていた。 さらに、年明け後の2月5日には、CCRAが、その仮認定を追認し、ダンピン グおよび補助金の事実を正式に認めると発表した。この場合のダンピングとは、海 外の輸出業者が国内の輸入業者に対して、輸出国内における市場価格よりも低い価 格や、採算割れの価格で製品を販売することを意味し、また、補助金とは、輸出国 内の生産者や輸出業者において、当該国政府によって経済的な利益がもたらされる ことを指す。CCRAは、ダンピングおよび補助金の合計金額は、1ブッシェル当 たり1.3ドル(約155円)に相当し、また、米国政府によって国内のトウモロコシ生 産者に対して提供されるローン不足支払い、マーケティング・ローン制度、市場損 失補てん支払いおよび作物保険プログラムが、補助金に該当すると認定している。 しかし、今回のCITTの発表は、「ダンピングされ、補助金の提供を受けてい る米国産輸入トウモロコシは、マニトバ州以西のカナダ国内におけるこれと同種の 産品の生産者に対し、損害や妨害をもたらしてはおらず、また、損害をもたらすお それも認められない」というものであり、これまで暫定的に課せられていたダンピ ング防止税および相殺関税は、還付されることとなる。 申し立てた側のMCGAは、CCRAがダンピングや補助金を正式に認定した矢 先であるだけに、「損害を被っているのは明らかなのに、どうしたらこのような認 定になるのか、理解できない」として衝撃と失望の色をあらわにしている。CIT Tの認定内容の詳細は、15日以内に明らかにされる予定であり、MCGAは、これ を吟味した上で、今後の対応を決定する模様である。 昨年のCITTの仮認定に対して強い反発を示していた米国政府の反応は、現在 までのところ明らかにされていないが、2国間でくすぶりかけた紛争の1つが、ど うやら回避される見通しである。
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