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【シンガポール 小林 誠 3月28日発】タイ農業協同組合省(農協省)畜産開発 局は3月20日、欧州向けに輸出されたタイ産鶏肉から、欧州での使用が禁止されて いる抗菌剤ニトロフランが検出され、EU委員会がタイ産鶏肉・鶏肉調製品の輸入 を禁止したとの発表を行った。同国の鶏肉・鶏肉調製品にとって、EUは日本に次 ぐ輸出相手先であり、本問題の解決が長引けば、同国のブロイラー産業にとって大 きな打撃になるとみられる。EU委員会は、タイ、ベトナム、ミャンマー産のエビ についても禁止薬剤に関する輸入品の全量検査を実施するとしている。 ニトロフランは発ガンとの関係が疑われていることから、ほとんどの国が飼料へ の添加を禁止しており、タイでも飼料への添加は禁止されている。しかし、タイ食 品・医薬品局(FDA)は、安価な抗菌性物質製剤としての公衆衛生上の価値が高 いとして、同剤の輸入・販売を承認してきた。ニトロフランは、経口投与されると タンパク質と結合するため検出が難しくなるが、数年前に結合体のニトロフランを 検出する方法が開発されたため、現在では検査に支障がなくなっている。 畜産開発局は、タイ産畜産物が国際規格を満たすよう、ニトロフランを中心とす る禁止薬剤の監視を続けており、97年から2000年までニトロフランの検出事例は皆 無だった。この結果を受けて政府は、2001年から輸出前検査を一時停止する旨をE U委員会に通知した。今回のEUでの事例は、先月、マレーシア政府が同国産鶏肉に 数パーセントの割合でニトロフランをはじめとする禁止薬剤が検出されたことを公 表したのを受け、タイ政府も4月から輸出品の検査を再開する決定を行った矢先の できごとであった。 今回のEU委員会の決定を受け、タイ政府は、22日、財務大臣を長とし、財務、 公衆衛生、農業協同組合各省関係者による緊急対策会議を招集し、タイ側の対応を 協議した。席上、農協省側がニトロフランなど禁止薬剤の飼料からの排除を確実に するために、輸入・販売禁止措置を講ずることを主張したのに対し、FDAは従来 からの主張を繰り返した。 タイの鶏肉・鶏肉調製品のEU向け輸出額は3億6千万ドル(約475億2千万円: 1ドル=132円)とタイの食料品輸出総額である70億ドル(約9,240億円)の5%程 度にすぎないものの、この問題を放置すれば同国の食料品輸出全体に対する信頼性 を損なう危険性があるとして、ニトロフランの輸入・販売禁止措置を講ずると共に、 現在、輸送途中にある鶏肉・鶏肉調製品をタイに返送し、再検査を行うことが決定 された。この返送に伴う輸出業者の損失は、1コンテナ当たり少なくとも20万バー ツ(約64万円:1バーツ=3.2円)程度と見込まれている。 タイ政府は、この会議の結果を踏まえ、25日に財務省と農協省担当者をEU委員会 に派遣し、今後1ヵ月間、EUが輸入するタイ産鶏肉・鶏肉調製品は全量検査の対象 とし、この間に新たにニトロフランが検出されなければ、従来のサンプル検査に戻 すことで合意した。一方、国内では、畜産開発局が全てのブロイラー生産者を緊急 招集し、禁止薬剤の不正使用防止を確認すると共に、今後、輸出に必要な衛生証明 書の発給および発給に必要な検査を局長直属の特別タスクフォースが行うことを通 知した。 タイのブロイラー産業は、「EUにも輸出可能な安全性」をセールスポイントにし て中国産などとの差別化を強調しているだけに、関係者は今回の問題の早期解決を 期待している。
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