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【ブエノスアイレス 玉井 明雄 4月17日発】2002年1月に通貨切り下げを実施 したアルゼンチンでは、同国政府が大幅な税収不足をカバーするため農産品への輸 出税導入を決定したことから、農業団体などがこれに強く反発している。 アルゼンチン経済省は3月4日付け決議11/2002で、穀物などの1次産品に10%、 食肉を含む畜産加工品・工業品に5%の輸出税を賦課した。さらに、同省は4月5 日付け決議35/2002で、穀物、油糧種子、穀粉、植物性油などの農産品に対する輸 出税の税率を20%に引き上げることを決定した。なお、食肉を含む畜産加工品は5 %と据え置きとなった。 同国の輸出税は、1800年代後半から重要な税収源として主に穀物と牛肉に課せら れていたが、90年代の初めに提唱された新経済自由主義政策の下、ほとんどの輸出 税が廃止された。2002年1月に就任したドゥアルデ大統領は、就任当時、農産品に 対し輸出税の賦課を行わないと公約していたが、税収の大幅な減少を受け、通貨切 り下げで恩恵を受ける業界が税収を支えるべきとの考えから輸出税導入に踏み切っ たものとみられる。 これに対し、中小の農牧業者を主たる会員とするアルゼンチン農牧連盟(CRA) は4月10日、農産品に対する輸出税の20%への税率引き上げに抗議する目的で、4 月28日〜5月1日にかけて、穀物の出荷停止などの農業ストライキを実施すると発 表した。さらに、アルゼンチン農牧連合会(FAA)は、穀物の出荷停止に加え、 輸出港へ向う輸送トラックの陸上封鎖などを行うとしている。 また、アルゼンチン農牧水産食糧庁パウロン長官は4月8日、サンタフェ州のレ ウテマン知事との輸出税に関する協議の後、同税の税率引き上げに抗議し辞意を表 明した。これに対しドゥアルデ大統領は、パウロン長官の辞意撤回を求めたが、同 長官はその条件として、@輸出税については、段階的な税率削減を行うとともに、 地方経済への影響の大きい農産品を課税対象外とすること、A農業用輸入資材のド ル債務に係る決議(経済省3月4日付け決議10/2002)を見直すことなどを同大統 領に要請したと伝えられる。 アルゼンチン政府は、通貨切り下げ後、ドル建ての負債を持つ人などが多いこと に配慮し、ドル債務を1対1でペソ債務に置き換えることを決めたが、同決議によ ると、農業用輸入資材のドル債務については、輸入資材が投入された農産品を輸出 する際に決済される外国為替レートで返済するとしているため、パウロン長官はこ の決議内容を見直すよう求めた。 しかし、これらの要請が受け入れられることはなく、同長官の辞任が確定したこ とを現地報道は伝えている。経済危機の中で税収確保を図りたいアルゼンチン政府 と、通貨切り下げで輸出拡大を狙う農牧業者との間に生じている溝は大きく、輸出 税の導入を巡る業界内の意見調整はかなり困難なものになるとみられる。
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