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【ブエノスアイレス 犬塚 明伸 5月22日発】ブラジルの丸鶏輸出をめぐるアル ゼンチンとの貿易紛争は、1997年のアルゼンチン向け丸鶏輸出が前年比69.0%増の 約4万トンに達する一方で、トン当たりの輸出価格が前年比9.3%減の970ドルとな ったことに端を発している。ブラジルの輸出攻勢による国内価格低下のため、アル ゼンチンの鶏肉処理加工会社が倒産するなどの影響が大きく、翌98年のアルゼンチ ン向け丸鶏輸出は97年比36.8%増の約5万6千トンとなった。アルゼンチン養鶏加 工協会(CEPA)はブラジルからの輸入に一定の歯止めを掛けるため、ブラジル 鶏肉輸出業者協会(ABEF)と月間輸出量を4千トンとする協定を99年4月に結 んでいたが、99年7月以降、協定枠を無視して低価格で大量に輸入されたことから、 同協定は実効性を失った。 一方、アルゼンチン経済省下にある国家貿易委員会(CNCE)はCEPAの要 請を受けて、ブラジルのアルゼンチン向け丸鶏輸出価格のダンピング調査を99年1 月に開始した。また、アルゼンチン・エントレリオス州のブロイラー生産者はCN CEによるダンピング調査結果が判明するまでの措置として、同州のコンセプショ ンデルウルグアイ裁判所にダンピング問題を提訴し、同裁判所は99年11月にブラジ ル産丸鶏の輸入量を月間3,742トンに制限する判決を下した。これに対しアルゼン チン経済省は、判決は国家間の貿易問題に関しては無効であるとしたが、12月には CNCEがブラジル産丸鶏のダンピング輸入によりアルゼンチン国内の鶏肉産業に 損害が生じているとの結論を下した。 2000年7月24日、アルゼンチン経済省はCECNの調査結果に基づき、ブラジル 産丸鶏のアルゼンチン向け輸出価格をダンピングと認定し、最低輸出価格(FOB) を設定する7月21日付け決議574/2000号を官報で公表し、翌25日から向こう3年 間有効な同決議をブラジル産丸鶏に対し適用した。 これに対しブラジルは、2001年1月24日、アルゼンチンのアンチダンピング措置 をメルコスル(南米南部共同市場)に訴え、3月7日にはウルグアイのモンテビデ オにあるメルコスル事務局内に紛争仲裁機関が設置されたが、5月21日にブラジル 側の要請を退ける裁定が下された。この間、2000年のアルゼンチン向け丸鶏輸出は 約3万6千トン、2001年は約1万8千トンと激減している。なおABEFによると、 アルゼンチンのアンチダンピング適用でブラジルの鶏肉業界は2001年末までに約5 千万ドルの損害を受けたと試算している。 ブラジル外務省によると、ブラジル産丸鶏のアルゼンチン向け輸出価格に関する ダンピング調査の際、@ブラジルの鶏肉輸出業者が提出した国内価格と輸出価格の データを用いず、CEPAなどのデータが用いられたこと、Aアルゼンチンの委託 によりブラジルコンサルタント会社が調査した国内の鶏肉販売価格には税金が含ま れているが、アルゼンチンはこの事実を無視していること、B国内における鶏肉販 売価格のうちどの価格を取り上げてダンピングと認定したのかアルゼンチン政府か らの何等の説明がないこと等、調査方法に不備な点が多々見受けられ、WTOのル ール8項目に違反しているとされている。そこでブラジルはアルゼンチンに対し同 措置の撤回を求めていたが、改善が見られないことから、2001年半ばからWTOへ の提訴準備を進め2国間協議要請に踏み切った。WTOは同年12月10日にブラジル の要請を受理したが、アルゼンチンが2国間協議を避けたことから、ブラジルは20 02年2月25日にWTOにパネルの設置許可を要請し、4月17日に設置許可された。 これまでに、WTOから2回にわたり仲裁者リストがブラジルに提示されたがブ ラジルは拒否しているため、1ヵ月たった現在でもパネル設置には至っていない。 米国の新農業法に対し批判を強める南米のリーダーを自負するブラジルが、交渉基 盤であるメルコスルの結束を自ら弱体化させるのか疑問が残るところであり、今後 のブラジルの動向が注目される。
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