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今年も好調な滑り出し見せるフィリピンの農畜産業


【シンガポール 宮本 敏行 5月23日発】フィリピン農業統計局はこのほど、20
02年第1四半期の農業生産額を公表した。これによると、穀物、畜産物、家きんお
よび水産物の主要4分野の生産がいずれも順調に増加したことから、前年同期を8.
3%上回る1,658億ペソ(約4,642億円:1ペソ=2.8円)となり、同国の農畜産業が
引き続き拡大傾向にあることが示された。4分野の総生産量の伸び率は3.8%で、
個別では穀物2.8%、畜産物3.7%、家きん5.5%および水産物5.2%となっている。

 生産額を分野別に見ると、畜産物は前年同期比5.8%増の261億ペソ(約731億円)
となった。統計局によると、豚および水牛、山羊の生産額はそれぞれ6.6%、4.2%、
5.6%と堅調に増加しており、牛(+1.7%)や酪農分野(-12.6%)が低調だったこ
とを十分にカバーしたとしている。また、家きんの生産額も、鳥インフルエンザの
発生で米国産鶏肉の輸入を一時的に禁止したことなどの影響で、同17.0%増と大幅
に増加して227億ペソ(約636億円)となった。鶏肉単独の伸びは16.2%と過去最大
を記録しており、鶏卵およびアヒル卵も26.6%、8.4%と大きな増加を見せている。

 一方、農業生産額のほぼ半数を占め、フィリピンの農業の主体である穀物の生産
額は同7.2%増の910億ペソ(約2,548億円)に達した。モンテメーヤー農業長官は、
穀物の生産がかなりの程度増加した理由として、良好な天候が続いたことに加え、
国家事業によりかんがい用地の造成が急ピッチで進んでいることを挙げている。現
在の同国のかんがい用地は、90年代前半の約2倍に当たる2万1千〜2万2千ヘク
タールに急増しており、近年における穀物の生産増の大きな原動力となっている。

 また、最近の農畜産業の継続的な発展を考える際には、米国などとの協調関係に
より、ミンダナオ島を中心としたイスラム過激派による紛争が鎮静化に向かいつつ
あることも見逃せない。フィリピンの南端に位置するミンダナオ島は、同国で随一
の農産物の生産地であり、昨年にはOIE(国際獣疫事務局)の口蹄疫ワクチン不
接種地域に認定されている。さらに、中部のビサヤ地方やパラワン島などの地域も
口蹄疫の清浄化が目前に迫っているとされており、牛肉や豚肉の本格的な輸出が現
実味を帯びるなど、今後の農畜産業のさらなる発展が期待されている。また、政府
は、近隣諸国への輸出を念頭に、ミンダナオ島をイスラム教徒が食することが可能
な「ハラル」食品の生産基地として育成していくとしており、農畜産業の発展に対
する同島の貢献度はますます高まるものと思われる。

 そうした中で農業省は、今後も成長が望める分野として養豚産業の発展に力を注
いでいくと表明している。2000年における1人当たりの年間豚肉消費量は、鶏肉の
2.3倍の16kgと国民にとって最も重要な食肉であり、今後も堅調な消費の伸びが期
待されている。本年5月下旬には、アロヨ大統領の肝いりで第11回全国養豚大会が
開催され、養豚産業の一層の振興を計るための準備も整いつつあるようだ。

 人口の半数を貧困層が占めるフィリピンにとって、農畜産業は就労機会の創出の
上で最も重要な産業分野である。農業省は、今年の農業生産額の成長率を、エル・
ニーニョなど自然災害の影響を織り込んで昨年実績の4%より低目の2.7〜3.7%に
設定した。モンテメーヤー農業長官は、第1四半期の好調な滑り出しを受け、この
目標は十分に達成可能であると自信をうかがわせるとともに、GDPの2割を占め
る農畜産業の一層の発展に意欲を示している。


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