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【ワシントン 樋口 英俊 5月23日発】米農務省(USDA)経済調査局(ER S)は最近号の「Agricultural Outlook」で、世界貿易機関(WTO)の農業貿易 交渉において最も議論の多い問題の1つであるとして、非貿易的関心事項(Non- Trade Concerns)を取り上げたレポートを公表した。 米国は非貿易的関心事項について、2000年6月末にWTOに提出した農業に関す る交渉提案の中で、@米国も食糧安全保障、資源保全、農村開発および環境保護な どを含む非貿易的関心事項に取り組む政策を支持するが、Aこれらの目的は貿易歪 曲的でない方法、すなわち国内市場の閉鎖や輸出国に不利となる不公正競争の導入 を避け、個別の事項に目標を絞り、かつ透明な政策を以って実現されなければなら ない、などと主張していた。 今回のレポートにおいても、この主張が繰り返されているほか、非貿易的関心事 項に関する米国の貿易歪曲的ではない取り組みの例が挙げられている。 まず、環境保護については、農業生産の水準を調整することなく環境への悪影響 を防止する政策の例として、@土壌浸食の防止、水質の保全および野生動植物の生 息地の改善を目的として、休耕した生産者に助成を行う土壌保全留保計画(CRP)、 A生産者に対して、技術、財政および教育支援を行う環境改善奨励計画(EQIP)、 また、B水質保全法などの関連規制プログラムに基づく、より直接的な規制措置な どが挙げられている。 また、農地の保持による良好な景観の維持については、@農地が商業用地または 居住地に転用されないように政府が土地の開発権を買い上げる、A政府が特定の地 域において農地指定を行い、他の目的に転用させない、B農地として維持されるよ う税制上の誘引を与えるなどの取り組み例も示されている。 就業機会・所得の減少や若者の流出といった農村問題については、一般的な教育 向上策、労働者教育、通信・交通・住宅などのインフラ整備、困窮地域への民間投 資に対する経済的誘引を提供するなどの取り組みが行われている。 このレポートでは、今後WTOの交渉が進み、農業保護のさらなる削減が約束さ れた場合、各国とも、米国で行われているような農産物生産と関わりのない政策へ の依存度がさらに増していくだろうと結論付けている。 一方、今後のWTOの交渉などに関連して、新農業法の成立後、米国はEUや隣 国カナダを含むケアンズグループなどから強く批判されたが、最近、ブッシュ政権 の閣僚、議会関係者などが反論を試みている。ベネマン長官も5月21日、特に外国 から新農業法に関する「雑音(noise)」が聞こえてきており、それらの中には不 当で事実を歪曲しているものがあるとして、次のとおり述べた。 1. 新農業法は農業支持プログラムを7割増加させたと主張するものがいるが、こ れは事実と言えない。過去4年間、毎年緊急追加支援措置として、約75億ドルが 支払われてきたのに対し、新農業法は毎年約74億ドル(追加支援を含まないベー スで)の増加となっており、結果として、農家への支援措置の額はおおよそ同じ である。 2. 新農業法は米国の国際貿易における立場を台無しにしているとの主張も聞かれ るが、WTO合意に基づく米国の国内支持の上限は191億ドルでEUの3分の1 以下である。また、農産物の平均関税率もEU、ケアンズグループが約30%であ るのに対し、米国は約12%である。新農業法はWTO合意に沿ったものであり、 同法にはこの上限を確実に守るための「電流遮断機(Circuit Breaker)」条項 も規定されていることから、今後とも確実に遵守される。
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