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【シドニー駐在員 幸田 太 10月31日発】 豪州農業資経済局(ABARE)は、 10月29日付けで穀物レポートの干ばつ特別号を発表した。通常同レポートは四半 期ごとに気象条件などを勘案し、穀物の収穫状況を予測している。今回は、今年 に入ってニュー・サウス・ウェールズ(NSW) 州を中心に発生し、拡大しつつ ある干ばつの影響が深刻化しているため、特別号として臨時に発刊された。 その内容は、今年9月に発行された季刊号の2002/03年度(6月〜7月)冬作穀 物(豪州における主要穀物である大麦、小麦、カノーラ、ルーピンの4品種)の 収穫予測を修正するものである。9月予測では、これら4種の穀物の収穫量は合 計で約2,000万トンであったが、今回の予想では1,480万トンと26%下方修正され た。この要因としては、豪州の主要穀物生産地帯であるNSW州北部地域やビク トリア(VIC)州北部地域で冬作穀物の作付けと成長期に当たる4月から9月 の降雨量が、今シーズンは平均降雨量の40%から60%と極めて少なかったことが 挙げられる。ABAREのフィッシャー博士は、「昨年は3,400万トンの記録的 な冬作穀物の収穫があったが、今年は運が良くても1,500万トン程度になるであ ろう」と悲観的な予想を述べている。 今回のレポートでの穀物主要生産州の収穫量は、NSW州220万トン( 昨年比 ▲76%)、VIC州150万トン(同▲68%)、南オーストラリア州410万トン(同 ▲50%)、西オーストラリア州630万トン(同▲42%)と前年に比べ大幅に減少す る予測となっている。 フィッシャー博士は、現時点での干ばつの影響被害を豪州の 2002/03年度の経 済成長率について0.7%(約54億豪ドル(約3,780億円:1豪ドル=70円))を引き 下げると推計した。 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA) によると、肉牛生産者は家畜の飼料用穀 物を昨年はおおむね1トン当たり200豪ドル(約14,000円)で確保できていたが、 今年10月の平均で同350豪ドル(約24,500円)と急上昇した。特に大麦やソルガム の値上がりが深刻である。とりわけフィードロット産業では、価格の急上昇によ って、小規模経営では肉牛の導入を中止せざるを得ないとコメントしている。 また、報道によると、VIC州の酪農主産地であるゴールバーン地方では、豊 富なかんがい用水の利用し牧草地を維持管理していたが、干ばつの影響でかんが い用水の使用制限などにより牧草の生育が阻害され、外部からの乾牧草などの飼 料購入を余儀なくされている。この地方の酪農生産者は乳牛の淘汰で対処してい るものの、生乳生産量が30%も減少しており、この先さらに状況が悪化する可能 性も示唆されている。VIC州の協同組合デイリーファーマーズの試算によると、 現時点でこの地域の酪農家1戸当たりの平均収入は約14万豪ドル(約980万円)の 減収が予想されている。 さらに、オーストラリアン・ポーク・リミテッド(APL)によれば、各州政 府で干ばつによる被害に対し、主に肉牛や羊が対象に緊急支援措置が取られてい るが、肉豚については補助対象とはなっていない。APLは、豪州の養豚産業は 経営コストの7割近くを飼料費が占めており、干ばつによる飼料価格の高騰は非 常に影響が大きいため、トラス農相に支援を要請している。 豪州では、これから夏を迎え降雨量が減少し、さらに気温が上がり乾燥は続く ことが予想され、今後干ばつが長引けば、豪州経済へ悪影響をおよぼすとみられ ている。
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