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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 10月31日発】 タイでは現在、豚肉の国内消 費の増大と輸出拡大を図るため、生産から流通まで幅広い分野にわたり、オーガニ ック・ポーク・プロジェクトと呼ばれる豚肉の品質向上への取り組みが進められて いる。近年、人々の豚肉の安全性に対する関心は次第に高まっており、この試みは 消費者や業界関係者の支持を受けつつある。同プロジェクトの全容はいまだ明らか ではないが、現在、判明している範囲で紹介する。 タイの養豚現場では、農業協同組合省により、安全性の高い肉豚を生産する認定 農家の選定準備が始まっているとされている。認定されるには、衛生管理、経営管 理および環境保全などについての証明を同省に受けなければならないとされており、 同省は、各地に普及センターを設立し、将来的には、認定農家の割合を全体の2割 にまで増やしたいとしている。また、500頭以上の豚を飼養する中堅以上の養豚農 家に対しては、すべてが認定農家としての要件を満たすべきとしている。 また、同省は、プロジェクトの一環として、バンコク市内の量販店およびウェッ ト・マーケット(伝統的な対面販売市場、食肉は常温で流通)における豚肉流通の 改善計画を策定している。その骨子は、生鮮豚肉を販売する小売店に対して、豚肉 の品質劣化を防ぐため、売り場に冷蔵庫の設置を義務付けるものとなっている。同 省は、バンコク市内に点在する 163ヵ所のウェット・マーケットの内、43ヵ所をパ イロット市場に選定し、オーガニック・ポークの定着を図りたいとしている。将来 的には、タイは東南アジアではシンガポールに次いで小売店に冷蔵庫の設置を義務 付ける国となる可能性もある。 同省は、こうした措置に取り組む背景として、政府に対する消費者からの安全性 の高い豚肉の供給の要望が年々高まっていることを挙げている。今年の6月上旬に は、「生産地から食卓まで」と題した豚肉の安全管理セミナーがバンコク市で開催 されたが、400人を超える養豚関係者や市民が参集し、豚肉の安全性に対する人々 の関心の高さをうかがわせた。 タイが高品質豚肉の生産・流通を急ぐ背景の一つとして、新たな輸出市場の模索 が挙げられる。現在、タイが肉豚および豚肉を輸出している国は極めて限られてお り、香港向けに肉豚を1日当たり約25頭、ブルネイ向けに豚肉を1週間当たり約25 トン輸出しているに過ぎない。農業協同組合省は、タイは口蹄疫の発生国であるが、 将来的にEUなどへの豚肉輸出が可能となった場合を想定して、同プロジェクトに 動物福祉などのプログラムを加える必要があるとしている。 また、一部のと畜加工場の衛生観念が希薄であり、今なお非衛生的な豚肉生産が 行われているという問題点も指摘されている。特に、地方に所在すると畜加工場に は古いものが多く、衛生面への配慮が十分に及んでいないとされる。タイをはじめ とするアセアン各国は、2003年早々に発効が予定されているアセアン自由貿易圏 (AFTA)構想をにらんで、流入する安価な畜産物に対抗すべく自国の畜産物の 品質向上に努めているが、この例が示すように十分に準備が整いつつあるとは言い 難い。 養豚業界は、オーガニック・ポークの生産から流通までに費やされるコストは、 従来の豚肉より2割上昇すると試算している。こうしたコスト増により、一部の生 産者や流通業者の反発も予想され、同プロジェクトの先行きは不透明である。
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