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【シドニー 粂川 俊一 9月26日発】 豪州では9月9日から13日までの1 週間にわたって、口蹄疫発生を想定した机上の模擬演習、「ミノタウロス演 習」(ミノタウロス:ギリシア神話における人身牛頭の怪物)が実施された。 これは、昨年7月の豪州政府評議会(COAG)でその実施について合意さ れ、今年3月にその計画が公表されていたものである(平成14年4月30日海 外駐在員情報参照)。また、今回の演習に先立つ5月には、発生時の隔離措 置や内外の貿易・取引問題の責任分担体制などを検証するために、ミニ演習 も実施されていた。 今回の演習は今まで豪州で実施されたこの種のものとしては、最大規模と され、連邦や州・準州政府、業界代表団体などから1,100人以上が参加した。 演習のシナリオは、口蹄疫がクインズランド州南東部ボゥデザート近郊の 農家で発生し、ニューサウスウェールズ(NSW)州北部に広がった後、患 畜の運搬車両を通じてビクトリア州にまで拡大。最終的に、感染農場が454 戸、殺処分家畜が822,504頭という大規模な発生を想定したものとなった。 演習の初日と2日目においては、主に最初の撲滅と制御行動に関する意思 決定プロセスが試され、3日目以降は、貿易・取引上の問題や影響の緩和に 関する問題に焦点があてられた。 演習では、主要な輸出市場が豪州産食肉の輸入を禁止したり、人間には影 響がないにもかかわらず国内の食肉消費が1週間で30%も減少するなどのよ うな、さまざまな仮想情報にも対応した模様である。 また、NSW州の情報連絡センターや業界団体で、シナリオでは想定され ていなかったコンピュータの故障が実際に起きたため、代替通信システムと して電話やファクシミリを使わざるを得なかったような事態が起きたことも 報道されており、机上の模擬演習であっても、緊急時の連絡手続きなどは現 実に即して実施されたことがうかがえる。 連邦政府のトラス農相は、この演習の終了に際して、「今後の豪州家畜産 業にとって非常に価値あるもので、豪州が家畜疾病対応への国際的な水準を 確立するために有効であった」としており、演習の成功と、参加者の取り組 みに対するプロ精神や真剣な態度に対して満足の意を表している。 また、同農相は、今回の演習が、各政府間の意思決定に焦点を合わせて実 施されたものであったため、現実の家畜疾病に対する迅速で効果的な対応に は、疑わしい兆候を報告する農家の行動が不可欠であることから、個々の農 家に非常に大きな役割があると強調している。 総じて演習の目的は達成されたとみられているが、一部には、模擬演習と しては大規模なものであったものの、ワクチン接種の実施時期や場所、殺処 分された家畜の処理、野生動物による疾病の拡大など、未解決あるいは検証 されていない問題が多く残っているという意見もあるようだ。 なお、この演習に関する報告は、今年11月のCOAGの会議で実施される 予定である。
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