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【シンガポール 宮本 敏行 9月26日発】 インドネシアのブロイラー産業は、 90年代後半の経済危機の影響で、一旦は再生不可能かと思われるレベルにまで規 模が縮小した。99年のブロイラーの飼養羽数は3億2,400万羽に落ち込み、経済 危機の影響が現れる直前の97年の6億4,100万羽からほぼ半減した。しかし、鶏 肉は同国で最も好まれる食肉であることから産業の再構築が急がれ、2001年には 5億2,400万羽(予測値)にまで回復するなど力強い復活を遂げつつある。 こうした中、同国では初生ひな価格が急騰し、ブロイラー業界に今後の鶏肉価 格への影響を懸念する声が広がっている。首都ジャカルタに隣接し、同国最大の 養鶏地帯である西ジャワ州の8月の初生ひな価格は、1羽当たり 3,200ルピア( 約48円:100ルピア=1.5円)となり、7月と比較して77.8%もの大幅な上昇を記 録した。インドネシア養鶏農家協会(PPUI)や全国養鶏農家協会(PPAN) などの生産者団体は、これは大規模インテグレーターが意図的にひな価格を操作 した結果であるとして、寡占化を急速に進める大企業が自らの利益のみを追求す る姿勢に遺憾の意を表明している。また、これらの団体は、一般の養鶏農家の平 均飼養羽数は約 2千羽であり、そうした小規模農家の経営コストにおけるひなの 損益分岐点は 1,600ルピア(約24円)前後であることから、一刻も早く妥当な価 格でひなの供給を行うよう求めている。 これに対し、大規模インテグレーターで作る鶏飼養者協会(GPPU)は、現 在のひな価格は純粋な需給バランスの下で形成されているとして、価格操作への 関与を否定する姿勢を崩していない。同協会は、鶏肉の国内需要が急増する一方、 初生ひなの供給は現在のところ、1週間当り2,500万羽が限界であるとしている。 また、大規模インテグレーターは近年、傘下の契約農家との関係強化を進めてお り、そちらに優先的にひなを供給せざるを得ないため、一般の小規模農家へ供給 できる羽数の減少を避けることは困難になりつつあると弁明している。 さらに、ひな需要を増大させる一因として、最近は日本をはじめとした海外へ 鶏肉を輸出する企業が現れ始めていることが挙げられる。こうした企業は、近年 の世界的な鶏肉の需要増を背景に鶏肉生産を拡大する動きを見せており、このこ ともひな価格の高騰に一層拍車をかけているものと思われる。 ひな価格の高騰が長期化する事態を防ぐため、PPANは種卵の輸入に踏み切 る動きを見せている。種卵の輸入価格は1個当り0.16ドル( 約20円:1ドル=125 円)で、ふ化に係るコストを勘案しても、採算が確保できると試算されている。 また、西ジャワ州政府も、通関時検査の迅速化など種卵の輸入をサポートする体 制を早急に整えていくことを表明している。 しかし、業界の一部からは、種卵を輸入しても、ひなの供給までに一定の時間 を要すことから、現状を打開する切り札にはなり得ないとの悲観的な意見も上っ ている。また、小規模農家の多くから、今回の初生ひなの価格高騰に対する政府 の関与の希薄さが指摘されている。このため、PPUIをはじめとした生産者団 体は、ひな価格を米やガソリンなどと同様に政府のコントロール下に置くことを 要望している。生産者団体は、現在の状況が続けば15〜20%の小規模農家が淘汰 されるとして、ようやく実現されつつあるブロイラー産業の再生を後退させない ためにも、政府による力強いイニシアチブを求めている。
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