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【ブエノスアイレス 犬塚 明伸 9月18日発】アルゼンチンでは口蹄疫撲滅のため、 2002年8月から第2回口蹄疫ワクチン接種キャンペーンが始まっており、おお よそ12月中旬に全頭接種が終了する見込みである。しかしながら、アルゼンチ ン農畜産品衛生事業団(SENASA)は、2001年4月のキャンペーンから実施して きたワクチンの無料配布を購入資金不足のため、今回のキャンペーンから取り やめた。これにより、口蹄疫の再発を懸念する声が高まっている。 90年代から SENASA管理の下、全国に約300ある生産者団体等がワクチン接種 を実行してきた。おおよそ牛20万頭ごとに地域の畜産に造詣の深いコーディネ ーター(獣医師が就任)1人とワクチン接種技術者8人が実行部隊として組織 されている。また実行部隊の他には、接種計画の立案や管理などを行う委員会 がある。SENASAには、この生産者団体がワクチン接種の進ちょく状況を報告す ることになっている。ちなみに、ワクチン接種実施の注意事項として、アルゼ ンチンでは、牛の移動が許可されるのは、ワクチン接種後180日間であるため、 その有効期限が間近に迫った農場や牛群から接種することがある。 今回のキャンペーンからワクチン代金と接種経費は生産者が負担することに なり、ワクチン代金の決済に要する日数で代金は多少異なるものの、生産者団 体までの送料込みでおおよそ1投与当たり0.31ドル(約37円:1ドル=120円) で供給されることになった。これに伴い、生産者が負担する額は、1頭当たり 1.8ペソ(約59円:1ペソ=33円)前後となっている。生産者が負担する経費に は、ワクチン代金、ワクチン接種経費、事務運営費、小規模生産者の経費回収 不能分、SENASAへの分担金、ワクチン代金納入遅延を想定した利子分などが含 まれる。また、生産者団体によっては、将来実施されるであろうブルセラ病撲 滅対策費を上乗せしているところもある。 去る8月15日に辞任した農牧水産食糧庁のデルペッチ長官辞任の理由の1つ に、口蹄疫ワクチン接種体制を改正しようとしたことが挙げられている。90年 代前半までは獣医師が口蹄疫ワクチンを製造会社から購入して生産者団体に配 布していた。しかし、90年代後半からワクチン製造会社との交渉力が強い生産 者団体が直接購入する形態に変更された。デルペッチ前長官はアルゼンチンに 1社しかない製造会社から生産者団体が購入する現行制度を改め、以前獣医師 が購入していたような個人についても自由に購入できるシステムとすべきであ るとしたが、生産者団体は、個人では巨大な製造会社と交渉できる訳がなく、 製造会社が提示する価格になってしまうことを恐れた。生産者の間では、ワク チン接種に係る生産者負担のメルクマールとして、去勢牛生体1キログラム当たり の価格が妥当だと考えられていたが、価格交渉の結果、ワクチン代金が抑えら れ、生産者負担は 1.8ペソ 前後となり、8月時点の去勢牛生体1キログラム当たり 価格、約2ペソ(約66円)を下回ったことから、現行制度は生産者にとって有利 に働いたことになった。 しかしながら、現在、ワクチン製造がビオヘネシス社1社のみの独占となっ ている問題が解決されたわけではない。SENASAには、現在他に3社がワクチン 製造許可を申請中であり、2003年上半期にはそのうちの2社であるルタセイス 社、サニダッドガナデラ研究所が許可される見込みであるが、それでもビオヘ ネシス社のシェアは80%を下らないであろうと関係者の間では推測されている。 こうした中、ブラジルで開催されたメルコスル農業協会連盟(FARM)の会議 では、「メルコスル地域内のいずれの国も他の加盟国の承認なしにワクチン接 種を中止することのないよう、それぞれの政府に連携するよう働きかけること 。」が決議された。 アルゼンチンにおける口蹄疫ワクチンの接種中止という事態はひとまず避け られたように見えるが、99年に口蹄疫ワクチン接種を中止した時点よりもウイ ルス活性は低く、家畜衛生に対する意識の低い生産者からはワクチン接種の継 続を疑問視する声も挙がっていることから、第2回ワクチン接種キャンペーン が無事終了するか注目されるところである。
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