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苦肉の豚肉廉売に消費者殺到(マレーシア)


大安売りに消費者殺到
  例年、旧正月(2月初旬)前の2週間ほどの期間は、国民の約3割を占める中国
系住民の豚肉に対する需要が急増する。しかし、今年は、小売価格が下落してい
ないこともあって、消費者の購買意欲が低調に推移している一方、需要の高まり
を当て込んだ生産増加により、供給過剰に陥っている。このような状況を打開す
るため、クアラルンプール近郊スランゴール州のクアラ・ランガット豚生産者協
会は、1月15日から3日間、豚肉の大安売りを行った。この時期に安売りを行うこ
とで豚肉需要を刺激し、成豚の滞留が緩和されることを期待したものである。

  この大安売りでは、3キログラム当たり10リンギ(316円:1リンギ=31.6円)
で販売され、通常の市場価格の半値とあって、用意された3トンの豚肉はわずか1
時間半で完売した。当日安売りされた豚は生体重120キログラム程度にまで達し
ており、実際には市場でダブついたデッドストックを処分するという意味合いの
ものであった。


生産者団体と流通業界との対立

  こうした過激な販売促進キャンペーンが生産者団体主導で行われる中、流通業
界関係者からは、行き当たりばったりの安売りキャンペーンは市場価格の混乱を
引き起こすだけであるとの批判の声も上がっている。10月以降の供給過剰と価格
の低迷は、フェスティバルシーズンの需要の増加を見越した養豚農家の無統制な
生産拡大に起因しており、やみくもな廉売キャンペーンは豚肉価格の設定に対す
る不信感を産むだけだとして、流通業界は、これを激しく非難している。


豚肉価格の低迷

  このような非難に対して、マレーシア畜産農家協会連合(FLFAM)は1月20日、
「生産者価格の下落と生産コストの上昇により、多くの養豚農家が離農の危機に
直面しており、生産者価格の引き上げには、小売価格の引き下げによる需要喚起
が不可欠である」としている。

  2002年9月ごろまでの豚肉の農家販売価格は生体重100キログラム当たり430リ
ンギ(約13,590円)前後で推移していたが、10月以降価格が低下し、1月の推計
価格は同250〜270リンギ(7,900円〜8,530円)にまで落ち込んでいる。現在、
豚肉の生産コストは、同360リンギ(約11,360円)程度であることから、生産者
段階では逆ザヤが生じている。一方、小売価格は生産者価格ほどの下落傾向を示
していない。
 


輸入削減と生産調整

 FLFAMは、三段階の生産調整を行う必要性を説いている。第1は、子豚の出荷促
進であり、これについては既に12月以来、月平均2万頭を出荷することで生産者
協会の同意を得ており、計画ではこれを6ヵ月間続けるとしている。第2は、農場
での母豚の頭数調節であり、現在3〜4万頭の過剰母豚が存在するといわれている
が、こちらは淘汰計画が始まったばかりである。第3に、出荷時期を迎えた肥育
豚の販売促進が挙げられる。   

  FLFAMは、1月18日に開かれた養豚部門全国集会の中で、特に出荷日齢の過ぎた
成豚については豚肉価格が回復するまで随時販売促進のための安売りを続けるこ
とを決議した。 
 
  このように生産者団体と流通業者団体間の対立は現在のところ妥協点を見出せ
ておらず、業界再編を目指す同国の養豚業界の混迷を端的に示している。

 
【シンガポール駐在員 木田 秀一郎 2月5日発】 

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