ALIC/WEEKLY
BSE検査頭数は前年の3倍の約2万頭
ベネマン農務長官は1月15日、今後も BSEの国内への侵入を防ぐため、米国 政府がこれまで講じてきた対策を見直し、必要な追加的規制について検討を行 っていく考えをあらためて明らかにした。これは、2001年11月公表のハーバー ド大学による危険性評価報告書の指摘に沿ったものであり、今回、特にベネマ ン長官は、サーベイランスの強化として、2002年度(2001年10月〜2002年9月) のBSE検査頭数が前年度の3倍以上の19,990頭に達したこと(この水準は国際 獣疫事務局(OIE)が定めたBSE清浄国の基準検査頭数の41倍に相当するもので あること)を強調した。 現在、米国における検査は、農場などにおいて神経症状を呈した牛や歩様異 常牛を中心に行われ、特に、歩様異常の老齢牛の発見に力を入れていることが 近年における検査頭数の急増の理由であるとUSDA動植物検査局(APHIS)は述 べている。全米の年間牛と畜頭数は約3,500万頭であるため、単純に言えば2002 年度の検査頭数はそのわずか0.06%にしか過ぎないと見る向きもあろうが、と 畜頭数の9割近くは去勢牛(米国では20カ月齢未満が主体)や未経産牛などに よって占められており、「最も疑わしい牛に焦点を絞った効率的な検査方法」 というのがAPHISの公式見解である。 連邦政府による相次ぐ対策強化の動き ハーバード大学の報告では、いったんBSEが米国内に侵入した場合に、人に 危険を及ぼしたりBSEをまん延させる経路として、@食品医薬品局(FDA)の 飼料給与規則(反すう動物へのほ乳動物由来たん白質の給与禁止)違反、A 高危険部位(脳や脊髄など)の食品への使用、B農場での死亡獣畜のレンダ リング仕向けおよびそのレンダリング産品の反すう動物への給与、という3 つ可能性が指摘されている。 このうち@とAに関しては、既報のとおり、昨年1月のUSDA食品安全性検 査局(FSIS)による追加的規制に関する政策オプション・ペーパーの公表や 、同11月のFDAによる飼料給与規則強化のためのコメント募集といった「次 なる手」が打たれ始めたところである(1月15日のベネマン長官の見解表明 に合わせてFSISは、牛のと畜時における特定のスタンニング(失神)方法を 禁止する最終規則を今年3月までに、先進的食肉回収システム(AMRS)に関 する最終規則を今年12月までにそれぞれ確定させる意向を示している)。 APHISも死亡牛の処分方法について一般からのコメント募集を開始 こうした動きの中でAPHISは1月21日、上記Bの指摘に対応する形で、死 亡牛や歩様異常牛の処分を制限するための方法について、一般からのコメン トを今年3月24日まで募集する旨を官報に公告した。 現在米国では、農家において死亡した獣畜の食用仕向けは禁止され、一般 的に、レンダリングやペットフード製造のため売却されるか、埋却・焼却処 分などがなされている。一方、歩様異常牛については、と畜施設においてFS ISの獣医師検査官が中枢神経系異常などの臨床症状を確認した場合には食用 仕向けが禁止されることとなっている(逆に言えば、FSISの臨床検査に合格 した歩様異常牛が食用に回ることもあり得る)。こうした実態を踏まえ、今 回APHISは、 (1) 死亡牛などによるBSEリスク低減のためにはどのような処分方法が望まし いか(この場合のコスト負担のあり方や、政府の役割などをどのように 考えるか) (2) 歩様異常牛をと畜施設に出荷する前に殺処分するための現実的な方法は あるか(この場合のBSE検査のサンプル採取はどのようにして確保され るのか) (3) レンダリングは死亡牛の安全な処分のための効果的な手段たり得るのか といった質問に対する回答を求めている。 なお、2002年農業法では、農務長官が歩様異常獣畜の扱いや処分に関する 実態調査を行い、その結果を連邦議会に対して報告しなければならないこと とされているが、これはBSE防止ではなく動物福祉の観点から盛り込まれた 規定である。
【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 1月23日発】
元のページに戻る