ALIC/WEEKLY
新型肺炎の影響による消費減が深刻化
マレーシア畜産農家協会連合(FLFAM)によれば、消費者の重症急性呼 吸器症候群(SARS:サーズ)への懸念からファースト・フードなどの外食 産業が不振となり、4月のブロイラーの供給は消費量を20%程度上回る過 剰となっている。マレーシア半島部諸州のブロイラー生産量は1日当たり 約100万羽であり、このうち約10%に相当する約10万羽がシンガポールへ 輸出されている。サーズの影響でシンガポールのブロイラー需要が落ち込 んでいると見られ輸出量が減少し、シンガポールからの旅行者も大幅に減 少しているのに加え、マレーシア国内でも特に都市圏で外出をひかえる動 きが加速しており、1日当たり約20万羽の供給過剰に陥っている。現状で はサーズの影響がどの程度続くか予想ができないため、FLFAMはブロイラ ー農家に対し、無期限での20%生産削減を呼びかけている。 生産者価格の下落により経営破綻の懸念 供給過剰の影響により、ブロイラーの農家出荷価格も急速に低下してお り、FLFAMが需給状況を検討して毎週公表する指標価格は4月初めに生体 重1キログラム当たり2.8リンギ( 約87円:1リンギ=31円)だったもの が、4月中旬以降は同2.3リンギ(約71円)にまで下落している。このよ うな指標価格があるにもかかわらず、供給過剰感からこれを下回った価格 で出荷する農家が相次いでおり、価格下落に拍車をかけるかたちとなって いる。首都クアラルンプール周辺や南部の同国第2の都市であるジョホー ルバル周辺では直近で同1.7リンギ(約53円)まで下落しているという情 報もある。 FLFAMは、現在の指標価格の水準におけるブロイラー農家の損益を1羽 当たり1.2〜1.5リンギ(約37〜47円)の損失と推計しており、現状が長引 けば農家の経営破綻につながるとしている。同国のブロイラー生産費は近 隣諸国に比べて高いため、供給過剰分を輸出に仕向けられないという問題 があり、同国にあるEUの輸出認定を受けた処理場についても、国産鶏の処 理が認められていないことから、減産による対応しか残されていないのが 現状である。 小売価格の引き下げで需要喚起 ブロイラーの農家出荷価格は下落しているものの、差益がミドルマンと 呼ばれる中間業者に吸収されており、小売価格は1キログラム当たり3.95 リンギ(約122円)でほとんど変化していないことから、FLFAMは農家によ る直接販売などによって小売価格を引き下げ、一時的に需要を刺激し、現 在の供給過剰分を一掃する必要があるとしている。 一方、豚肉販売業協会によれば、需要減と価格下落に苦しむブロイラー とは対照的に、これまでのところ豚肉の販売量・価格はサーズの影響をほ とんど受けていない。このような違いは、シンガポールが97年のウイルス 性脳症発生以降、マレーシア産豚肉を輸入禁止としており、シンガポール の需給変動の影響を受けていないことに加え、消費形態も家庭での調理が 中心となることが主な要因となっているものとみられる。 【シンガポール駐在員 小林 誠 5月14日発】
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