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WTO協定に基づく2国間協議を要請 米国通商代表部(USTR)と米国農務省(USDA)は5月13日、欧州共同体 (EU)が1998年以降遺伝子組み換え体(GMO)新規認可を停止しており、実質 的にその栽培および輸入を禁止するもので、不当な貿易制限となっているとして、 アルゼンチン、カナダ、エジプトとともにWTOにおける紛争解決に持ち込んだこ とを明らかにした。 米国等は、EUの措置を衛生植物検疫措置が科学的根拠に基づくこと等を求める WTO・衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)等に整合していない としてWTO協定に基づく2国間での協議を求めている。豪州、チリ、コロンビア 、エルサルバドル、ホンジュラス、メキシコ、NZ、ペルー、ウルグァイの9カ国 が関心国として本件協議に第三国として参加する。 米国等の指摘は事実無根とするEU EUは、1998年以降、GMOの新規認可が停止したのは、GMO技術の革新に対 しEUの規則が不完全であったためであり、新規則は既に2002年10月より施行され、 これに基づく承認手続きが進められており、米国等の指摘は事実に基づかないとし ている。 また、現在EUが規則の制定作業を進めているGMO表示およびトレーサビリテ ィーについて、消費者に対して伝統的な農産物と新技術による農産物を自ら選択す る機会を与えるものであり、科学的根拠に基づくもので貿易的問題を助長するもの ではないとしてWTO協定に整合するとしている。 パネル設置は必至か ベネマン農務長官は、「GMOは生命工学により農業者が収穫を増やすのみなら ず、農薬の使用削減、土壌の保全や水質汚染の改善、世界の飢餓や貧困の削減の一 助となっており、EUの措置はWTOの責務を逸脱している」としている。他方、 EUのラミー貿易担当欧州委員は、「GMOの新規認可そのものは過去にも行われ 、現在も認可の過程は前進している。EUの措置はWTO協定に整合している」とし ており、米国にパネル設置要請の権利が生ずる60日以内に2国間での話し合いに より本件を解決することは困難であると考えられる。 科学を前提とする米国と消費者の関心への対応を求めるEU 米国とEUはEUの成長ホルモン使用牛肉の輸入禁止措置をめぐりWTO紛争解決 機関に判断をゆだねたが、1998年にEUの措置には科学的根拠がない等として措 置の是正が勧告された。しかし、EUは現在でもこの措置の一部を継続している。 米国とEUとの間では、GMO表示やトレーサビリティーをめぐっても2国間問 題としてこれまで議論がなされており、GMOの扱いを巡っては本件に限らず大 きな隔たりがある。 今回の背景には、科学を一義とする米国と科学のみでは安全性への懸念を必ず しも払拭し得ないとするEUとの間での食品の安全性に対する消費者の思想の相 違があると考えられる。 【ワシントン駐在員 犬飼 史郎 5月14日発】
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