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2004年の10大ニュース


ブリュッセル駐在員事務所【関 将弘、山崎 良人 】

1.EUが25カ国体制へ拡大
 
 5月1日、中東欧など10カ国がEUに加盟し、25カ国体制となった。新規加盟国の食肉加工施設
や乳業施設などの食品加工施設のうち、既にEUの基準に適合している施設および2003年4月に署
名された加盟条約(Accession Treaty)で移行期間が認められている一部の施設は加盟以降も生産
を続けられるが、それ以外のものは、加盟後生産ができない。これに対し、EUのフードチェーン
・家畜衛生常設委員会は4月15日、EU基準に適合させるための移行期間を新たに認める食品加工
施設の追加承認を行った。


2.EU、WTO交渉に向けWTO加盟国へ書簡を送付

 欧州委員会のラミー委員(通商政策担当)とフィシュラー委員(農業および農村開発・漁業担当)
は5月9日、世界貿易機関(WTO)交渉にはずみをつけるため、全WTO加盟国に、EUはすべ
ての輸出補助金を撤廃する用意があることなどを内容とする書簡を送付した。この書簡において、
輸出補助金の撤廃は、すべての形態の輸出競争措置について各国が同様の措置を採ることなどが必
要であるとしている。その後8月1日、WTO一般理事会において、ドーハ開発アジェンダの枠組
み合意文書が採択された。


3.欧州委員会、GM作物の販売を約6年ぶりに認可
 
 欧州委員会は5月19日、遺伝子組み換え(GM)スイートコーンBt11の域内での販売を認可し
た。今回の決定によりEUでは1998年10月以来、約6年ぶりにGM作物が認可された。EUではG
M作物の認可再開に向け、EUのフードチェーン・家畜衛生常設委員会での審査、農相理事会での
議論を行ってきたが、欧州委員会の提案について加盟国によって意見が分かれていたことなどから
本年4月の農相理事会でも結論が出なかった。このようなことから、欧州委員会に最終判断が委ね
られていたものである。その後EUでは、スイートコーンBt11のほか、トウモロコシNK603な
どを認可している。


4.牛肉の消費回復によりEUの牛肉介入在庫量ゼロに
 
 EUの牛肉介入在庫がゼロになった。EUでは、2000年末の牛海綿状脳症(BSE)問題の再燃
により、牛肉価格が著しく下落したため、牛肉価格の回復を目的として、2000年12月から牛肉の介
入買い入れを実施した。この買い入れによる在庫量は、2001年末に最大となる26万トンとなった。
2002年当初からEU域内の牛肉市場が好転したことから、2002年6月以降、介入在庫からの牛肉の
売却が行われていた。このように、EU15カ国の牛肉消費量は回復する一方、EU15カ国での牛肉
生産量は減少しており、これまで牛肉の自給率が100%を超えていたEUも、2003年には牛肉の純
輸入地域となっている。


5.フランス、イギリスのBSE対策を一部変更

 フランスでは、7月1日から食用に供される健康な牛のBSE検査の対象月齢を「24カ月齢以上」
から「30カ月齢以上」に引き上げた。EUの規則(EC/999/2001)では、食用に供される健康な
「30カ月齢以上」の牛は全頭BSE検査が義務付けられているが、EU15カ国のうちフランス、ド
イツ、イタリア、スペインの4カ国では、EU規則よりも検査範囲を拡大し、「24カ月齢以上」の
健康な牛を検査対象としていた。
 一方、欧州食品安全機関は5月12日、イギリス政府が実施した「BSE中リスク国」という評価
は統計学的に正しいものであること、イギリスが実施している30カ月齢以上(OTM)の牛の処分
対策の廃止を認めることなどの見解を併せて発表した。その後、イギリス環境・食品・地域省は12
月1日、OTM牛の処分対策の廃止に向け、段階的にBSE検査システムへの移行を実施すること
を発表した。


6.新欧州委員会始動

 バローゾ新欧州委員会委員長による新しい欧州委員会が11月22日より始動した。これまでのプロ
ディ委員長体制の任期が10月末であったため、11月1日からの始動に向け欧州議会によるヒアリン
グなどを実施してきたが、途中、不適とされた委員候補がいたことなどから、バローゾ委員長は欧
州議会への承認決議を辞退するという一件もあった。農業・農村開発担当委員はフィッシャー・ボ
エル女史、保健・消費者保護担当委員はマルコス・キプリアヌ氏、通商担当委員はピーター・マン
デルソン氏となった。なお、フィッシャー・ボエル委員の今後5年間の最優先事項については、共
通農業政策(CAP)改革の目的を達成することであるとしている。


7.東南アジア、米、カナダ産の鶏肉などの輸入を一時停止

 欧州委員会は1月23日、タイにおいて鳥インフルエンザの発生が確認されたことから、家きん肉
などの輸入を一時停止した。その後、発生が確認された東南アジア諸国、中国、韓国、日本からの
家きん肉などの輸入も一時停止し、現在も継続している。また、北米、カナダでの鳥インフルエン
ザの発生が確認されたことを踏まえ、同地域からの輸入を一時停止した。同地域での発生は、地域
が特定されていることから、発生のあった地域に限定した輸入の一時停止措置を実施した。同地域
からの輸入の一時停止措置は、その後の発生がみられなかったため、終了している。


8.EU農相理、動物輸送に関する規則案に合意
 
  EUの農相理事会は11月22日、2003年7月の欧州委員からの提案を受けて、これまで議論を重ね
てきた欧州での動物輸送に関する規則を根本的に改正する規則案に合意した。提案に先立って欧州
委員会は、動物福祉の観点から、動物の長距離輸送に関する管理の強化、輸送時間および輸送時の
動物密度の削減などこれまでの規則をさらに厳しくするための検討などを行ってきた。今回の合意
では、長距離輸送トラックへのナビゲーションシステム搭載の義務化、運転者および同行者の技術
の向上、詳細な輸送記録による責任の明確化が主な追加項目となっている。また、議論の中心とな
っていた動物の輸送時間と輸送時の動物密度についての改正は今回見送られた。


9.豚肉価格、輸出補助金を3年半ぶりに一時再開
 
 欧州委員会は1月27日、豚枝肉などに対する輸出補助金の一時再開を決定した。豚枝肉などに対
する輸出補助金は、2000年6月以来約3年半ぶりとなった。輸出補助金を導入した背景には、@ユ
ーロが米国ドルに対し非常に強い状態となっていること、A域内の豚肉需要が停滞していること、
B昨年夏の猛暑による影響で飼料穀物の価格が上昇していること−があった。輸出補助金の一時再
開前の、12月中旬には、豚肉の民間在庫補助(APS)の導入を決定し、実施していたが、豚肉価
格の下落を止めることには寄与したが、好転させるには十分ではないとして、欧州委員会は、今回
の輸出補助金の再開に踏み切った。


10. 生乳クオータ9カ国が超過

 欧州委員会は10月1日、2003/04年度(4〜3月)のEU加盟15カ国の生乳供給量の速報値を公
表した。これによると、生乳生産割当枠(クオータ)に対する生乳供給量は、108万9,324トン超過
し、これに伴う課徴金が3億8,809万ユーロ(約535億6千万円:1ユーロ=138円)となった。出
荷クオータについてみると、EU全体ではクオータ1億1,778万トンに対し、生乳供給量は1億
1,831万トンと約53万トン超過した。加盟国別にみると、9カ国が超過し、イタリアは1995/96年度
以降毎年クオータを超過している常連国となっている。なお、「直接クオータ」ついてみると、E
U全体として、生乳供給量がクオータを超過していないが、国別にみると、3カ国が超過した。




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