ALIC/WEEKLY


2004年の10大ニュース


シンガポール駐在員事務所【 斎藤  孝宏、木田  秀一郎】

1.タイの高病原性鳥インフルエンザ発生に撲滅対策を強化

 アジア全域で猛威を振るった高病原性鳥インフルエンザ(主に血清亜型H5N1:以後鳥インフル
エンザ)は、日本政府によるタイ産鶏肉の一時輸入停止措置の発表後、1月23日付けでタイがバンコ
ク近郊採卵鶏農場における発生確認を報告した。タイでは各国の輸入停止措置により一時的に製品の
販路の大部分を失うこととなった。政府は鳥インフルエンザに対し予防的なとう汰や発生監視強化や
業界への補償対策を行った。また、発生のリスクが高まるとされる乾期の前の10月に、鳥インフルエ
ンザまん延防止対策として全国6カ所に病理検査施設を新設するなど、1カ月間集中対策を行った。


2.アジア各地で鳥インフルエンザ再発

 7月上旬以降、アジア各国から相次いで鳥インフルエンザの再発が報告された。国際獣疫事務局
(OIE)に対する報告によるとベトナム南部で6月下旬再発を確認、7月1日付で報告されたのち、タ
イでは7月7日に中部アユタヤ県などで再発と報告された後、以後全国で発生が散発した。8月4日付
で報告されたインドネシアにおける再発は東ジャワ州を中心に6月下旬以降発生していたとされるも
のだった。また、マレーシアでは8月19日、タイ国境ケランタン州で初めて発生を確認している。


3.ASEAN地域のFTA交渉活発化

 ビエンチャンで11月末に開催されたASEAN首脳会合では、日本とASEANとの包括自由貿易
協定(FTA)が来年4月から交渉開始、2年以内の自由化完了目標が示された。個別では日本とフィ
リピンとのFTAが大筋合意に達し、鶏肉などの輸入割当枠の設定などで合意した。その他タイ、マ
レーシアとのFTA協議が進められるなど、各種協議が活発化している。ASEAN自由貿易地域
(AFTA)完了の前倒しや後発加盟国のWTO加盟の動きなどと併せて、当地域と各国・地域との
協議についても進展中である。


4.豪州・NZとのFTAにタイの国内生産者の不安高まる

 タイは7月5日、豪州とFTA協定を締結し、2005年1月1日以降段階的に関税撤廃を行うことと
なった。ただし、食肉や乳製品などの一部センシティブ品目については特別セーフガードを設けるほ
か、最長2025年までの段階的関税撤廃が予定されており、その期間中に国内生産振興策を講じること
で生産者の国際的な競争力を高めたいとした。しかし生産者団体からは生産コストの点で豪州・NZ
産品と競合することは難しいとするなど、現在協議中であるNZとの交渉とともに不安の声が高まっ
ている。


5.フィリピン、農畜産業の堅調を背景に輸出拡大を模索

 フィリピンは食品の輸出拡大を図るため国際食品安全基準への適合などにより、鶏肉などの輸出振
興に積極姿勢を示している。しかし国内市場での鶏肉供給不足解消を理由にセーフガードによる関税
措置の一部緩和を行うなど、国内の需給体制そのものに不安定要素がある。農務省は第3四半期の農
水産業の生産額は前年同期比約7%の成長とした。畜産は養鶏、養豚の成長率が低下となったものの
全体では堅調な推移となった。


6.マレーシア、畜産業の輸入依存体質脱却の取り組み
 
  マレーシアは2003年の食料部門の貿易赤字が総額43億3,700万リンギに上り、その多くを畜産物が
占めた。同国の第3次農業政策(1998-2010)では食料自給を達成すると同時に農業部門の輸入依存体
質からの脱却を図るとしている。具体策としては農畜産物品目ごとの生産団地化の推進や、遊休地
の活性化、国内農産品に対する付加価値化の推進などの生産振興計画を打ち出している。しかし一
方、飼料原料の多くを輸入に依存しているため国際価格変動の影響が大きく、政府による価格統制
制度が適切に機能し切れていないことなども影響し、畜産物生産費の増大問題は未だ解決出来てい
ない。


7.インドネシア、輸入飼料価格の変動が畜産経営に与える影響大

 インドネシアの飼料原料の輸入依存率は50〜60%と高く、生産費に占める飼料費の割合が高い養
鶏産業では経営面での不安定要素となっている。同国は昨年130万トンを超すトウモロコシを輸入し
ているが、ほとんどが中国産であり、中国の輸出動向の影響を直接被ってしまう。このため政府は、
国内畜産業の持久的発展のため遺伝改良品種トウモロコシの作付け奨励などにより飼料自給率の向
上を目標に掲げている。


8.シンガポール、検査機関の拡充などにより食料安定供給を確保

 シンガポールは食料供給のほとんどを周辺国からの輸入に頼らざるを得ず、政府は輸入食品の安
全性を維持するため7月9日、大規模な食品検査所を開設した。8月18日シンガポール食品獣医局
(AVA)はマレーシアで鳥インフルエンザが確認されたことを受けて同国産家きん製品の輸入を
停止、多くを同国からの輸入に頼るシンガポールの需給は混乱した。その後、鶏卵および家きん肉
の安定的供給のため、発生州である北部ケランタン州の清浄化を条件に半島諸州からの輸入を再開
するとした。
  11月末現在、同州の清浄化は確認されておらず、輸入は未だ限定的である。


9.ベトナム、鳥インフルエンザ復興基金設立

 ベトナムでは鳥インフルエンザ対策のため都市部で家きん売買を禁止したほか、大量処分による
撲滅対策を行い、世界銀行などの援助により基金を設立して生産者補助を行うとともに、家畜疾病
監視ネットワークを構築するなどの対策を行った。農業農村開発省により今年初め公表された1990
年以降の畜産分野の開発状況では、重点開発政策を掲げる酪農・乳業分野での発展が目覚ましい。
近年食肉需要が好調に伸びている中、鳥インフルエンザの発生によって豚肉や牛肉への代替需要が
見られた。


10.カンボジア、家畜疾病対策が急務

 カンボジアでは従来、獣医師や医薬品の不足により、伝染病による家畜の死亡率が高い。政府は
予算不足から行政財源の多くを各国・国際機関または非政府機関(NGO)からの援助に頼ってお
り、国際農業開発基金(IFAD)などの融資事業で、獣医師不足を補うため「農村獣医」を育成
し、家畜疾病・衛生対策の強化に努めている。



元のページに戻る