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2004年の10大ニュース


ワシントン駐在員事務所【犬飼 史郎、道免 昭仁】


1.米国、BSE発生に伴う対策が進められる
 
  昨年12月23日に米国ワシントン州内でと畜されたカナダ由来のホルスタイン種の起立不能牛(ダウ
ナー)においてBSE陽性が確認されたことに伴い、1月12日に米国農務省食品安全局(USDA/
FSIS)は特定危険部位(SRM)の食用としての流通禁止などの連邦食肉検査規則の暫定改正を
行った。その後、食品医薬品局(FDA)は食料などへのダウナー由来原料の使用禁止、反すう家畜
由来動物タンパクの反すう家畜への給与禁止に関する例外の廃止などの対策を実施した。また、サー
ベイランスの強化により6月1日から12月5日までの間に13万6,153頭がBSE検査に供されたが、
いずれもBSE陰性となっている。


2.米国、牛肉輸出量は対前年比85.5%減

 米国の2004年(1月〜8月)の輸出量は昨年末のBSE発生に伴い日本をはじめとするアジア各国
などが米国からの牛肉および牛肉製品の輸入を停止したことから、前年同期比85.5%減の11万4千ト
ンとなった。わが国との間では10月23日に「日本政府および米国政府による牛肉および牛肉製品の貿
易の再開に関する共同記者発表」が公表され、両国当局間で20カ月齢以下の牛由来の製品のみについ
て貿易を再開するなどの認識の共有がなされたが、貿易再開措置については国内措置の見直し後に議
論されることとされている。


3.北米でも高病原性鳥インフルエンザが発生(米、カナダ)
 
  カナダのブリティッシュコロンビア州では2月23日に鳥インフルエンザの発生が確認され撲滅対策
が進められたものの、3月9日には同州内で高病原性インフルエンザの発生が確認されるとともに、
その後も被害が拡大した。このため、スペラー農業大臣は同州のフレーザーバレー地域全体の鶏など
の家きんの処分を決定した。この対策が功を奏し、カナダは8月18日高病原性鳥インフルエンザ清浄
化宣言を行った。また、米国内でのテキサス州でも2月23日に高病原性鳥インフルエンザの発生が確
認されたが、10月に清浄化された。


4.米豪FTAにブッシュ大統領署名

 ブッシュ大統領は5月18日、米国と豪州との間での自由貿易協定(FTA)に署名した。ゼーリッ
ク米国通商代表はこのFTAは実質的には鉱工業品のFTAであるとしているものの、農業分野では
砂糖のみがこのFTAの例外品目とされ、牛肉や乳製品の輸入については、特別な関税割当(TRQ)
が設定され、18年間の移行期間を設けて市場アクセスの改善が進められることとなった。このほか、
モロッコとのFTA(6月15日署名)を始めとし、FTA交渉はWTOとともに米国の貿易戦略の両
輪の一つとして、その拡大が積極的かつ戦略的に進められた。


5.米国農務長官およびカナダ農業大臣が交代

 ブッシュ米国大統領は11月15日、初の女性の農務長官となったベネマン長官の辞任を発表するとと
もに、同長官に対し、2002年農業法成立とその執行に対する努力やBSE発生時の効果的な対応策の
実施などについて賞賛の意を表明した。同大統領は12月2日、ベネマン米国農務長官の後任に現ネブ
ラスカ州知事のマイク・ジョハンズ氏(共和党)を指名すると発表した。同氏は、アイオワ州出身で
1999年からネブラスカ州知事を務めているとともに通商使節団を率いて日本などを訪問している。ま
た、カナダでは6月28日に第38回総選挙が行われ、第2次マーティン内閣の発足に伴いバンクリフ農
業大臣は退任し、アンディー・マーティン氏が後任の農業大臣に任命された。


6.米国の農産物貿易収支きっこう
 
  米国農務省は11月22日2005年度の農産物貿易見込みを公表した。2005年度の輸出については、トウ
モロコシの豊作に伴う小麦価格などの低下や諸外国の農産品の競争力の向上により、560億ドル(5
兆8,240億円、1ドル=104円)が見込まれるとしている。他方、輸入についても輸出額と同額の560
億ドルを見込んでおり、この結果収支は両者がきっこうするとしている。輸出額については史上第5
番目の水準であり、輸入額については過去40年間連続で増加すると予想されている。


7.米国、穀物生産量が大幅に増大、穀物価格は軟調となる

 米国農務省は、2004/05年(9月〜8月)の米国の穀物生産高が作付け後の気候条件が良好だった
ことなどから、トウモロコシが前年度比16.1%増の2億9,820万トン、大豆が前年度比 28.4%増の
8,570万トン、穀物全体で前年度比11.0%増の3億8,420万トンと、生産量が大きく増加するとの見
通しを発表した。トウモロコシは、2002/03年の不作により2003/04年の期末在庫率が9.3%まで減少
したものの2004/05年では16.7%と大幅に改善されるとしている。2004年のトウモロコシの価格は、
年初は高値で推移したものの、収穫期を迎え生産高の状況が明らかになるとともに下落基調で推移
を始め、直近(11月)時点では、前年同月比約20%安のブッシェル当たり1.97ドルとなった。


8.米国の肥育牛価格は堅調に推移、カナダの農家正味現金収入は25年来の低水準となる

 2004年の米国の肥育牛価格は、昨年末にBSEが発生した後も100ポンド当たりおおむね80ドル
半ばで堅調に推移した。USDAでは、総飼養頭数が1億頭を9年連続下回り続けていることとカ
ナダからの生体牛輸入が停止していることにより供給頭数がタイトな状態にあること、国内消費に
BSEの影響はほとんど無く牛肉需要が堅調なことなどがその要因としている。一方、カナダ統計
局は、国内農家の正味現金収入が1977年来の低水準となる前年比43.3%減の42億カナダドル(3,696
億円、1カナダドル=88円)となったと発表した。2001年から02年にかけて連続して続いた干ばつ
と2003年のBSE発生が主な要因であるとしている。


9.米国、全国個体識別システムの実施ための準備が進められる
 
  米国農務省は8月5日、全国家畜識別システム(NAIDS)の実施の前段階として、カルフォ
ルニア州をはじめ、いくつかのインデアンの自治区なども含む29の州政府との間で、家畜を飼養す
る農家把握のためのプログラム実施の予算として1,164万ドル(12億1,056万円、1ドル=104円)
を支出する契約を行ったことを公表した。このNAIDSは、あくまで重大家畜伝染病の発生の際
に発生後48時間以内に過去の同居家畜などを把握することを目的とするものであり、わが国におけ
る家畜の個体識別とは目的が異なる。


10.米国、ウシゲノム塩基配列の第一次案公表される
 
  米国農務省(USDA)は10月6日、ウシゲノムの塩基配列の第一次案を世界的な生物医学や農
業研究の目的で使用される無料の公的データベースにおいて公開を開始したことを発表した。US
DAは今回のウシゲノムの解析は、牛肉や乳の生産のより適切かつ効率的な方法の確立、牛の衛生
管理の改善や牛肉や牛乳の栄養的な価値の向上につながることが期待されるとしている。



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