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2005年の10大ニュース   シンガポール駐在員事務所【斎藤 孝宏、木田 秀一郎】


1.タイ、対日EPA大筋合意、鳥インフルエンザは継続

 9月1日、タイと日本の経済連携協定(EPA)の大筋合意がなされた。畜産分野における日本側の関税
措置のうち、鶏肉(骨付きもも肉を除く)は、5年で11.9%から8.5%に関税を削減し、鶏肉調製品も5年
で6.0%から3.0%に削減することとなった。同国の鳥インフルエンザ(AI)の発生は2005年も継続してお
り、タイブロイラー加工輸出協会(TBPEA)は、鶏肉の関税引き下げは当面意味をなさないが、鶏肉調
製品に関しては、関税引き下げ効果が期待できるとしている。なお、アセアン地域では、同国のほか、ベト
ナムやインドネシアなどでAIの発生が継続した。


2.食品輸出のロードマップを作成(タイ)

 食品の輸出振興により「世界の食卓」となることを目指しているタイでは、現在、国家開発計画に沿って
農産物生産振興に関するロードマップを作成中であり、この筆頭に輸出用鶏肉調製品の生産振興が挙げられ
ている。同計画を推進する国家社会経済開発委員会は、農業協同組合省との共同声明として2009年までに鶏
肉調製品の輸出量を50万トン(2004年は約20万トン)まで増加させる目標とした。各国とのFTA協議が進
展する中、輸出振興品目を中心に食品の安全性確保や輸出目標数量の策定などについて関係各省で調整が行
われている。


3.マレーシア、対日EPA締結
 
 12月13日、マレーシア政府は、日本との経済連携協定(EPA)を締結した。農業分野における市場アク
セスの改善については、昨年末には大筋で合意が得られていた。畜産物に関しては、冷凍あひる肉などが即
時関税撤廃の対象となったほか、卵黄が15年かけて段階的に関税が撤廃されることとなった。一方、指定乳
製品、牛肉、豚肉および鶏肉は、米、麦、でん粉、生糸、砂糖などとともにセンシティブ品目として対象か
ら除外されている。なお、チーズとカードは再協議の対象となった。


4.タイ、NZとのEPAを締結

 タイとニュージーランド(NZ)の経済連携協定(EPA)が4月19日に締結され、7月から発効した。
タイが締結した先進国とのEPAとしては、今年1月から発効している豪州とのEPAに続くものである。
センシティブ品目としては、牛肉と豚肉の関税撤廃期限が2020年となっているほか、脱脂粉乳などの乳製品
が2025年となっている。特に乳製品に関しては、酪農が今後も農家所得の向上を図る上で保護振興すべき分
野として位置付けられ、長期の期限の設定となっている。しかしながら、タイの酪農関係者は、将来的なN
Zや豪州とのコスト競争を不安としている。


5.アセアン農相会合(AMAF)開催

 9月29〜30日、フィリピンの首都マニラ市郊外でアセアン農相会合(AMAF)およびAMAFプラス3会
合が開催された。これらの会合では鳥インフルエンザ(AI)対策をはじめ、口蹄疫や豚コレラなど、従来
からのこの地域の懸案である伝染性疾病対策としておよそ2百万ドルの家畜衛生信用基金を設立するとした
ほか、2006年から2008年までの3年間でAI清浄化へ向けての域内協力体制をとることなどが共同声明とし
て採択された。AI対策関連では動物用ワクチン使用に関し域内における使用基準の統一や特定ワクチンの
登録に際する基準の統一が必要であるとされた。畜産関連では冷蔵・冷凍牛肉生産のための牛と畜場の基準
をアセアン統一規格にすることとしたほか、域内の食糧流通に際し、人体に悪影響を及ぼす化学薬品の残留
限度に関する域内の基準を強化するとした。


6.急速な発展により変革するベトナム酪農業

 ベトナムでは、好調な経済を背景に乳製品需要が順調に拡大しており、政府は2001年に酪農振興計画を定
め乳用牛の増頭などの生産振興策を推進している。計画では2005年を目標に頭数10万頭、輸入脱脂粉乳を使
用した製品を含め、国産品による20%の飲用乳自給体制を目指している。2004年末の乳用牛頭数は9万6千
頭、自給率18%を達成しており、中期目標の達成は確実視されている。

 同国の乳用牛飼養頭数はホーチミン市を中心とした南部で70%と最大だが、急速な発展のためいまだ安定
した需給体制が確立しておらず、同市の酪農振興当局は大規模化と効率化による生産者の競争力強化が急務
であるとしている。


7.牛肉調達先の多様化を模索(マレーシア)

 マレーシアでは牛肉消費量の約8割を輸入品に依存しており、輸入品の約1割を豪州産牛肉が占めている
が、と畜方法に関する問題により、従来同国向けに輸出する牛肉を生産していた豪州のと畜場の大部分で現
在ハラル認証が取り消されている。家畜のと畜方法に関する国際基準に関しては、今年5月にパリで開催さ
れた国際獣疫事務局(OIE)の総会で動物愛護に関する新たなガイドラインとして「食肉に供される家畜
のと畜方法に関するガイドライン」が採択され、ここではハラルに則ったと畜ガイドラインについても示さ
れている。

 同国農業・農業産業省は従来から農産品輸入依存体質からの脱却を目指しており、国内生産の拡大や調達
先の多様化を推進している。


8.半島部地域経済協力の進展状況

 タイの首都バンコクにおいて11月1日から3日間の日程で、第2回イラワジ=チャオプラヤ=メコン経済
協力戦略(ACMECS)会合が開催された。これはタイによる周辺各国への南南協力体制で、今回の第2
回会合では、鳥インフルエンザに関する加盟国間での協力体制の整備として、タイ政府が1億バーツの対策
基金の設立を表明したほかバンコク市内にワクチンを備蓄し、有事に加盟国へ供出することとした。また、
委託栽培契約に基づくタイへの特定農産品の輸入については当該農産品の輸入関税を免除することとされた
ほか、域内物流促進のためのインドシナ半島東西経済回廊計画に関連する各種インフラ整備に関し、タイ政
府により整備協力基金が設立されることとなった。また、新規加盟したベトナムとの間では、域内各国にお
ける人材開発のためにおもに公衆衛生、代替燃料分野の職業訓練協力に関する協議が持たれた。


9.輸入依存が進む牛肉産業(フィリピン)

 フィリピンの牛肉需給は、海外からの輸入は増加傾向で推移する一方、国内生産は低迷している。BSE
の問題で、2003年の牛肉輸入の4%を占めた北米産牛肉の輸入は一時停止したものの、現在は米国・カナダ
産ともに再開されているほか、近年はインド産水牛肉の輸入増が顕著で、輸入量ではほぼ全量、国内需要量
全体でも45%を占めている。一方、同国の肉牛生産農場の9割以上は零細経営で、農務省は現在、他畜種と
ともに生産農場の認定制度を推進しており、これにより種畜の遺伝的能力向上を図り国内農場の生産性改善
を図っている。


10.家畜移動監視を強化(カンボジア)

 2月24〜25日に開催されたカンボジア家畜生産・衛生局年次会議では、2004年の畜産情勢報告がなされた。
同国では鶏や豚などの中小家畜の分野を中心に、年々中国の影響力が高まっており、このような外資の参入
による企業経営が開始されつつある一方で、稲作用の役畜としての牛・水牛の利用も多い。政府は近年増加
する大家畜の周辺国への流出や、中小家畜の不正輸入による家畜疾病のまん延を防止するため、国境地域な
どでの家畜移動監視の強化を緊急の課題としている。主な家畜感染症としては口蹄疫や出血性敗血症が挙げ
られ、政府は各国・国際機関の援助によりワクチン接種や専門家の養成を急いでいる。



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