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今回の世界貿易機関(WTO)香港閣僚会議における合意事項で、EUの農業関係者が最も関心を示 す事項が「輸出補助金の撤廃期限の明示」である。EUの政府・農業団体の反応はこの点に対するコメ ントが多くを占める。 欧州委員会の反応 マンデルソン委員(通商担当)は昨年12月18日、「今回の輸出補助金の撤廃期限設定に関する決定が WTO農業交渉の前進を促すものである」との声明を発表した。EUが昨年10月28日、農業交渉の枠組 みとなる新たな提案を行ったにもかかわらず、米国などから内容が不十分であるとの批判を受けていた ところであり、EUとしても農業交渉の前進に積極的に寄与できたことをアピールするものとなってい る。また、輸出補助金の撤廃期限について、2010年とする案を拒否して2013年に先送りすることができ たことも成果に挙げている。一方で、今回の合意ではほかの輸出国も同様の補助金改革を行うことが受 け入れられたとして、EUの輸出補助金と同等の規律が課せられるよう要求している。 フィッシャー・ボエル委員(農業・農村開発担当)も同日、輸出補助金の撤廃期限である2013年が現 行の共通農業政策(CAP)改革の実施期間と呼応するものであり喜ばしいとの声明を発表した。しか しながら、この点を除けば今回の合意はEUにとっての「クリスマスプレゼント」になるものではなく、 「(2013年までの輸出補助金の撤廃の)実質的な(substantial)部分を実施期間の前半に実現」との 合意の「実質的な」の定義が、EU市場の混乱や、さらなる改革を必要とするようであれば、大幅な削 減は受け入れられないと警戒している。 農業国フランスの反応 EU最大の農業国であるフランスのシラク大統領は昨年12月18日、今回の香港閣僚会議での合意が世 界全体の発展と雇用の促進につながると歓迎しながらも、農業分野では、米国、豪州、カナダなどの輸 出競争にかかる補助金も同等の撤廃を行うべきであると強調している。また、2006年早々にジュネーブ で開催が予定される農業分野での交渉の結果が、EUの交渉役であるマンデルソン委員の交渉マンデー トと2013年まで合意されている安定したCAP予算の双方とに矛盾しないものとなるよう警戒を呼びか けている。 農業団体の反応 欧州農業組織委員会/欧州農業共同組合委員会(COPA/COGECA)は昨年12月18日、香港閣 僚会合における合意は不完全で一方的なものであるとの声明を発表した。米国などの輸出競争にかかる 補助金も同等の撤廃を行わなければ、今回の合意で利益を得るのは開発途上国ではなく、これら輸出国 であるとし、EUと同等の時期の設定と削減がなされるべきとしている。そして、2013年までの輸出補 助金の段階的な削減についても、生産者価格や市場に大きな影響を与えないものとなるよう要求してい くとしている。また、市場アクセス分野に関しては、昨年10月28日のEU新提案を1インチも超えるこ とはできないとしている。 輸出補助金の現状 現在、EUにおける農産物の輸出補助金の約3分の2は砂糖と乳製品が占めている。このうち砂糖に ついては、すでに昨年11月の農相理事会において大幅な制度改革を行うことで合意に達しており、今後、 輸出量の大幅な減少などに伴い輸出補助金も減少していくことが見込まれる。 したがって、本年4月30日までに決定されることとなっているモダリティにおいて、輸出補助金の2013 年までの削減方法がどのように盛り込まれるかによるが、今回の合意が、輸出補助金を多用しているE Uの牛乳・乳製品分野に特に大きな影響を与える可能性がある。【ブリュッセル駐在員 和田 剛 平成18年1月11日発】
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