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欧州委ボエル農業委員、EUの生乳に係る制度の将来像について問題提起


 欧州委員会のフィッシャー・ボエル委員(農業・農村開発担当)は6月26日、EUの酪農に関する経験や
知識を交換する討論の場を目的として設立されたヨーロピアン・デイリー・ファーマーズの会議において、
「EUの生乳生産の将来像」について講演を行った。同委員は、最近のEUの生乳生産をめぐる状況を伝え
るとともに、現在の共通農業政策(CAP)での酪農に関する諸施策について自身の疑問を投げかけ、生産
者として今後の制度のあり方について考えることを促した。



輸出補助金は2013年までに廃止

 輸出補助金については、2005年12月に行われた世界貿易機関(WTO)の香港閣僚会議において、2013年
までに廃止することが合意された。この結果を受け、輸出補助金に関する議論は以前よりいくぶん落ち着い
たものとなっている。これについては、どのように段階的に廃止していくかが現在の問題となっている。



介入価格の設定水準に疑問

  EUでは、域内の農家の再生産を維持し、バターと脱脂粉乳の市場の価格が一定の水準を下回らないよう
に介入価格を定めている。加盟国での市場の価格が、介入価格の92%を下回った場合、当該国の介入機関が
これらの買い入れを行うこととなっている。また、このような人為的な操作による在庫が過剰とならないよ
う、その限度数量を設定している。

 最近のEUのバター価格が下落し、本年3月から、10カ国でバターの介入買い入れが開始され、これまで
に、16カ国で実施された。その介入買い入れ量が、5月には、2006年の限度数量である5万トンに達したた
め、それを放出するための入札が6月中旬に公示された。なお、同様の状況はまだ続くと見られている。
 
  こうした状況を踏まえ、フィッシャー・ボエル委員は、「欧州委員会が設定した介入価格が適切な価格で
あったか。また、このようにバターの介入在庫が限度数量を超えるまでに至ったことは、いずれ近いうちに
バターの介入価格の見直しを行わなければならないという合図ではないのか」と現行の介入価格の設定水準
について問題視している。

 また、介入制度の代用が目的であった民間在庫補助については、「介入買い入れ制度がある中、毎年民間
在庫補助の発動を約束する必要が今後もあるだろうか」と疑問を投げかけている。



生乳生産クオータの存続の是非に問題提起

 EUでは、生乳市場の需給バランスを保つことを目的として、国別に生乳生産の割当枠を定め、これを超
過した分についてはペナルティーとして生乳指標価格の 115%の課徴金を課す制度を実施している。この制
度の終了年度は、「アジェンダ2000」において2007/08年度(毎年4月〜3月)と定められていたが、2003
年6月に合意したCAP改革において、2014/15年度まで継続することとしたものである。
 
 このクオータ制度について同委員は、「生乳クオータに関する疑問は決してなくならない。今は、この制
度を尊重するつもりである」と前置きし、まだ結論を出す時ではないが、同委員は本制度に関して次の3つ
の問題提起をしている。

・本制度が目的達成のために、どのように役立ってきたと評価すれば良いか。生乳生産を制限することは、
 EU予算の支出を抑える一方で、酪農家への援助となる効果を上げてきたか。

・CAP改革により、酪農部門についても価格支持から、生産とは切り離した単一の直接支払いに切り替わ
 っている。この直接支払いの制度が実施されている時にあって、クオータ制度を維持することが、首尾一
 貫した政策と言えるだろうか。
  この問題については、競争というものが重要な要素となる。経済学者は、クオータ制度は、生産の拡大
 を困難にし、生産者間での競争の障害となっているとしている。実際には、この競争の障害が、生乳生産
 にどの程度深刻な影響を与えているのか。

・もし、クオータ制度を延長しないと決定した場合、直ちに本制度をなくすべきか、それとも、移行措置に
 より、徐々になくすべきか。

 また、同委員は、「クオータ制度の利点は、不利な点に勝っているのか。あなた方は本制度があったほう
がいい? それともないほうがいい?」と本制度の存続の是非について生産者に考えることを促した。


【ブリュッセル駐在員 山ア 良人 平成18年6月28日発】


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