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アイオワ州立大、エタノール振興は畜産業に打撃とする論文を公表


 米国最大のトウモロコシと豚肉の生産量を誇るアイオワ州立大の研究者グループ(ISU/CARD)は11
月7日、政府による現行のエタノール産業支援策が継続され、原油価格が現在の水準で推移した場合、同州の
主要産業である養豚業や鶏卵産業が国際的な競争力を失い、長期的に見て必ずしも地域経済にプラスになると
は限らないとする研究論文を公表した。
 


エタノール製造におけるトウモロコシの損益分岐価格は4.05ドル/ブッシェル

 米国では、2005年エネルギー政策法において、2012年までに年間75億ガロン(2,910万キロリットル)のエ
タノール使用を輸送燃料業界に義務付ける一方、エタノール混合燃料の製造業者に対し租税減免措置(0.51ド
ル/ガロン(16円/リットル:1ドル=119円)。ちなみに現在の原油価格(60ドル/バレル)に見合うエタ
ノールの市場価格は1.38ドル/ガロン(42円/リットル)。)を講じて、エタノール産業の振興を図っている。

 研究者グループは、政府によるエタノールの租税減免措置が継続され、原油価格が現在の水準で推移した場
合、現状のエタノール製造技術や操業コストの下では損益が均衡する原料トウモロコシの市場価格は4.05ドル
/ブッシェル(18,973円/トン)と試算している。さらに、4.05ドル/ブッシェルの価格水準が維持されれば、
米国内におけるトウモロコシの生産量は作付面積の増加などにより2015年には約157億ブッシェル(4億トン)
(2006年度実績は約111億ブッシェル(2億8千万トン))に増加し、エタノールの生産量が国内の輸送燃料
需要量の20%に相当する約315億ガロン(1,221万キロリットル)に達することになるとしている。



米国はトウモロコシの輸入国に転落し、豚肉および鶏卵産業の国際競争力が低下

 このように、トウモロコシの生産量は現在よりも約4割増加すると見込まれるものの、その約7割がエタノ
ール向けに利用されることから、研究者グループは、飼料用への仕向量が約40億ブッシェル(1億トン)(同61
億ブッシェル(1億5千万トン))と現在の3分の2の水準に減少するとともに、輸出量は価格高騰による競
争力の低下によりゼロになる(同21億ブッシェル(5千万トン))ものと試算している。さらに、飼料用に仕
向けられるトウモロコシの減少分は、肉用牛および酪農を中心とする蒸留かす(DDGS)の利用や小麦や乾
草などの給与の増加である程度は相殺されるが、この影響による豚肉産業や鶏肉産業の縮小は避けられないと
している。

  ちなみに、同大の別の研究者の調査によると、アイオワ州の肉豚の生産コストは101.5ドル/頭(12,079円
/頭)であるが、トウモロコシ価格が4.05ドル/ブッシェルに上昇した場合、飼料コストの上昇(27ドル→58
ドル)により、生産費が132.5ドル/頭(15,768円/頭)に上昇することになると試算している。



次期農業法の議論に向け、エタノール産業の振興策による悪影響を明示

 米国のエタノール振興施策は、エネルギーの海外依存度の引下げを主たる政策目的としており、国民各層か
ら幅広い支持を受けている。また、次期農業法をめぐっては、ジョハンズ農務長官がエネルギー問題を論点の
一つと位置付けるとともに、先の中間選挙で上下院の両院を制した民主党の有力議員もその振興に積極的な姿
勢を示している。

  このような中、伝統的に家族経営の農業を重視し、州法により営利企業による大規模な農業投資を厳しく規
制してきたアイオワ州では、本年夏以降、トウモロコシ価格の高騰とエタノール工場の建設ラッシュによる好
景気が続いている。農地の賃貸料の上昇が期待される地主や、安価な飼料(DDGS)の入手機会が増大する
工場に近接する肉牛農家や酪農家もその恩恵を受ける「勝ち組」とみられている。




【ワシントン駐在員 郷 達也 平成18年11月20日発】



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