★自由化レポート


牛肉自由化を迎えた内外の動き−自由化後、1ヵ月が経過して−

シドニー駐在員 食肉生産流通部


  本年4月に牛肉の輸入自由化がスタートして1ヵ月余りがたちました。今回は、
自由化直後のオーストリアからレポートと国内の牛肉の消費の動きを報告します。
今後、おりにふれ、形式にとらわれずに畜産をめぐる需給のトピックスを紹介した
いと思います。

1  豪州からのレポート

エープリル・フール

  「牛肉の輸出業者にとって、70%の関税はエープリル・フール」という見出し
で始まる記事は、3年前に輸入自由化に抗議して自殺した農家の話を持ち出して、
「彼は牛肉が自由化されれば、オーストリアの安い牛肉に吹き飛ばされてしまうと
思い込んでいたらしいが、70%関税があれば彼のような非効率な農家もしっかり
守られるだろうに」といささか皮肉を込めて、自由化初日の4月1日、オーストリ
アの一般紙に掲載された。

  牛肉の数量割当制度が廃止されて1ヵ月が経つが、1ヵ月経った時点でこの1ヵ
月間どうであったか、今後、市場はどうなっていくのか、当地の関係者にいろいろ
と感想を含めて、話を聞いてみたのでその概要を報告したい。

クワイアット/ビジー

  最近の商売の様子について、対日輸出割合いの多いパッカーに尋ねたところ、
「とても静かだ」という答えが返ってきた。時期が日本のゴールデンウイークの最
中ということもあるが、「自由化で急に忙しくなった訳でもない。もちろん、自由
化はよかったと思う。なぜなら、良い商品をより高く売れるからで、自由化前は良
い商品も良くないものも差がなかった。これから、ゴールデンウイーク明け、夏に
向けて荷物が動きだし、忙しくなるだろう。」と日本市場に期待する口調で話して
いた。

  別の大手パッカーは、「相変わらず忙しい。ビジネスを拡大する絶好のチャンス
だ」暇だという関係者もいるがという問いには、「他は知らないが、うちはがんが
んやっている」と、意欲的に話していた。

「ヒマですよ」

  当地で商売している日系の商社などは、「最近はヒマですね」と答えるところが
多い。ゴールデンウイーク中ということ、大阪で2件の食肉問屋の倒産があったば
かりで商いが細っていることも大きく響しているらしいが、自由化前から日本の市
況がずっと低迷していること、みんなが在庫を抱えていること、特にフローズンは
事業団の在庫があるから、あわてて買わなくても良いこと、先行き良く分からない
ので、当用買いのみであること、などである。

  また、事業団の買入札があったころはそれに合わせて仕事のサイクルが動いてい
たが、今はなくなったので、まだ、感じがよくつかめないという話も聞かれた。

  この4月1日に向けて各社ともいろいろと準備を進めてきた訳で、4月1日にな
って急に商売が変わる訳ではないが、この1ヵ月間特別のことがあったようではな
さそうだ。

やっぱりチルドで、

  ヒマと言っても、貨物の量が減っている様子はあまりない。正式な統計は出てい
ないが全体の船積量はさほど変わっていないようだ。ただ、チルドの量が増えてき
ているらしい感じがするいう話は、多くの方から聞いた。荷はチルド主体で動いて
いるらしく、船会社の関係者の話では、4月積みはほとんどチルドではないかとい
うことだった。

  チルドが主体の取引となると、そのアシの速さからユーザーのデリバリー期日の
要求はかなり厳しいらしく、船指定でのオーダーが増えているらしい。例えば、5
月渡し40コンテナというオーダーであっても、まとめて40コンテナではなく、
毎週10コンテナづつというような感じである。このようなオーダーに応えていく
には、かなり正確に生産計画を組む必要があり、大手のパッカーでないと対応が難
しいらしい。

  飛行機で送る分については、4月はガクッと減ったようで、これも自由化の影響
(フレートの高さが関税にはね返る)かなという声も聞いた。ただ、関税が70%
であれば生体で持って行っても採算が合うので(300kgを超えるものの関税は
75,000円/頭)、モウモウフライトを今後も飛ばす予定はあるそうである。
また歩留りの良さから部分肉ではなく枝肉のままで欲しいというユーザーの要望も
あって、これからも飛行機で送る分はそこそこあるであろうと言う。

「いい肉」はありませんか。

  ところで、当地に住む日本人の牛肉に対する不満は、以外にも、「いい肉」が手
に入らないことである。この「いい肉」とは、日本人好みの柔らかいジューシーな
肉という意味であり、たっぷりの霜降りとまではいかなくてもある程度のサシの入
ったものを食べたいという希望は強い。

  ある日系のステーキハウスのコックも、いつもあちこち捜しているが、「いい肉」
が手に入りにくい。たまに手に入るが続けて入らない、と困った風であった。

 この背景には、日本人しかグレインフェッドビーフを食べないこと、(オースト
リアの人はまったくの赤身の肉を、それもベーリーウェルダンで食べるのが一般的
である。)そのごく少数の日本人のために200日から300日のロングフェッド
ビーフを供給するのは商売ベースに乗りにくいこと、さらに業務用であってもその
需要は一部の高級部位に限られるので、それ以外の部位の処分に困ってしまうこと、
などがある。

  従って、グレインフェッドビーフは国内で生産していても、オーストリアに住む
我々の口には入りにくい、というおもしろいこととなる。

32/77

  さて、この数字は何かというと、輸出向けと畜場77か所のうち半分に近い32
か所に外国の資本が入ってのることを示している。この他に外資系のフィードロッ
トもいくつかあり、また建設中のものもある。

  外国資本の進出について、一部には警戒する味方もある、NSW州のある食肉団
体の指導者は、「国内に資本余力がないため、畜産業発展のために歓迎している。
特にフィードロットは穀物の国内消費を増やしてくれるので結構なことだ」、と話
してくれた。

  この数字にはまた、別の見方もあって、これだけ多くのパッカーが系列化される
と系列外のパッカーは如何に独自色を出すかに今後の浮沈がかかっている、と言う
ものである。それは、日本のユーザー−日系商社−系列のパッカーという流れが固
まりつつあり、同じものを買うのであれば、関係するパッカーから買おうという流
れが加速されていくのではないか。そうなったときに系列外のパッカーはどう対応
するか、系列パッカーを持たない日系商社はどういう商売をしていくのか。現在の
市況が変わっていくであろう今年の秋以降、新しい動きがあるかも知れない。

12月間は不安定

  自由化を迎えて、1ヵ月経った豪州の食肉界の動きについていろいなな人に会っ
て聞いた話しを中心に述べてきたが、要は市場がどの方向に向かっていくのかみん
なが模索しているという段階かも知れない。もちろん、何年も前から着々と布石を
打ってきたとろもあるが。

  これから、1年が経ち、2年が経ち、日本の消費が順調に伸びていくのか、

  米国がチルド技術を向上させている中で、得意のチルドでどう競争していくのか、

  国内での消費が期待できないグレインフェッドの生産を増やしていくのか、

  増やしていった場合、ロイン系以外をどうさばいていくのか、

  フルセットでの輸出を続けていけるのか、

 輸出指向の豪州の牛肉業界は、日本という巨大マーケットが開かれた今、どの方
向へ向かっていくのか、今後、折りに触れて報告していきたい。

  最後に、先日クイーンズランド州ロックハンプトンで開かれた「ビーフ91」と
いうオーストリア最大の牛肉関係者のイベントでのAMLCオースチン総裁のスピ
ーチの一部を紹介して、この報告を締めくくりたい。

  「新しくなった日本の市場で商売がうまくいくようになるまで、これから12月
間は不安定な状態が続くであろうと、我々肉牛生産者は考えなければならない」

(以上シドニー事務所、木下良智、安井護)

2  国内牛肉消費の動き

  牛肉の輸入自由化前後の国内の牛肉消費の動きについて関係業界からの聞き取り
によれば、以下のような状況であった。

スーパー

・ 主要なスーパーにおける平成3年3月の牛肉の売上げ高は、前年同月比で軒並
 み上昇した。

  特に輸入牛肉には、3月の20日ごろから始まった輸入自由化記念セールによ
 る特売により150〜200%(前年同月比)の売上げを達成した。

・ ある大手スーパーでは、通常は和牛肉のみを販売している店舗に米国産チルド
 ビーフを販売したところ、予想以上の売れ行きを示し、これによって新規の輸入
 牛肉愛好者が増加するのでは、との期待が持たれている。

・ 国産牛肉(和牛)についても、輸入牛肉の売上の増加に引っぱられる形で、売
 上げが伸びたかもしくは横ばいであったが、乳おすの売行きはどこのスーパーで
 も落ち込み、ある大手スーパーでは、これを見越して、3月の品揃えを和牛と輸
 入牛肉(米国産及び豪州産)のみに絞ったところもあった。

・ なお、輸入牛肉のセールにより懸念された豚肉の売上では、予想した程の減少
 はなく、主要なスーパーでは平年並みもしくは1割程度の減少に留まっている。
 ある大手スーパーの担当者は、今後、豚肉については、脂肪を落として「ヘルシ
 ー指向の赤身肉」とい うコンセプトで販売してゆくこと。また鶏肉の売行きに
 ついても輸入牛肉のセールの影 響を被っておらず、通常の販売量を維持してい
 るとのことであった。

・ 4月についても、第一週目の自由化記念セールにより輸入牛肉の売上げは、前
 年同月比で150%前後の増加となった。また、国産牛肉(和牛)及び鶏肉は常
 に一定の売上げがあり、豚肉も輸入牛肉の影響はさ程受けていない模様である。

専門小売店

・  牛肉の輸入自由化にちなんだ販促活動については、全肉連として企画したもの
 はなく、県肉連の段階で自主的に実施されたのみで、実施県数も数県にとどまっ
 た模様で、スーパーのような盛り上がりは見せていないのが実情である。

・  販促活動に熱心な兵庫県肉連では、3月の最終週及び5月の連休を利用して輸
 入牛肉フェアを実施し、通常価格の2割引きで販売した結果、前年同月比で約5
 割増しの売上げを達成し、また、国産牛肉(和牛)も一部、通常価格の1割引き
 で販売し、ともに売上げを伸ばした。特に、今年で4回目を数える5月のフェア
 は神戸市内のイベント会場で実施され、今年はAMLC及びU.S.MEFの全
 面的な協賛のもとに多数の入場者を集めた。会場での実演販売も人気を呼んだと
 のことである。

外食関係

・  一部の自由化戦術を展開している外食企業では、通常メニューとは別にフェア
 用メニューとして2〜3割程度低く設定した価格展開を実施したが、売上高に影
 響を与える程の販売実績を上げていない模様であるが、将来の価格低下による需
 要増を、今からの営業展開で顧客の確保を図るため、新規メニューを開発中であ
 るとのことである。

 (以上食肉生産流通部)


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