★自由化レポート


卸売市場の目指すべき方向

東京食肉市場


 畜産振興事業団が保管する輸入牛肉の売渡しは、平成4年6月の売渡しをもって
完了しました。27年の間、事業団の輸入牛肉の売渡しの主要な部分を占めていた、
食肉卸売市場におけるセリ売りも終わることとなりました。

 自由化1年を経過して、輸入牛肉ばかりでなく、国産牛肉、豚肉についても市場
外流通のシェアが増えている等の状況の中で、食肉卸売市場が持つ価格形成という
機能がますます重要になっていくものと思われます。

 こうした状況の下、食肉卸売市場が牛肉の流通に果たしている役割、この1年で
変わった点、これからの卸売市場の目指すべき方向等について、東京食肉市場鰍フ
寺内正光社長以下にお話を伺う機会を得ましたので、その概要を報告します。

 1 日時平成4年7月7日(火)午後1時30分から

 2 場所東京食肉市場渇議室

 3 出席者(敬称略)

    東京食肉市場株式会社
    取締役社長     寺内 正光
    専務取締役     村松  操
    常務取締役     手塚 厚二
    輸入肉事業部長   今村 治元
    大動物事業部審査役 大木 英史


市場の役割は価格形成

 牛肉の輸入が自由化になって1年が過ぎましたが、市場の運営というのは、どこ
の市場も大変厳しい環境に置かれているということは事実です。輸入牛肉ばかりで
なく、国産の牛肉、豚肉についても、市場外流通が増えてきました。市場流通シェ
アが減ってきて、その運営は大変難しい環境にあります。

 何しろ、牛肉ばかりでなくて、豚肉にしても、市場のもつ価格形成という機能、
つまり、仲卸、買参人を含めた一般公開によるセリ売りという一つの役目は、我が
国の食肉の価格の指標としてぜひ必要だということをだれしもが認めています。こ
うした食肉を扱う人たち及び輸入商社、大手の加工メーカーを含め、皆さんも、市
場の役割として、公正な価格形成をしてもらいたいという要望を常にもっているの
ではないでしょうか。

 今まで、輸入牛肉については、一元的に事業団からの委託上場によって、国内の
輸入牛肉の流通の価格形成の指標になっていました。では、自由化の時代になって、
市場が輸入牛肉を扱わなくてよいのかというと、そうはいかないと思うのです。わ
が社としては、事業団からの委託上場の品物がなくなっても、やはり扱っていかな
ければいけないと思っていますし、事業団セリと並行して行ってきた一般セリの取
扱い量を今後とも増やす努力をしたいと思っています。このため、市場流通するこ
とのメリットについて出荷者、買受人にPRしなければならないと考えています。

 東京市場は、今まで輸入牛肉を全国でも一番大量に扱っており、価格形成の場と
して今後も役割を果たさなければいけないのではないか、そういう気持ちでおりま
す。


安心して出荷できる体制づくり

 輸入牛肉が自由化になって、一番影響を受けたのは国内の生産者の方々で、特に
輸入牛肉と競合する乳用種については、被害が甚大ではなかったかなと思っていま
す。景気の後退期とちょうど重なりましたから、和牛のA4、B4についても値を
下げており、この種類でも何らかの形で生産者は影響を受けているのではないかと
思います。

 東京市場としても、これから生産者に対するお手伝いといいますか、少しでも安
心して生産でき、安心して出荷できるような体制づくりというものを考えていかな
ければならない時期に来ていますし、また、それをするのが義務だとも思っていま
す。

 今、いろいろ考えている中で、スポット(しみ)の問題を含め、出荷者が当市場
に持ってきてからの瑕疵や事故等の問題についての対策を考えていかなければいけ
ないということで、現在生産者をはじめ市場関係者との話し合いをしている段階で
す。そうしたことを含め、生産者が安心して出荷できるような体制づくりをし、市
場と出荷者とがいろいろ協調し合っていけば、東京市場ばかりでなく、市場流通全
体が栄えるように向かってもらえると思っています。


要望される幅広い取り組み

 東京市場としても、過去事業団の輸入牛肉の委託上場が取扱量のうち大きなシェ
アを占めており、今それがなくなったということは経営上大変厳しいのですが、厳
しい、厳しいと言ってもだれも助けてくれませんから、自助努力せざるを得ないの
で、会社の内部でもいろいろ工夫し、一生懸命努力しています。

 皆さんもご存じのように、卸売市場は、委託上場、セリ売りを原則としておりま
すが、流通の変化に応じて集荷し、また販売するには、委託上場ばかりでは取扱い
が無理な品物も出てきます。

 例えば、輸入牛肉にしても、アメリカやオーストラリアから輸入するのに、現地
パッカーに、"委託上場してくれ"と簡単に言っても無理だと思いますの
で、買い取り、買い付けもしなければなりませんし、また、予約相対だとかいろん
な情報取引も場合によっては発生してくるでしょう。そういう問題を含めて、当社
としても、輸入牛肉をはじめ、豚カット肉、牛カット肉についても、ある程度の買
い付けをすることもやぶさかではないというように考えております。

 何しろ、市場というものは、たくさんの物を扱い、皆さんに供給するのが義務で
すから、こちらの商売に合う物だけ取扱い、合わない物はやらないんだというわけ
にはいきません。出荷者の要望、買い手の要望のある品物は、拡大してどんどん扱
っていこうと思っています。

 市場の役目というのは、牛肉の輸入が自由化になろうがなるまいが、安定供給を
するのが市場の義務であるし、そのために設置されているのであって、我々も、そ
のために努力しなければいけないと思います。


市場の集分荷機能

 生産者から生体ないし枝肉で集めて、部分肉として出ていくとき、欲しくない部
位もあるわけですけれども、それらをさばくという機能は、いわゆる会社というこ
とではなくて、仲卸さんを含めた市場全体の中で果たしています。これが市場の集
分荷機能だと思います。

 それと、現在流通形態が変わってきて、例えば豚肉は特に、産地のセンターでと
畜され、カットされたものがここに入ってくる。また、これが加工メーカーとか、
大手のスーパーにダイレクトに行く場合もあります。

 当市場も、今までは枝肉や輸入牛肉だけを扱っていくだけで生きていけたので、
部分肉については、アレルギーじゃないけれども、手をつけなかった分野なんです。
しかし今後は、そういうものにも積極的に取り組み、取扱量を拡大していく必要が
あると思っています。


輸入牛肉の利便性と国内価格の二極化

 自由化後1年ちょっとたったわけですが、この間の動きあるいはその相違点につ
いて触れますと、高級牛肉については、大体予想されたとおり高値安定でした。し
かし、乳去勢牛のB3クラス、それから和牛のA3クラス、これが予想以上に低落
しました。この原因として、一つは景気の後退というのがかなり影響しているとは
思いますけれども、もう1点、輸入牛肉がかなり影響しています。その輸入牛肉の
影響というのは、牛肉そのものの差ではないと思うのです。肉質の差でいけばここ
までは落ちなかったのではないか。では、なぜ落ちたかというと、第1点は、利便
性というか、輸入牛肉はスライスするだけでよいという状態で入ってくるので、加
工上の人手不足、特に職人不足という状況にある業界にとっては、扱いやすい輸入
牛肉ということになったのでしょう。第2点としては、ホテル需要を含めた外食産
業の成長により消費量が拡大され、一定の規格商品が大量に必要とされるようにな
ったこと。これらの点で、予想以上に落ち込んだのではないかという感じがします。

 それと、品質による二極化が進んだということです。ただ、6月、7月になり、
その相場を見ますと、乳牛雌のC1クラスが前年同月で98%ぐらいになってきてい
るんですね。そういった意味では、低品質のものについてやっと下げどまりが来た
かなという感じがしています。

 こうした傾向が今後も続くかということですが、少なくとも高級和牛については、
こういう景気後退の中でもこれまでの価格を保っていますから、かなり潜在需要は
強いと思います。ただ、その下のクラスはまだ予断を許さない面はあると思います。
全くの安全圏というとA5だけで、A4も、先月あたり前年同月比で6%も落ちて
います。これにはびっくりしましたが、景気の動向が若干影響しています。

 ただ、和牛肉全体についても、今、少し売れ行きがよくありません。例年だとお
中元シーズンで大変なのですが、今年を見ますと、シーズンに入ったのは早かった
けれども盛り上がりはそれほどでもなかったという状況です。


経産牛、F1の増加

 それから、この1年間で取り扱った品種については、特に去年は、搬入ものの経
産牛、これが非常に増えました。

 というのは、関東近県で、廃業する方が出てきています。廃業の理由の一つは価
格の低迷がありますし、もう一つは人の問題ですね。特に労力の問題と後継者難と
いうことで、関東、栃木の南部ぐらいまではそういう方が多くなっています。

 それに、和牛についてF1が増えました。これは統計はとっていませんが、少な
くとも和牛全体の3割はあると思います。

 そのF1の問題についてはその価格が、市場によって若干違うという問題があり
ます。これは、要するにF1の位置づけによって違っているわけです。それが結果
として、市場ごとに価格公表の基準が違うということになっている。これはおかし
いのではないでしょうか。単にどこの市場が主導権をとるとかということではなく、
F1が和牛の中に含まれるのか、全く別の新種として取扱うべきか、今後関係者の
間で早急に検討される必要があると思います。


東京市場の特色、仲買人

 東京市場は、仲卸業者及び買参人の方々が、良いものに対しては高く評価してく
れる。値段の高い市場にいい物を持っていきたいということは、生産者としては当
たり前のことですよね。買受人の側からみても、高級品から大衆商品までいろいろ
な物品が多数上場され、この中から自分に適した商品を購入できることになる。こ
れは、一大消費地市場の魅力ではないかと思っています。

 もう一つ、仲買さんに対する注文、わけても和牛に対する注文が増えています。
周辺市場では仲買制度がありませんから、例えばその中のロースだけをくれとか、
肩肉を50枚だけくれ、100枚くれとかいっても、対応できる業者はいないわけです。
そういう点でも、東京市場の利用価値は高まっていると思います。


牛肉の銘柄化

 銘柄化という点に対する動きで一番多かったのが、自由化の1年から2年前頃だ
と思います。あのころは、何でも銘柄化、銘柄化と目立ちましたけれども、自由化
になってからは、特に、新規の銘柄とかそういう動きはあまりないですね。ただ、
現在銘柄化しているものを、さらに強めようという動き、傾向はあります。

 銘柄化について言えることは、やはり、東京市場で評価を受けることによって、
全国的な評価が高まってくるということです。前沢牛だって、東京市場で評価され、
東京から各地方にこういう名前の牛はいい牛だよという評判が広まったから、現在
の評価が確立できたわけです。ほかの市場なり地方で、いい牛があるというような
評判を聞いたりすれば、東京市場は、これからも、そういうものを取り上げていき
たいと思います。

 前沢牛の話がでたわけですが、生産者も自由化後に照準を合わせて、今でもいろ
いろな努力をしています。ある生産者団体が中心になって、飼い方をみんな同じに
して、品質をそろえるとともに品質を向上させようという努力をしています。そう
いった生産者の努力というものは、やはりこちらとしてもその熱意を強く感じてい
ます。

 しかし、A5の割合だとか、そういう数字を見ますと、逆に品質は落ちていると
いうのが現状のようですし、乳おすも品質的によくなったとはあまり感じません。
それは品質というよりも、むしろコストを安くしようという動きが主になっている
のかもしれません。


セリの効果

 輸入牛肉については、去年の4月以降、事業団のセリが月2回あって、その同じ
日に一般セリを行いました。これが大体、1回150トンから200トンぐらい集めてい
ます。フローズンが主体で、出荷量の60〜70%が商社となっています。しかし実際、
毎回落札数量は非常に少ない。お客さんはあまり買わないけれども、皆さん最後ま
で残って、指し値とかセリ値を見て帰られるところをみると、当市場を通して指標
というか、価格の基準をそこに見つけようとしていると思います。セリそのものに
よる売り上げとしては、それほど実効はないのですが、日常の売り買いに、そのセ
リの明細あるいは指し値、こういったものがやはり基準になっている。これが皆さ
んに役立っているというふうに考えています。多くのお客さんが、東京市場のセリ
を見て、ある程度その価格の指標を見出しているという面は非常に大切で、その効
果は十分あると思っています。


開発輸入

 東京市場でも、将来的にはダイレクトに外国からも仕入れができるようなシステ
ムに持っていければいいなとは思っています。

 今は、少量ならリスキーなことでも経験して、商売を覚えながら、お客さんに供
給していく。このようなことをしていかないと、今後は委託上場だけに頼っていた
のでは、なかなか自分の商売として成り立たないし、発展できないものだと思って
います。

 開発輸入は、現在、ゴールドコーストというブランドのチルドビーフ、あるいは、
TMMというブランドを上場しています。これは数量的にも、まだほんとの試験輸入
の段階です。1回のセリで3トンから5トン程度です。将来的には、そういったチ
ルドビーフのセットを直接仕入れができるような体制づくりができるかどうかとい
うことが課題です。

 これに関連してくるかと思いますが、当市場では事業団扱いの時にチルドカーカ
スそのものを枝のまま輸入して売るという経験を相当積んでいますから、これから
チルドカーカスを必要とする情勢になれば、すぐにでもできると思っています。そ
れもチルドカーカスでやるのか、チルドセットの形でやるのか、あるいは両方の形
でやるのか、どちらが有利か、そういうことを分析していくことが今後の研究課題
と思っています。


国内物では安定化とプラスメリット

 国産牛肉のことを考える場合、めすは生乳生産との問題があるが、特に乳おすに
ついては食肉需要との問題が主となります。乳おすについては、例えば現在のよう
な端境期にスペア的に入れてくるというようなこともあって、価格のフロートが激
しいことから、そういう点についても生産者の安心感というか、信頼性に欠ける面
が多々あると思います。今後やはり、このような面で受入れる側も努力する必要を
感じています。市場会社としてできることには限界がありますが、それでも何とか
努力して、扱いを増やし、安定化させて、国内の牡犢の価格が信頼される指標価格
になるように努力したいと思っています。

 今後増えると思われるのは、和牛の人工受精卵移植です。東京市場でも卵巣の全
摘出をやっていますけれど、将来ここでとった卵巣の卵からできた受精卵は東京市
場で取り扱えるようにしてほしいと関係者にお願いしています。今は個体識別はな
かなか困難で早急にどの牛の卵から受精卵にしたということがわかるような仕組み
をつくり、なおかつ、それを提供してくれる生産者の地域にこの受精卵がフィード
バックされることによって、また生産されたものが成牛となってここの市場に再上
場されるというような一つのサイクルをつくりたいと願っています。

 市場の重要性というものを考えれば、やはりその市場に上場することによって価
格以外の何かのメリットがあるということが必要だと思います。


東京に出荷する魅力

 今は、それぞれの市場とも厳しい局面を迎えて、いかに生き残りを図るかという
のが33市場の大半のところの切実な問題だと思います。各市場でそれぞれ立地条件
は違うと思います。東京の市場は消費地の真ん中にある市場だし、各地方のセンタ
ーなり市場というのは生産地と直結した市場です。ただ、それぞれの特徴があって、
東京の市場というのは、生産地は遠隔かもしれませんが、消費地であるがゆえに膨
大な需要があるわけです。一方、生産地の市場というものは周りで生産しています
が、需要が少ないわけです。

 その中で、東京市場の場合は、東京では生産していませんから、他府県から集荷
しなければならない。集荷のために最大限の努力をし、東京に出荷する魅力をつく
らなければならない。いくつもの県を通り越して、高い運賃コストをかけて来ても
メリットがあるような魅力のある市場にしなければ、東京の集荷というのは難しい
のではないかと常に思っています。

 東京は首都圏であるゆえに需要者も多く、品質の良い物が集まってくるというこ
ともあって、他の市場よりも高く売ることができます。これが出荷者にとって大変
な魅力に違いありません。したがって、これらに応える体制と努力を続けなければ
ならないと思います。


部分肉の取扱い

 部分肉の取扱いというのは、昨年度に比較して、牛肉で60%増しです。豚肉も10
%以上増えています。

 今までこういう部分肉の扱いというのは少なく、特に牛などはほとんどありませ
んでした。それを昨年度からどんどんやるようになるし、豚も買い付け、集荷をし
て、買受人にあっせんするという形でやっているので、これらのセクションは年々
増えていくと思います。

 牛については、仲卸業者の方々がそれぞれ部分肉に製造して販売をしております
が、豚の生体、枝肉についても、場内でカット肉に加工する場所をつくれば、市場
の取扱数量は増加すると思います。大口需要者が市場から離れているというのは、
やはり加工場がここになく、枝肉で搬出をしなければならないからです。そういう
面での設備の近代化、市場にマッチングした加工場をこの中につくるということが
ぜひ必要だと思うのです。

 確かに言えることは、生体の豚なり、牛を持ってきてここでと畜するという形の
ものは、やはり限界があると思います。この周辺の建物も近代化され、再開発され
てきますから、そうなると、枝肉もさることながら、部分肉中心に商う市場という
ふうに変貌しなければならないのかもしれません。


今後の市場の生きていく道

 当市場が本来の機能を維持し、かつ食肉流通の中心としての役割を果たすために
は、社員一人一人が例えば牛の見分け方、商売のやり方、そういうものを身につけ
て、出荷者の人たちにも満足のいく評価をし、なおかつ、買い手の皆さんにも納得
のいく相場で売れるか、これを念頭にし、皆さんに信頼を得るような販売努力をし
ていくことが今後の市場としての生きる道だと思っています。

 うちの従業員に対しても、そういう点では、今、一生懸命意識改革をし、汗をか
くようにさせています。そこまでいかないと市場の生きる道はないと思っています。
それから、消費者の皆さんが今関心を持っていることは、安心して食べられるもの
を供給してもらいたいというのが一番だと思うのです。外国物も、国内物について
も添加物の問題などいろいろあります。そういう問題を含めて、安心した商品を提
供できるように、厳重な検査を実施していますし、これからもなお一層努力してい
かなければならないと思っています。


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