★ 事業団便り

がんばれ褐毛和牛

　この７月５日から７日まで、（財）日本農業研究所赤嶋昌夫研究員の調査に同行
し、熊本県矢部町の畜産を見る機会を得ました。同氏の報告は、追って「畜産の情
報」でレポートしますが、それに先立って同町に見る褐毛和牛の現状を報告します。


安値の連続

　熊本県矢部町は昔から褐毛和牛（町では赤牛と呼んでいますので、以下赤牛とし
ます。）の飼育が盛んでしたが、牛肉の輸入自由化のあおりを受けて、平成２年に
は肉用牛飼養農家844戸、飼養頭数（成牛のみ）3,648頭でしたが、４年には712戸、
2,445頭となっています。特に、４年頃から、赤牛の子牛価格の低迷を受けて一部
黒毛和牛に代える農家もでています。

　この原因としては、矢部町担当者も、また訪問した農家も一様に、「子牛価格の
低迷」を挙げています。平成２年〜５年の矢部市場の子牛価格は別表のとおりです
が、平成２年に比べ１／２近い数字となっています。昔は、１頭100万円を超えた
時期があるといいますから、価額の落差は乳用種の子牛を上回るものがあります。
小遣い稼ぎに非常によかった牛飼いもこれだけ下がれば、元もでないというのが実
感でしょうか。

　しかしながら、矢部町では赤牛の飼育をやめるのではありません。矢部町農業委
員会が４年８月に行った農家意向調査にでています。調査は矢部町内６地区全農家
（1,500戸）を対象に実施しましたが、現在牛を飼っている農家は641戸、そのうち
「子牛の価格が安いが、今後黒牛に替えたいと思いますか」という質問に対し、�@
赤牛のまま53.1％、�A黒牛を導入14 .2％、�B黒牛の種付（F1）3.9％、�C牛飼いを
やめる28.8％という結果です。まだ半数以上の農家が赤牛のままと回答していまし
た。お年寄りにも孫の面倒を見るように育てることができる赤牛の人なつっこい性
格が、利益を追求するための「黒牛、Ｆ１の導入」を上回っているということです。


堆肥の確保

　矢部町では、販売金額の第１位は米という農家が64.9％、同じく野菜は21.9％を
占め、畜産は3.0％しかありません。農家のほとんどが稲作、畑作を行い、肉用牛
は複合作目の一つとしてとらえられ、主に堆肥の確保のためとなっています。

　矢部町自体は、平地と山間地域の中間地域にあたり、高原野菜や、最近では花き
栽培も盛んになっています。これらの畑地には有機質肥料が必要で、その重要性は
訪問した農家のみなさんが言われていました。例えば、ピーマンの肉厚、収量、さ
らに色の善し悪しにも影響がでます。

　訪問した農家に「昔は５頭以上飼っていたが、今は、２頭しかいない」という方
がいました。「キャベツには堆肥が必要ではないのですか」と聞くと、「近くの肥
育業者から車単位で（２トン車11,000円）買っている。今はキャベツで手が回らな
い」とのことでした。


スナックが複合経営

　話は変わりますが、２日続けて泊まった宿屋の隣に、スナックがあり、夜が長い
こともあり、フラッと寄りました。マスターとその奥さんだけの店ですが、客もい
ないこともあり、東京の話などしていますと、マスター達が矢部町管内の地区で農
業をやっており、しかも赤牛を飼っているとのことです。水田１ha、畑作２ha、赤
牛が昔は５頭ほどいたが、今は３頭ほどということです。農家の人がいろいろなこ
とにチャレンジしていますが、私としてもスナックを経営している人ははじめてで
す。「お仕事がつらくないですか」という質問には、「朝の７時頃から場合によっ
ては夜の２時、３時まで。農業も、スナックも好きですから」と明るい答が返って
きました。


がんばれ赤牛

　今回の矢部町での調査は、「あいがも」による水稲の有機栽培、これらに打ち込
んでいる農家の姿、それをサポートする奥さん達、さらには、「青年文庫」をとお
して町全体を活性化していこうとする若者達等々、畜産とは直接関係ない話もあり
ましたが、赤牛が矢部町の人たちと密接にとけ込んでいながら、子牛価格の低迷で
母牛の更新を行わなかったり、黒牛に代えている現場の姿を見ることができました。
そして今後どうなるか。

　牛飼いをやめる（３割弱）、堆肥の確保は外部に依存（３割強）というアンケー
ト結果からは心寒いものがありますが、一方で赤牛のまま飼育するという農家が５
割強を占めていることに期待したいと思っています。

（企画情報部　村尾　誠）

別表　家畜市場成績（矢部家畜市場）

注：合計欄には雄を含む。平均価格は千円／頭。
 
 

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