食肉卸売市場の目指すべき方向 W

愛知食肉卸売市場協同組合


 牛肉の輸入自由化後、そろそろ2カ年を経過しようとしております。その間、食
肉業界は、生産、流通、消費に至るまでの各段階において様々な転換を迫られてき
ました。

 このようななかで、東京食肉卸売市場、大阪食肉卸売市場そして福岡食肉卸売市
場と、それぞれの卸売市場が抱える課題と新たな食肉流通への対応策を紹介してま
いりましたが、今回は、併設と畜場を持たないため、枝肉、部分肉を中心にいち早
く輸入牛肉の独自ル−トの開拓に力を入れてきた愛知食肉地方卸売市場の現状と抱
負についてお話を伺う機会を得ました。

1 月 日;平成4年12月4日

2 場 所;愛知食肉地方卸売市場 会議室

3 出席者(敬称略);
    
    愛知食肉卸売市場協同組合
      
           専務理事  藤村  勲
      
           常務理事  茅野 拓平
      
           次  長  浅井  学

なお、聞き手は、事業団企画情報部部長南波利昭他です。
 

*併設と畜場を持たない卸売市場

 愛知食肉地方卸売市場は、昭和54年12月に設立されました。設立当初から、併設
と畜場を持たずに、各地の産地食肉センタ−との連携により枝肉または部分肉を集
荷し、上場してきた点に大きな特色があります。設立当時は、産地食肉センタ−の
整備や部分肉流通への移行が徐々に進んでいた頃でもあり、一方で、その受け皿と
なる大消費地での流通施設が不十分でありました。また、食肉需要の多様化・増大
にともない市場外流通が拡大しはじめてきた頃でもありました。このようなときに、
愛知県下の食肉関係者により愛知食肉卸売市場協同組合が組織されました。以降、
当組合は、市場の開設者として地域住民に対する食肉の円滑な供給と、食肉の適正
価格実現のために積極的に業務を推進しております。

 その後、昭和57年6月に地方食肉卸売市場としての認可を受け、同年10月には畜
安法に基づく指定食肉市場となりました。さらに平成3年4月には、市場の隣地に
中部食肉部分肉流通センタ−が完成し、中部圏における部分肉の中心的基地として、
さらに食肉の情報発信基地として活動しております。

 取扱い量も順調に増加しており、取扱い金額としては、平成3年度は全国の食肉
卸売市場の第2位の約620億円を記録するまでに成長してまいりました。

 主要な仕入れ先は、全農、愛知県経済連、愛知同食、フジチク、ハンナン、伊藤
忠、ニチメン、明治屋などです。また、主要な買参人は、ムッタ−ハム、サンミ−
ト、買参組合、伊藤ハム、プリマハム、日本ハムなどです。


*市場間での商品、情報の交換流通

 私どもの市場の特色のひとつに「市場間流通」があります。これは、福岡食肉卸
売市場、東京食肉卸売市場、四日市食肉卸売市場、岐阜食肉卸売市場、立川食肉卸
売市場等で豪州産牛肉「ゴ−ルドコ−スト」を中心とした輸入牛肉をそれぞれの市
場で売っていただいております。この「ゴ−ルドコ−スト」は、私どもが、豪州の
ジップフィ−ルド社と提携し、平成3年から日本の消費者にマッチした牛肉として
開発したブランドです。約半分がせりで、約半分が相対で取引されています。当初
はサンプル品を各市場に搬送し充分に検品をしたうえで売っていただいておりまし
たが、現在ではサンプルなしですっかり定着してまいりました。

 逆に、福岡市場からは豪州産輸入牛肉(冷蔵枝肉)の「NAP」ブランドの委託
上場を当市場で行っております。これは、豪州産チルドビ−フとしては、マ−ブリ
ングの状態がとても良く、当市場では、福岡市場さんがびっくりするくらいの高い
評価を得ています。

 また、あとで詳しくふれたいと思いますが、こうした卸売市場間での商品の交流
はもちろんのこと、将来的には情報(枝肉市況、部分肉市況等)の市場間転送を広
く実施したく現在検討中です。システム売買端末機による情報の交換は現在、四日
市市場だけですが、近々、他の卸売市場にも情報の転送を始めるべく計画中です。


*特定産地の和牛枝肉を恒常的に上場

 さらに私どもの特徴としては、取引の中心となる和牛枝肉の銘柄が定着化されつ
つあることがあります。仙台牛、長崎牛、沖縄牛がその代表です。毎週、均一化さ
れた肉質のものを定量入荷し上場しております。例えば東京市場さんのように中央
卸売市場の場合は、仙台牛が入ってくるのは当然なのでしょうが、私どものような
地方卸売市場で特定産地のものが恒常的に上場されるのはめずらしい特徴であると
自負しております。そして、こうした商品をせりと予約相対で取り引きしておりま
す。


*産地との相互信頼

 特定産地の和牛枝肉を育てるのに多くの努力を払ってきました。

 例えば、仙台の生産者の方々に、名古屋まで来ていただき、この地方の代表的な
レストランや食肉店を視察していただく機会を過去に何回も設けました。逆に、当
市場の買参人の方々といっしょに仙台の産地を見学にいったこともあります。

 長崎との取引では、自分達のつくった牛肉を食べたことがないと聞いたので、生
産者の集いに愛知から長崎牛を持っていき調理して試食していただきました。そし
て、共励会を数多く開催することで長崎牛のPRに努めてきたところです。

 また、最近では、沖縄牛の取扱量が増えつつあります。その背景には、沖縄牛の
肉色の良さ(変色が他のものに比べ遅い)に、人気があるようです。

 このように「産地に買参者が飛び込んで行く」そして「生産者が消費地を良く見
る」という基本的考え方を市場運営の根底に置いてきた結果、仙台、長崎、沖縄を
中心として肉質の均一化されたものがコンスタントに入荷されるようになりました。
現品を検品せずに事前に予約が入ることすら稀ではありません。ス−パ−からの委
託買付けの例もみられるようになりました。 

 こうして、産地と買参者との交流を進めながら相互の信頼関係が深まってゆくこ
とは、たいへん喜ばしいことと思っています。


*枝肉から部分肉へシフト

 私ども愛知食肉卸売市場は、と畜場を併設しておりませんので、取引形態は搬入
枝肉と部分肉だけになります。取引数量は、次のとおりになっています。

    枝肉取引成立頭数(単位;頭)
  牛枝肉(搬入) (うち和牛) 豚枝肉
S57 2,714 1,482 58,928
S60 6,758 5,784 54,786
S63 26,076 22,511 33,910
H 元 26,275 22,305 33,272
H 2 24,247 21,457 39,718
H 3 20,514 20,423 11,377
  宮城  816  
長崎  627
沖縄  489
 当市場は、和牛中心で乳牛やF1はほとんどないといってよいでしょう。枝肉の
取引頭数は、近年減少傾向にありますが、これは牛肉の自由化にともない、当市場
が輸入牛肉を含めた部分肉の取扱いに力を入れてきた影響です。

 平成3年度の数値ですが各部分肉の取引実績は次のとおりです。

  牛部分肉     9,719トン
  輸入牛部分肉   21,749トン
  豚部分肉      230トン
  輸入豚部分肉    264トン 



*価格形成機能を十分に備えた市場を目指して

 現在、全国に32の中央・地方食肉卸売市場がありますが、これが「市場」とし
て生き残っていくのか、「と畜場」として生き残っていくのか、更に両機能を求め
つつ生き残っていくのか。この問題をここ2〜3年、私どもは考え続けてきました。
その結果、私どもは「市場」として、さらには、「価格形成機能を十分に備えた市
場」として活動したいという結論が出つつあります。

 将来的に、食肉卸売市場で枝肉のせりがいつまでつづくのか自問自答を繰り返し
てきました。銘柄牛というものは、自分の目で商品を見て納得した上で買い付ける
ものです。ですから、銘柄牛についての枝肉せりは、そう簡単には無くならないで
しょう。しかし、それ以外のものについては、どう考えても部分肉流通が主流にな
るものと考えざるを得ないのです。国内産の牛肉を市場同士で引っ張り合いをして
いるような気がしてなりません。私どもの市場では、併設と畜場を持たないことか
ら他の食肉卸売市場と比べれば動き易い点があります。

 輸入牛肉についても、現在、独自に取り扱っている市場はまだ少ない状況です。
輸入牛肉、特に当社のブランドである「ゴ−ルドコ−スト」を中心とした部分肉取
扱い業務を進めながら実力をつけて他の市場がやっていないことに力を入れてゆき
たいと考えています。

 さらに、牛肉の輸入自由化が決定された当時から私どもは、これからは、部分肉
流通の時代であると確信しておりましたし、冷蔵庫機能や食肉加工機能については
自分達で研究していましたのである程度のビジョンは描いていました。しかし、畜
産振興事業団が輸入牛肉から撤退した後のマクロの様子がよく解らなかったのです。
そこで約2年半かけて三菱総合研究所と共同研究したのが「これからの卸売市場は、
物流機能と情報機能の両者をもつべきだ」という結論です。それを、具体化したの
が、愛知食肉卸売市場協同組合が運営している「中部食肉部分肉流通センタ−」で
す。 


*コンピュ−タ−活用による輸入牛肉のシステム売買と情報提供

 この中部食肉部分肉流通センタ−の業務の柱は、

ア、コンピュ−タ−による商取引(システム売買)
イ、端末機をもった会員に対する国内外の生産・流通・消費の情報提供業務(情報
 提供業務)
から成り立っています。

 まず、システム売買についてですが、これは、輸入牛肉や産地食肉センタ−の国
産牛肉などの売り注文と食肉卸売業者からの買い注文を中部食肉部分肉流通センタ
−のホストコンピュタ−につないで成立させるものです。

 当センタ−に入居しているテナントを中心に、コンピュ−タ−の端末を設置し、
毎日午前と午後の2回、画面上に上場するブランドや部位、価格、量などを表示し、
ボタン操作で瞬時に入札するシステムになっています。このシステムは主として輸
入牛肉に使われているのですが、輸入牛肉を取り扱ってみて感じたことは、規格が
きちんとしていればブランド、部位を言えばサッと相場が立つということです。国
産物もいずれは部分肉の規格が揃い、いわゆるシステム売買が可能になるであろう
と予想しています。

 また、情報提供業務は、当初は、システム売買を補完するものとしてスタ−トし
ましたが、今では独立した業務になっています。食肉の需給に関する情報など商取
引に必要と思われる各種情報を、コンピュ−タ−の端末を使って提供し、食肉の価
格と流通の安定をサポ−トするものです。 

 主な情報提供メニュ−は、<国内産地情報><食肉市況情報><部分肉市況情報>
<海外価格情報><飼料情報><POS情報>などです。

 さらに、同センタ−施設内には約1万1200トンの保管能力をもつ冷蔵庫と床面積
2300uの食肉加工施設があります。特に食肉加工施設にはスライスパック等の1次
加工室のほか煮物室、焼き物室、レトルト室等、加熱調理により付加価値を高める
機能設備がなされています。現在、食肉加工部門は外部からの委託により加工して
おりますが、売れない部位を如何に活性化させていくかという発想の原点から、平
成5年度から食品開発室をさらに増室し、プロジェクトチ−ムにより愛知食肉組合
独自の商品を研究開発していく予定です。


*集荷、分荷、情報の三拍子

 流通における市場としての位置付けは何か、と考えたら、やはり価格形成機能に
あるといえるでしょう。私どもは食肉の中でも、まず、和牛と輸入牛肉を中心に、
その役目を発揮して行きたいと思います。輸入物の価格形成をどこかがしっかりと
果たさなければ、国産物にまで悪影響が及びます。

 名古屋近郊を含めて、北海道から沖縄まで自らどんどん進んで産地に入ってゆき、
広く集荷をして行き、銘柄の定着化を図って行きたいと思っています。「愛知」に
は、<集荷>と<分荷>と<情報>の三拍子そろっていると誰からもおほめの言葉
をいただけるよう、そして、消費地と生産地の接点たる重要な市場としてこれから
も頑張って行きたいと思います。


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