★ 巻頭言


年頭所感

農林水産省畜産局長 赤保谷 明正


 平成五年の年頭に当たり、新春のお慶びを申し上げますとともに、現在の我が国
畜産をめぐる情勢と課題及び対策について所信の一端を申し述べ、決意を新たに新
年に臨みたいと思います。

 御承知のとおり、我が国の畜産は、国民の食生活の高度化、多様化等による需要
の増大を背景として順調な発展を遂げ、今や我が国農業の基幹的部門となっており
ます。

 しかしながら、最近においては、畜産物の需要の伸びが総じて鈍化しており、生
産の動向等によっては、需給の不均衡、価格の低迷といった事態を招来しやすい部
門も存在するところとなっております。また、今年で牛肉の輸入割当制度が撤廃さ
れて三年目を迎えるほか、対外的には、ガット・ウルグァイ・ラウンドが交渉中で
ある等の事態に直面しております。

 このような状況の下で、国民への畜産物の安定供給と畜産経営の健全な発展を図
るためには、生産性の向上、高品質化等経営体質の強化、畜産主産地の活性化等を
図るとともに、畜産物の需給動向への的確な対応に努めることが不可欠であり、ま
た、畜産物の流通・加工の合理化、消費者ニ−ズの変化に対応した商品開発等畜産
関連産業の健全な発展を図ることも重要であります。

 本年は、このような基本的方向を踏まえ、生産、流通、価格、消費にわたる各般
の施策を、次の諸点に重点を置いて推進してまいる所存であります。

 第一に、大家畜畜産の振興であります。酪農及び肉用牛生産は、国土資源の有効
利用を図る上で、あるいは今後の地域農業の展開や農山村の振興を図る上で、その
果たす役割がますます重要なものとなってきており、今後とも、我が国の土地利用
型農業の基軸として位置付け、長期的な視点に立ってその健全な発展を図る必要が
あります。

 このためには、生産性の向上等経営体質の強化を図ることが喫緊の課題となって
おり、飼料基盤の整備、経営規模の拡大、経営の効率化等による低コスト化等を推
進し、可能な限り内外価格差の縮小を図りつつ、消費者ニ−ズに対応した合理的な
国内生産の振興に努めてまいりたいと考えております。

 特に、平成五年度においては、肉用牛については、地域資源の有効活用と地域農
業の連携による効率的な生産集団を育成するとともに、酪農については、生産性の
向上を図りつつ、ゆとりを創出するための対策を新たに実施してまいりたいと考え
ております。

 第二に、飼料対策であります。今後の大家畜畜産経営の安定的な発展のためには、
飼料自給力を向上しつつ、粗飼料の生産性向上等により飼料費の低減を図ることが
重要であり、このため、自給飼料生産の拡大を図るための総合的な対策を新たに推
進するとともに、草地の造成・整備の計画的な推進、自給飼料の低コスト化や放牧
利用の推進等に努めてまいりたいと考えております。

 一方、濃厚飼料については、我が国は、飼料穀物の大部分を輸入に依存しており、
米国等主要生産国の農業政策や気象条件その他の不確定な要因による影響を受けや
すい体質にあることから、その供給及び価格の安定を図ることが重要であります。
このため、飼料穀物の安定的な輸入と備蓄の推進及び配合飼料価格安定制度の適切
な運用に努めてまいりたいと考えております。

 第三に、畜産物の価格安定対策等であります。適正な畜産物価格の形成は、畜産
経営の安定に資するだけでなく、畜産物需要の拡大にとっても不可欠なものであり
ます。このため、引き続き、各種の価格安定制度の適切な運用に努めてまいりたい
と考えております。また、流通・加工の合理化及び近代化のための施策を推進する
とともに、消費拡大対策を推進してまいる所存であります。

 第四に、家畜改良増殖対策と畜産新技術の開発・実用化対策であります。我が国
畜産の安定的発展を図るためには、家畜の能力向上を通じた生産性の向上と経営体
質の強化を図っていくことが重要となっております。このため、牛群検定の実施等
をはじめとする家畜改良増殖対策を推進するとともに、受精卵移植等の畜産新技術
については、その推進体制の整備を進める一方我が国畜産の未来を切り拓く方策と
して、その向上と普及・定着の促進に一層努力してまいりたいと考えております。

 第五に、家畜衛生対策と畜産物の安全性の確保であります。多頭化、集団化等飼
養形態の変化に応じた家畜衛生対策の確立に努めるとともに、畜産物の安全性に対
する社会的関心の高まりに対応して、飼料、飼料添加物、動物用医薬品等について、
安全性・有効性の確保、使用の適正化を図るための諸対策を推進してまいる所存で
あります。

 第六に、畜産環境整備対策であります。混住化の進展等に伴う畜産環境問題の解
決に資するとともに、耕種農業における化学肥料の利用を節減し、環境への負荷の
少ない環境保全型農業の推進を図る観点から、堆きゅう肥の需給調整機能の強化、
堆きゅう肥処理保管利用施設の整備等を推進するほか、畜産経営の周辺環境の整備
等を推進してまいりたいと考えております。

 以上申し述べました諸施策を円滑かつ効率的に実施し、我が国畜産の一層の発展
を図っていくためには、関係各位の御理解と御努力に待つところが大であることは
申すまでもありません。

 皆様方におかれましても、我が国畜産の発展のため、旧年にも増して御尽力賜り
ますようお願いいたしますとともに、皆様方の一層の御発展を祈念いたしまして新
年のごあいさつといたします。


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