★ 事業団便り


ある酪農家のつぶやき


 2月発行予定の事業団季報「畜産」(第5号)では、生乳がどのように生産され、
たくさんの人達の手を経て私達が飲む牛乳やバターとして製造されているのか、そ
の過程を明らかにしようと考えています。このためモデルの酪農家として、福島県
安達郡の佐々木さんを紹介することにしております。その詳細は、次に発行する季
報を見ていただくとして、今回、取材を通じて知った佐々木さんの経営や暮らしぶ
り、さらに人柄に接して気がついたことを書き留めてみました。

 佐々木さんは、経産牛38頭、育成牛25頭、初妊牛6頭、計69頭を飼育する比較的
大きな農家です。元気な奥さん、子供さんが3人、長男で中学2年の貴史君、長女
で小学校6年の裕美さん、次女で4年の文子さん、ご両親の7人家族です。経営も
堅実であり、昭和54年に飼料基盤の整備、機械の導入、畜舎の建設を行いましたが、
現在、借り入れ金として畜舎の建設費が残っているだけです。また、乳牛の導入も、
ほとんど自分で行っています。佐々木さん自身は、毎日、酪農の仕事をされる一方
で、近くの酪農家の人達と酪農研究会を作り、その会長を務められるとともに、中
学校のPTAの副会長の要職も担われています。

 佐々木さんからは、酪農経営について色々お話を伺ったのですが、その中で、
「中学校で生徒180人に将来の職業について、アンケートしたんだが、だれも農業
をやるというのがいなかったんだ」と言われ、あぜんとしました。「えっ、貴史君
も入っていなかったんですか。佐々木さんほどしっかりした経営をしていてもです
か?」とたずねると、「そうなんです。学校の先生になりたいと言っています。私
自身、子供の職業は、親が口出しをするのでなくて、自分で決めるという方針を持
っているんですが、貴史は幼い頃から、牛にさわったり、生乳を飲むのが好きだっ
たので、ある程度は、後を継いでくれるのではと期待していたんだが……」と言わ
れました。 さらに、「小さい頃、他のサラリーマンや稲作農家では、海へ行った
り、旅行にいったりしていたときに、牛飼いをしている我が家では、お父さんが、
毎日、休みもなく、牛の世話をしたり、草を刈っている姿を見ていやになったんじ
ゃないでしょうか。十数年前は機械も十分でなく、朝から晩まで働いていたもんな」
と、ややさびしげに語っていました。

 佐々木さんが会長を務める酪農研究会でも、このような後継者問題が多く聞かれ、
悩んでいるそうです。

 酪農家の人達が休みをとるために各地で酪農ヘルパー制度が作られています。酪
農ヘルパー制度について、佐々木さんは、「安達郡にもヘルパー制度があり、私も
最低、月1回は利用しています。後継者を確保するためには、給料をサラリーマン
並みにし、定期的な休みがとれるようにすることが必要です。酪農ヘルパー制度に
より、子供達と過ごす時間ができましたし、あとは、農業についての将来展望を示
していただければと思います。」と訴えられました。

 毎日の乳牛の管理、搾乳と、酪農家の仕事にはきついものがあります。また、酪
農家の経営は、必ずしも良い環境にはありません。そのような中で、少しでも自分
の子供とふれあう時間を作ろうと努力される佐々木さんの姿を見て考えさせられる
ものがありました。

 取材を終え、帰路につきながら、なんとか佐々木さんの努力がみのり、今後の酪
農経営に明るい展望が切り開かれるよう願わずにいられませんでした。

(企画情報部 村尾 誠)


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