なぜ、バターの調整保管か

−畜産物の需給等情報交換会議より−
(乳業部、企画情報部)


 今年の8月1日からバターの調整保管が始まり、9月3日には、(社)中央酪農会議が今年度の生乳の計画生産数量を前年度実績比98. 5%に下方修正しました。

 このような状況の中で、最近の牛乳・乳製品の需給について、また、バターの過剰について畜産物の需給等情報交換会議が開催されました。以下はその概要です。

                   記

1 開催日 平成5年11月1日(月)
2 場 所 畜産振興事業団2階会議室
3 出席者(敬称略、順不同)

  大森俊夫雪 印乳業葛ニ務製品営業部原料乳製品グループ課長
  堺   卓三 明治乳業葛ニ務商品販売部マーケティンググループ課長
  冨田浩二郎 森永乳業葛ニ務用食品部販売担当次長
  小関  文男 全国農業協同組合連合会 酪農部乳製品課長
  川守田  誠 全国酪農業協同組合連合会 乳業部乳食品課長
  有田   真 よつ葉乳業鞄結梹x店 乳製品課長
  大島  國宏 北海道乳業販売渇c業第一部長
 (事業団    滝沢乳業部長、土屋企画情報部長ほか) 
生乳計画生産の下方修正

 4年度の生乳生産量は、前年度比103. 3%と好調な伸びを示した一方、飲用牛乳
等向け処理量が99. 8%と7年ぶりに前年度を下回ったことから、乳製品向け処理
量が109. 3%とかなり伸び、4年度末の乳製品の在庫量は、バターが5. 1カ月分、
脱脂粉乳が3カ月分となりました。(社)中央酪農会議は、最近の牛乳・乳製品の
需給動向を踏まえ、既に決定していた5年度の当初の生乳の計画生産目標数量(前
年実績比)を100. 9%に修正しましたが、平成5年度に入っても生乳生産量は、4
月、5月が102%台、6月以降も前年を上回る水準で推移しました。一方、飲用牛
乳等向け処理量は、4月がほぼ前年と同水準となったものの、5月以降は、前年を
下回る水準で推移し、8月、9月は、冷夏の影響もあり、ついに95%台まで落ち込
むところとなりました。このため、乳製品向け生乳が大幅に増加し、クリームの需
要の減少等と相まって、特に、バターの在庫量が増大したことから、8月1日から
バターの調整保管が始まりました。さらにこのような需給緩和を背景に9月3日に
は、(社)中央酪農会議は、生乳生産の計画目標を98. 5%に下方修正することと
しました。


市乳化率と乳製品

 生乳生産量に対する飲用牛乳等向け処理量の割合を市乳化率をいいますが、過去
20年間、60%前後で推移しています。この市乳化率と生乳生産量の伸びを比較する
と、市乳化率の高い年度と生乳生産量の伸びの高い年度にズレがあり、市乳化率が
ピークに達した後、生乳の増産がみられ、その後、市乳化率が低下し、乳製品向け
処理量がかなり伸びています。最近の市乳化率を月別で見ると、4年12月から5年
8月までは60%を下回る水準で推移しています。


乳製品需要と気候

 今年度第1四半期は天候がまあまあ良かったこともあり、飲用牛乳を含め、その
他の飲用、缶飲料の需要もある程度あったと思います。第2四半期は気象庁始まっ
て以来の冷夏となり、飲用関係が大幅にダウンしました。しかし、7月〜9月とい
うのは、本来、非常に暑い時期なので、製菓・製パン業界は、一休みの時期になる
のですが、この冷夏が逆に作用して、製菓・製パン関係を中心にしてバターの需要
が増えています。ただし、製菓・製パン関係の需要増を大幅に上回る生産により、
バターの在庫は積み増しされ、8月にバターの調整保管が始まったにもかかわらず、
この傾向は継続しているというメーカーが多かったのではないでしょうか。

 バターについては、通常これから年末のケーキ、菓子等の需要で在庫が減るので、
調整保管分の切り崩しという可能性がありますが、逆に、1月〜3月は在庫の積み
増しの時期になるということもあり、今年度中にバターの在庫の減少量については
予断を許しません。脱脂粉乳については、需要の大幅な増加は期待できませんが、
在庫の積み増しをしないで済みそうで、年度末では、期首在庫よりもやや減るので
はないかと考えています。


消費者の嗜好と乳製品

 最近の牛乳・乳製品の全体の需要が落ち込んでいる中で、はっ酵乳だけは、非常
に売れ行きがよく、昨年度から、10%前後の伸びを示しています。これは、消費者
の健康志向が非常に強いことと乳酸菌飲料に対する効用の報道がうまくかみ合って
いるからではないでしょうか。また、バブルが崩壊したことで、消費者がベーシッ
クなものに向かっており、はっ酵乳、特に、ヨーグルトに人気が集まっていること
も要因となっていると考えられます。

 コーヒーや紅茶等の缶飲料がありますが、これらには、生乳を使っているもの、
脱脂粉乳、練乳等を使っているものがあります。これらに使用されている乳製品に
ついては、消費者の嗜好もあり、最近は、生乳に置き変っている飲料も増えており
ます。

 さて、バターについてですが、消費者の脂肪離れから、競合商品であるマーガリ
ン同様大苦戦しています。このような状況で、マーガリンメーカーは、需要を拡大
するために、調理・料理用のマーガリン(例えば、ケーキ用マーガリン)を発売し
たりしています。最近、バターについては、塗りにくいという点を改良したソフト
タイプのバターが発売されていて、一層の健闘が期待されます。

 最近の牛乳・乳製品のPRは、カルシュウムにスポットをあてて行われてきました
が、バターについては、動物性脂肪=コレステロールというイメージが強く、この
マイナス思考を消す必要があります。従前のカロリーの2分の1という低カロリー
バターを販売しているメーカーもありますが、バターのセールスポイントというの
は、やはり、おいしさしか残されていないと思われますので、この点をセールスポ
イントにして需要を伸ばしていければと思います。


バターと脱脂粉乳の需給のは行性と需給調整

 バターと脱脂粉乳の需要のは行性は、最近、急に出てきたようにみられています
が、これまでも常に生じていた現象です。

 需給のは行性とは、バターと脱脂粉乳の生産の割合と消費の割合が異なっている
ことから生じています。例えば、脱脂粉乳とバターが2:1で生産され、これらの
消費も2:1で行われているとすれば、生産量と消費量の数量を同一にすれば、需
給は、過不足がないこととなります。また、この場合、生産量が消費量を下回れば、
バター、脱脂粉乳とも不足し、生産量が消費量を上回れば、バター、脱脂粉乳とも
過剰という需給となります。

 しかしながら、脱脂粉乳とバターの生産量の比率が3:2であり、消費量の比率
が4:2(2:1)であった場合はどうでしょう。この場合、バターの消費量に合
わせた生産を行なえば、バター需給は勿論均衡することとなりますが、脱脂粉乳に
ついては生産量3に対して消費量は4となり、脱脂粉乳が不足することとなります。
このことは、逆に脱脂粉乳の消費量に合わせた生産を行うと、バターが過剰になる
ことを意味します。

 最近では、特にバターの需要に比べて脱脂粉乳の需要の伸びが高く、また、生産
面では、脱脂粉乳の伸びに対してバターの生産の伸びが著しいことから、需給のは
行性としては、バターが過剰となるようなは行性となっています。

 具体的に4年度の脱脂粉乳とバターの需給をみてみると、生産量は概ね21万トン
と10万トンであり、消費量は21万トンと8万5千トン程度となっています。つまり、
4年度は、脱脂粉乳の需給は均衡していましたが、バターについては生産が消費を
大幅に上回っていた訳です。このようなバター過剰となるような需給の傾向は、5
年度に入ってから一層強まっています。


乳製品別の需給の把握の必要性

 今年度は、需給が大幅に緩和し、特にバターの生産と需要にギャップがみられ、
各メーカーとも苦労しています。飲用牛乳の消費拡大は、当然のことですが、各乳
製品についても、それぞれの特徴を生かした消費拡大を進める等の細かい対応が必
要であると思われます。


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