和牛F1(ホルスタイン×黒毛和種)への取り組み

全国肉牛事業協同組合 専務理事 鶴島 晃


1.和牛F1特別委員会の発足と経緯

 平成3年度に牛肉の輸入が自由化されて3年目に入った。

 その間、輸入関税も70%から50%になったことに円高の影響も加わり、安い牛肉
の輸入によって、牛肉生産はもとより豚肉まで予想以上のダメージを受けているの
が現状である。

 牛肉の輸入自由化が公表された当座、つまり平成元年の頃、当組合でも肥育規模
を抑制するため肥育素牛の買控えを申し合わせた経緯もあったが、平成3年の自由
化後も牛肉価格は比較的順調に推移したことから、逆に、肥育素牛導入が加速され
た憾みがあった。

 特に、牛肉輸入自由化の当初、枝肉価格の下落の特徴は輸入牛肉と同規格の乳用
種に著しく、高品質のものについてはそれほどの影響はないのではないかと思わせ
る動きもあって、高級肉生産志向は増幅されたと考える。

 このため、黒毛和種素牛価格は堅調に推移して来たが、ここに来て、規格間の価
格差が広がりつつあり、先行懸念されるところである。

 それはともかく、国内の肉牛資源の約65%は乳用種であり、これを消費者の嗜好
にあった「新鮮で見た目も美しく」「ホルモン剤等を使用することなく安全で」か
つ「美味しい牛肉」、つまりより高品質の牛肉を生産するために、「乳用種に黒毛
和種を交配した」いわゆる和牛F1を求めたことは自然の発想であったと見て良い
のではないだろうか。

 一般的には、交雑種はバラツキが多くて問題があるとか、所詮、和牛のマガイも
ので、何れはなくなるのではないかといった批判の声もよくきかれるところである。

 牛肉輸入自由化当初、平成3年7月頃の和牛F1肥育素牛の価格は、乳用種肥育
素牛価格の2倍近くの1頭当たり25万円にもなったが、高規格の牛肉価格が堅調で
あったことがその背景にあったことは先述した通りである。

 和牛F1生産者、つまり酪農家にとっても黒ければ高く売れるということで交配
にどのような系統雄種牛が良いのか実績もないまま、とくに系統に配慮するような
ことがなされなかった。その後結果として紋次郎の成績が抜群に良かったことから
紋次郎ブームが起こったことは未だに記憶に新しいところである。一方、肥育側も
交雑種の確立した飼育基準がある訳でもなく、和牛飼育経験者は和牛の飼い方で、
又、乳用種飼育経験者は、乳用種の飼い方で飼育してきたのが実態で成績にバラツ
キが出たのも極めて当然のことであったといえる。

 このようなことを背景として、当組合では和牛F1飼育者約30名によって、「和
牛F1特別委員会」を結成し、共通の課題として検討することとしたものである。


2.和牛F1特別委員会の検討課題と活動

 和牛F1飼育者もその目標とするところは一様でなく、大きく二つに分かれてい
る。一つは今や和牛と同等の質の牛肉を作ることを達成し、一頭当たりの収益を大
きくすることを指向するグループである。もう一つは一頭当たりの収益はそれほど
求めないまでも、限りなく和牛に近い牛肉を生産し、頭数規模の量あるいは飼養期
間の短縮によって回転率を高め絶対収益の拡大確保を追求しようとするグループに
分かれている。そしてその何れもが明確な経営方針によって貫かれており、今後和
牛F1飼育者が両立するそれぞれの道と認められる。

(1) 和牛F1特別委員会の検討課題

 経営の方針が異なっていても又、採用する基準に差があっても検討する課題は共
通であり、共同のテーマとすることによって、他と比較することが可能となるばか
りでなく、データ量が多くなり検討の進度も早くなることが期待し得ると考えてい
る。

 和牛F1特別委員会が当面検討の課題としていることは概ね次の通りである。

 (ア) 牛肉の品質向上のための研究課題
   ・BMS(脂肪交雑)のレベルアップとその安定等
   ・キメ、シマリの向上とその安定等
   ・高品質生産過程における事故牛(ズル等)防止策
   ・肉色の向上とその安定等
 (イ) 雄の選抜
 (ウ) 雌牛肥育技術の確立(乳用種と異なり雌についても肥育が前提)
 (エ) 適正な肥育期間の確立
 (オ) 適正なDG(一日当り増体重)の設定
 (カ) 飼料の給与基準
 (キ) 優秀な肥育素牛確保

(2) 和牛F1特別委員会の活動

 和牛F1が、当面する課題を検討するため、(ア)会員の牧場を順次相互訪問し、
現地での討論を行い、又、(イ)雄の成績を始め、肥育期間やDG等のデータを相互
比較し、(ウ)農林水産省畜産試験場における新しい技術、施設見学やそれぞれ専
門の分野の講師による講演会と試験研究者と委員の討論等活発な活動を行っている。


3.和牛F1共進会の開催について

 北海道から九州まで、それぞれ会員が肥育した牛を一ヶ所に集めて比較検討する
ため、去る10月15日、大宮市食肉中央卸売市場において組合主催の第1回共進会を
開催した。

 共進会では、最優秀特別賞1点、最優秀賞1点、優秀賞4点、優良賞8点が選定
され、畜産振興事業団理事長賞、家畜改良事業団理事長賞を始め、多くの畜産関係
団体会長賞が授与され極めて盛会裡に終了した。

 なによりも、この共進会は和牛F1の今後に対し、極めて多くの示唆に富んだ内
容のものであったと考える。

 成績表は、別表の通りであるが、地域別には、北海道10頭、関東22頭、山陰12頭、
九州6頭、合計50頭で、うち去勢37頭、雌13頭であった。

 格付は、去勢の場合、

A5=6頭 A4=8頭 A3=8頭 A2=4頭
B4=2頭 B3=3頭 B2=6頭
 又、雌については、
A5=2頭 A4=1頭 A3=2頭 A2=4頭
B3=2頭 B2=2頭

という結果であり、全体として見ても肉質等級「4」以上が38%で、特に去勢の肉
質等級「4」以上が43.2%と極めて高率であった。

 しかし、和牛F1飼育者の経営方針が、前述した通り和牛型というか1頭当たり
収益追求のものと、1頭当たりの収益は少なくても、多頭数で絶対収益を期待する
ものが明確に分かれており、別表で見て分かる通り、1番の出荷者は、5頭出荷し
て5頭がA5であり、8番の出荷者は、3頭出荷して3頭が4であり、9番の出荷
者は3頭出荷してA5=1頭、A4=1頭、A3=1頭、12番は3頭出荷(うち1
頭は雌)して、A5=1頭、A4=2頭となっており、このグループは正に和牛型
を指向し、そのほとんどが4以上を示し、逆に、3番の出荷者は3頭出荷してその
すべてがB2であり、又、九州グループは、2名が6頭出荷して、B3=1頭、B
2=5頭という様にそのほとんどがB2クラスとなっているのである。

 一般に、交雑種は「バラツキ」が大きいからだめだと短絡的にいわれてきたが、
勿論雄牛の影響や飼い方によってバラツキのあることを否定するものでないが、極
めて短期間に、和牛F1がそれぞれの経営方式の中で定着しつつある。

 又、今回の共進会では、全頭数、血液と肝臓を採取し、その成分と格付との関係
を見究めるべく分析中であるが、現時点でも和牛F1特別委員会で予測したことが、
極めて明確に裏付けされつつあり、全ての分析結果が整理された段階で検討するこ
ととしている。

 輸入牛肉と対抗していくために国産牛肉の生産販売の在り方が模索されている。
和牛F1はわが国で肉牛資源として最も大きい乳用種を土台にしているが、今後、
消費者の求める牛肉を生産するためには、尚検討すべき課題がある一方、関係者の
期待も大きいことを今回の共進会は示唆してくれたものと感じている。


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