◎地域便り

 この「地域便り」では、北海道、岩手県、群馬県、宮崎県及び鹿児島県の協力を得て、地域における畜産の新しい動き、先進的な畜産経営の事例等を紹介してます。
 

  豚の悲鳴

                                                          (群馬県 松本尚武)

 


 ハーハー、 あー暑い、 あー苦しい、 どうにかしてくれ、 この暑さじゃ死んじ
ゃうよ。 どうなってるんだろう、 この天気、 毎日35度を超える日が続き餌が食
べられないよ。 お腹の子もあと一週間で産まれてくる、 そうすりゃ少しは楽に
なるが、 今は無事に元気な子を産むまでの辛抱だから、 子供のために頑張らな
くちゃ。 それにしても、 うちの主人、 もう少し私たち豚のことを考えてくれり
ゃいいのに。 扇風機やドリップクーリング (豚の背中に水滴を落として体温を
下げる装置) を入れて、 少しは涼しくしてくれれば恩返しをする気にもなるけ
ど。 
 
  私たち、 豚仲間は人間様に雇われている従業員みたいなもんさね。 居心地の
いい環境にいれば働きがいもあるけど、 生きるか死ぬかのこの環境では一生懸
命働けないよ。 去年の夏は幸い、 雨ばかり降っていたので比較的楽だったが今
年は辛いよ。 私たち家族も3年前にはオーエスキー病とかいう病気で産まれた
ばかりの子豚をずいぶん死なせてしまったし、 今年は離乳したばかりの子豚を
ヘコヘコ病とかいう病気で死なせてしまった。 私たちに病気を直す方法がわか
ればこんなに辛い思いをしなくても済んだのに。 
 
  でも一番まいっているのは、 ここの主人だよ。 5年前に借金をして豚舎を建
てたけれど、 次から次へと新しい病気にやられ、 事故豚は増え、 発育は落ち上
物率も下がってきている。 市場の相場も輸入牛肉に押されて年々下がり続けて
いる。 最近ではアメリカ産の豚肉が大変な勢いで日本に入ってきているそうだ。 
私たちは輸入豚肉は台湾が恐いと思っていたけれど台湾はふん尿処理でブレー
キが掛かり、 ヨーロッパは距離的に見ても沢山入ってくる可能性は低いと思っ
ていた。 ところがアメリカは安い餌と徹底した合理化で安い豚肉を作っている
し、 チルドでの輸出を増やしている。 
 
  でも、 ぼやいてばかりもいられない。 いつまでこの家に居られるか分からな
いけど、 餌を貰っている間は一生懸命働きましょう。 私は、 豚の本場、 ぐんま
の豚ですもの。 


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