耕畜連携による地域の活性化

      京都大学農学部教授 宮 崎  昭


耕畜連携の再認識
 昭和6年、 有畜農業奨励規制が公布され、 わが国の農業はこの時点から主穀偏重
農業を改め、 有畜農業主流の時代を迎えた。 その背景には、 農業経営内に家畜、 と
りわけ牛が導入されると、 農業の生産性が向上するということがある。 家畜を飼養
すると厩肥がえられ、 地力の維持・増進、 金肥の節約、 そして畜力利用が可能とな
る。 また、 牛は老人でも、 子供でも世話できるので家族の中の老幼婦女子の労働の
活用による労働力配分の合理化にもつながる。 さらに、 草などの自給飼料と家庭の
残滓物の飼料利用によって、 農業経営全体の改善が可能となるということである。 
 
  有畜農業にあっては、 耕種と畜産はつねに農業経営内に共存していた。 しかし、 
昭和30年代になって、 耕種と畜産はともに農業生産の選択的拡大を志向する中で、 
別の道を歩みはじめた。 耕うん機の普及、 化学肥料の利用拡大、 労働力不足など色
々な社会的環境の変化によって、 1戸に牛1頭という零細な家畜飼養形態はみられ
なくなった。 そこで農家は、 一方で無畜農家へ、 他方は家畜の飼養頭数を増大させ
て畜産農家へと変化した。 その過程で家畜のいない耕種農家で地力問題が、 そして
耕地を十分に持たない畜産農家では糞尿による畜産公害が顕在化した。 
 
  これらが深刻化すれば耕種は衰退するし、 畜産は立退きさえせまられ、 生産活動
を続けることが困難になっていく。 それは、 今日、 望まれる持続的農業とは逆の方
向性をもつ。 そのため10年余り前から、 耕畜連携という言葉で、 耕種と畜産が互い
に協力しあって、 お互いの農業生産に好ましい環境をつくろうとの動きが生じた。 
それは当初、 糞尿と稲わらの交換という、 余りもの、 価値の低いものの有効活用か
ら出発した。 しかし、 その後は堆肥センターを介しての、 規模の大きな耕畜協力に
発展しているところも多くなった。 本調査は、 耕種農家集団と畜産農家集団が堆肥
センターを中心として有機的に結びつき、 地域の持続的農業確立に向けて努力する
事例を紹介するものである。 

 (事例1) 山口県阿武郡むつみ村高俣農業協同組合の堆肥センター

 
新しい土地でのトマトづくり
  昭和51年、 稲作転換対策に続いて水田総合利用対策が実施される頃、 むつみ村高
俣地域の農業は水稲単作経営が主体であった。 農協の農産物販売額の80%以上がコ
メで、 残りの大半は畜産であった。 そこで、 農協は組合員の所得向上と地域の農業
生産の拡大を図るため、 収益性の高い新しい転作作目を模索した。 
 
  その頃、 岐阜県加子母村では雨よけトマトの栽培に取り組んでいるとの情報をえ
て、 高俣地域にそれを導入する発想が生じた。 51年、 農協は転作田10アールを農家
から借り受け、 雨よけトマトの試作を行った。 同時に農家の反応をみるため、 農協
婦人部員4名にトマト苗を配り、 栽培を依頼した。 その時、 後に 「雨よけトマト部
会」 長になった女性が、 20本の苗を譲り受けて、 水稲育苗用ハウスにそれを植えた。
当時、 このハウスは、 水稲の育苗期間以外は全く利用されない状況にあった。 
 
  試作が思いのほか良い成績をあげたことに意を強くしたその女性は、 仲間を募っ
て、 その栽培を普及することにした。 当初、 女性の白粉代にでもなればという軽い
気持ちでスタートしたこの事業は、 54年には組合員34名、 栽培面積48アールの 「雨
よけトマト部会」 として組織された。 しかし、 まもなく、 トマトの収量が減ったが、
それは青枯病などの連作障害によるものであった。 
 
  その対策としては良質の堆肥の施用がもっとも効果的と考えられた。 実は、 これ
は当地のトマト栽培に限ったことではなかった。 わが国の農業全般において、 30年
代において、 機械化や化学肥料、 農薬の多投入が進む過程で、 土壌の物理的・化学
的性質が劣化し、 地力の低下、 連作障害の発生が問題になっていた。 その克服のた
めには、 有機質の施用の重要性が説かれて久しいものの、 取り扱い易い良質の堆肥
は、 必ずしも一般的に流通しない状況にあった。 

堆肥センターの設立
  高俣地域ではその解決のために、 55年から3年間かけて、 肉用牛の振興を柱とし
た肉用牛等振興施設整備事業が計画された。 これは、 肉用牛を共同利用畜舎に集め
る畜産団地化と、 多頭化に伴う糞尿処理を円滑に実施するとともに有効利活用を図
るための堆肥センターの設立というものである。 
 
  堆肥センターは、 現在、 14畜産団地を対象に敷料の確保、 保管、 供給を行う一方、 
団地の糞尿全量を集め、 熟成した上で農家に還元している。 高俣地域には、 今日63
戸の肉用牛経営がある。 その内訳は繁殖経営55戸、 一貫経営2戸、 そして肥育経営
6戸である。 肉用牛飼養頭数は合計497頭で、 その内訳は繁殖雌牛238頭、子牛124頭、 
肥育牛135頭である。  これらの経営で生産される糞尿が堆肥センターに搬入される
のである。 農協は、 肉用牛農家の糞尿を定期的に収集し、 周辺のライスセンターの
もみがらを中心に、 一部、 おが屑を混ぜた敷料と無料交換している。 堆肥センター
における堆肥製造のフローチャートを示すと、 図1のとおりである。 
 
  堆肥センターでは、 常勤の管理者が1名いるほか、 非常勤の作業員が堆肥の切り
返しに1か月間に2日間、 袋詰めに年間延べ100人、 原料調達に年間延べ30人、配達
に年間延べ50人が働いている。 
 
センターを介しての耕畜協力
  製品化された堆肥は、 バラもしくは袋詰めされてこの地域だけでなく、 もみがら
を提供した周辺の農協傘下の農家へも販売している。 そのうち最大の堆肥利用先が
 「雨よけトマト部会」である。 そこでは栽培面積の拡大、 品質の向上、 収量の安定
化を図る目的で、 56年から、 10アール当たり6トン以上の堆肥を投入することを、  
「トマトの栽培ごよみ 」 に盛り込み、 積極的に堆肥センターを活用することにして
いる。 

 無畜農家は堆肥センターの堆肥を、 有畜農家はそれに加えて自分の経営内で作っ
た堆肥を利用して、 10アール当たり6トンの施肥目標を達成している。 さらに無畜
農家の中には、 自ら稲わらや、 自衛隊演習地の野草を刈り取って、 それを畜産農家
に提供して、 堆肥と交換するものもある。 このようにして、 地域内に耕畜連携のシ
ステムが確固たる結びつきとして成立した。 この地域の土づくりのフローを示せば、 
図2のとおりである。 
 
トマトとウシは車の両輪
 この過程で、 「雨よけトマト部会」の会員数は増加し、 平成5年には70名、 栽培面
積は11. 5ヘクタールとなった。1戸当たりの平均栽培面積は、 部会設立時の1. 5ア
ールから、 現在は16.4アールへと激増した。 当然、 農協の農産物販売額に占めるト
マトの割合は伸び、 今では23パーセントに及ぶ農家経営の柱の1つとなっている。 
  ちなみに、 コメは50パーセント程度まで低下した。 
 トマトをこれまで発展させた背景には、 長年にわたる土づくりへの努力が見逃せ
ない。 今では、 基肥に化学肥料を全く利用しなくなった。 基幹防除回数 (植付けか
ら収穫までに施用する病虫害防除のための基本的な農薬散布回数) は、 通常のトマ
ト栽培では10回程度必要といわれる中で、 ここでは3回以下である。 これは、 まさ
に時代を先取りした有機減農薬栽培である。  「雨よけトマト部会」 では、それに満
足することなく、 5年から、 堆肥の施用量を10アール当たり8トン以上投与するこ
とを申し合わせ、 土づくりになお一層の努力を続けている。 
 
  しかし、 ここでも悩みがある。 牛肉輸入自由化の影響で、 近年、 枝肉卸売価格や
子牛価格が低迷しはじめ、 肉用牛経営を圧迫しつつあるのである。 この状況に対し、
 「トマトとウシは車の両輪」 と考える 「雨よけトマト部会」 は、 畜産経営が安定し、
安心して増頭ができるよう協力する意向を固めている。 むつみ村ではこうした組合
員の考えに力をえて、 牛の村内保留に補助金を交付することを決めて、 肉用牛生産
の振興に乗り出している。 
 
  このような耕畜連携は、 物質循環を基礎とした地域内の持続的農業の展開に不可
欠のことである。 そして、 それを通じて、 土壌へ良い影響が及び、 ひいては自然を
活かした農法が拡大し、 消費者が望む安全な食料の供給に自信をもって当たれるよ
うになるのである。 

 (事例2) 熊本県山鹿市小原の農事組合法人有機センター

問題をかかえた耕畜
  山鹿市小原地区はもともと養蚕の盛んな地帯であった。 しかし養蚕経営の継続が
困難になっていく過程で、 昭和39年頃、 地区ぐるみで野菜生産地帯に転向すること
になった。 当時、 野菜の産地といえば、 10年を周期に移動するものと考えられてい
た。 それは、 栽培を始めてしばらくは野菜の品質が良くても、 やがては連作障害な
どが発生してしまうからであった。 それを知る当地の人々は、 大規模な野菜産地へ
と転ずるに当たり、 土づくりによって、 連作障害などを乗り越えようと考えた。 そ
のためには、 堆肥の施用量を多くすることが何より大切と認識された。  一方、 当
地の畜産農家は、 飼養規模の拡大とともに、 糞尿処理に行き詰まっていた。 畑地の
一部に糞尿を積み上げるところでは、 雨水がそれを流出させ、 河川を汚染させて問
題となった。 そのため、  「自然と環境を守る会」 が組織され、 畜産公害を防止する
手段が模索された。 
 
有機センターの設立
  そのような状況の中で、 堆肥の安定的な供給を願う野菜農家と、 公害発生に苦し
む畜産農家は、 50年、 野菜生産安定対策事業により、 堆肥センターを設置し、 小原
堆肥生産組合を発足させた。 その後、 堆肥センターは、 農業構造改善事業で拡充さ
れ、 59年から 「農事組合法人有機センター」 と名称を変えた。 平成6年現在、 有機
センターは、 専業農家41戸 (野菜農家35戸、 畜産農家6戸) で組織されている。 野
菜農家は総面積74ヘクタールで、 すいか、 にんじん、 はくさいを主な作目としてい
る。 一方、 畜産農家は肉用牛肥育を行っており、 総飼養頭数は1, 370頭である。 
 
  有機センターの構成員をみると、 野菜農家が圧倒的に多い、 そのため、 堆肥の利
用価格の決定に際して問題が生じる恐れが予測された。 野菜農家は安く利用するこ
とを望むし、 一方畜産農家は高いことを望むからである。 そこで、 不平等な価格が
決定されないように、 役員会の構成は、 野菜農家3名、 畜産農家3名の理事、 そし
て、 中立の立場で、 高所から判断できる組合長を加えた7名とし、 よく話し合いが
行われるため、 野菜農家と畜産農家の対立はみられず、 有機センターの運営は円滑
となっている。 
 
良質の堆肥づくりへの工夫
  有機センターでは、 良質の完熟堆肥づくりのため、 畜産農家から搬入される糞尿を
、 発酵に最適な水分含量である65%程度に調整してから、 有機センターに運ぶよう
に義務づけている。 しかし畜産農家側は、 水分含量を65%程度にするとき、特に敷料
を安定的に確保することが必要となるが、 その確保が必ずしも容易ではない。 とく
に多頭化が進むと、 それは深刻な悩みとなる。 そのため、 有機センターは、 福岡県
下の家具木工団地からおが屑を無料で入手し、 畜産農家に供給している。 
 
  このおが屑は、 以前は運送業者が有機センターのおが屑貯蔵施設まで運び、 それ
を畜産農家が持ち帰ることになっていた。 しかし、 最近、 畜産農家が牛舎の横にお
が屑置場をつくったので、 運送業者がそこへ直接搬入することになった。 これは肥
育牛頭数の増加でさらに多量のおが屑が必要となったためだが、 各畜産農家は十分
な量を安定的に確保することができた。 なお、 畜産農家が糞尿を収集、 運搬するに
あたっては、 ダンプトラックとショベルローダーが使われるが、 それは有機センタ
ーが所有し、 貸付けている。 このようにして、 発酵に適した水分含量にして糞尿を
有機センターに持ち込むことが容易になった。 
 
  有機センターにおける糞尿処理のフローチャートを示すと、 図3のとおりである。 
 
センターを介しての耕畜協力
  ここでの業務は、 通常雇いの事務員1名、 臨時雇いの職員4名が当たっている。職
員は、 堆肥の切り返し作業2名、 配送作業1名、 それに機械オペレータ1名である。 
機械の整備・点検に専門的知識をもつオペレータがいることで、 有機センターにお
ける機械の耐用年数は大幅に長くなっているという。 なお、 ここでは、 畜産農家が
持ち込んだ糞尿に米ぬかと特別の酵素を混合しているが、 それは、 これらを使って
生産された堆肥を施用した土壌では団粒構造 (粒土などの微粒子が集まってやや大
きい二次的粒子を作っている構造で、 排水通気性がよく団粒内の小間隙に養水分が
保持される。) に顕著な効果がみられ、 また、 保温効果があって、 当地で12月初めで
も無加温で栽培ができるという。 
 
 堆肥は毎月1回切り返し、 8〜12か月間で完熟堆肥となる。 最近では、 主力農産
物であるすいかに適した完熟堆肥をつくるため、 切り返しの最後にリン酸肥料を添
加している。 これは1u当たり500円増しの価格となるが、 使い勝手が良いと評判
が高く、 野菜農家の多くがこれを利用しはじめている。 
 
有機栽培へと発展
  製品化された完熟堆肥は、 組合員である野菜農家35戸に優先的に供給され、 残り
を鹿本農協を通して販売する。 組合員は、 自分の畑地面積に応じて年間堆肥利用量
を決め、 有機センターとの間で契約している。 また、 その量に応じた出資金を出す
ことになっている。 組合員は、 契約量以内は1立法b (約700s) 当たり3, 250円で
製品を入手できる。 一方、 外部に対しては鹿本町農協管内では4, 250円、 管外では
5, 250円である。 なお、 組合員でも契約量を超えた分については、 農協管内と同価
格となる。 最近、 土壌改良が進み、 完熟堆肥の利用量が少なくなる組合員もあるの
で、 製品を15sの袋詰めとして新しい販路を求める動きもある。 
 
 発足当時の有機センターの組合員は、 この堆肥を10アール当たり年間10トンを施
用していた。 それを3年ほど続けると地力が高くなり、 その後は4トン程度として
いる。 具体的には7月末〜8月中旬にかけて、 すいか栽培の後でにんじん、 はくさ
いの栽培前に2トン、 1月〜2月にかけて、 すいか栽培の前に2トンの完熟堆肥を
入れている。 また、 深耕ローダーなどによる深耕、 排水処理などによる総合的な土
づくりの結果、 今では地力が向上し、 連作障害はみられず、 すいか、 にんじん、 は
くさいの単収は上昇し、 品質も向上した。 とくに鹿本市の特産品の1つであるすい
かは、 病気の発生は少なく、 2、 3番果まで収穫できるようになった。 すいかの糖
度は、 とくに2番果において高く、 有機センターの組合員以外が生産するものより、
 1. 5〜2. 0度も高くなっているという。 地力の向上は、 すいかプラスにんじん、 
はくさいなど作付体系による土地利用の効率化を可能にしている。 そして、 同時に、 
丈夫な野菜づくりによって、 農薬の使用量も減らすことが可能となっている。 

 そこで、 有機センターは組合員の栽培した野菜を消費者に自信をもって保証する
制度をとり入れることになった。 これには、 @堆肥使用量年間4トン/10アール以
上、 A堆肥施用5年連続以上、 B農薬使用量普通基準の1/3以下  (異常気象のとき
は例外) 、 C有機質化学肥料普通基準の1/2以下の野菜については、 有機センター
が有機栽培保証のレッテルを発行し、 製品を保証するシステムをとるのである。 こ
れによって消費者に対し安全を保証しているので、 消費者からの引き合いも増えて
いる。 
 
耕畜連携成功の要因
  以上2つの事例をみると、 耕畜連携を成功させる要因がいくつか浮かび上がる。ま
ず、 堆肥センターを介して、 耕畜が結びつくとき、 その両者が真剣にセンター設置
を望んでいたことが挙げられる。 耕種側は連作障害などで、 畜産側は糞尿公害など
で、 ともに経営の将来の発展に危機感もつ中で、 タイミングよく農協などが堆肥セ
ンターの基を作ったことが成功につながっていると考えられる。 
 
  つぎに、 堆肥センターの構造が単純で、 建設費が高くない点が挙げられる。 2つ
の事例では、 ともに体育館のように、 屋根の下に広いフロアーがあり、 そこには何
の設備もない。 そこに運び込まれた糞尿をショベルローダーで定期的に切り返しつ
つ、 つぎつぎ出口に向けて移動させ、 完熟堆肥をつくっている。 強制的な通気など
もせず、 自然に、 もっとも単純な発酵で堆肥をつくるのである。 これは従来、 堆肥
をつくるために複雑な装置を設置しながら、 どこかにトラブルが生じて、 高額の機
械を使いこなせなかった例と比べ、 大きな違いがある。 
 
  この他、 耕種側の栽培面積と畜産側の家畜頭羽数のバランスの良いことも大切で
ある。 また、 堆肥を毎年多量に必要とする作目がつくられることも耕畜連携にとっ
て望まれることである。 耕種農家が良質の堆肥を望むとき、 畜産農家が水分の一定
で発酵しやすい糞尿を堆肥センターに搬入しやすいように、 もみがら、 おが屑など
をあっせんする制度があるのは望ましいことである。 さらに、 糞尿の運び込みや、 
堆肥の搬出に共同利用できるダンプトラックなどがあれば耕畜は互いに便利である
し、 トラックの稼働率が高くなり、 堆肥センターの使い勝手が良くなる。 
 
  今日、 消費者は安全で品質の良い野菜などを求めている。 そういう環境にあって、 
土づくりによって安全な作物が生産できることは耕畜連携の良い点である。 化学肥
料をひかえ、 農薬散布回数が少なくなった作物は、 消費者の信頼を受け、 生産者の
経営は安定する。 耕畜連携はこのような面でも喜ばれることである。 
 
将来性のある耕畜連携
 2年前、 「新しい食料・農業・農村政策の方向」 (平成4年6月) を受けて、 農政審
議会は同年9月に 『稲作以外の主要経営部門の経営展望』 を発表した。 その中に
環境保全型農業技術の確立のための提言が盛り込まれている。 それは、 @野菜、 果
樹及び畑作における有機物の投入による地力の増進、 施肥方法の改善、 A家畜糞尿
の圃場還元によるリサイクルシステム確立のための酪農・肉用牛部門と耕種部門の
連携の強化、 ということである。 
 
  堆肥の流通性をよくするためには、 完熟させて、 臭気も少なく、 取り扱い易い、 
しかも肥効が高く、 一定の品質のものをつくる必要がある。 従来、 畜産側は、 未完
熟でも悪臭がなけれは良い堆肥と考えがちであった。 しかし現実には、 そのような
堆肥は、 耕種側では、 再び、 稲わらや野草と一緒に積み込んでから完熟させるのが
常であった。 この作業の手間は、 自分のところで一から堆肥をつくるのと同じほど
であった。 したがって、 今後畜産側は、 品質保証のできた完熟堆肥を製造し、耕種
側に提供できるようにすべきである。 このような完熟堆肥が一定量あれば、 耕種側
の新しい提携先の開拓が容易になる。 
 
  堆肥センターを介した耕畜連携は、 やがて飼料作物づくりの共同化、 役割分担化、 
さらに労働交換協力へと発展する可能性をもっている。 
 
  これらは将来的には集団的な作付・転作などを含めた土地利用のあり方、 担い手
のあり方などという地域農業そのものにかかわる重要な問題にもつながっていく。 
すなわち、 耕畜連携は、 いずれ地域農業の仕組みとして、 地域内の資源−耕種農家
や畜産農家という経営資源、 農地や水、 山という自然資源、 そして人や組織という
人的資源−の有機的結合システムと、 農法にかなった、 合理性のある物質循環・利
用の仕組みとし、 発展すべきものと期待される。  


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