★ 事業団便り


がんばる 「あか牛」

                      企画情報部 
阿蘇に 「あか牛」 はよく似合う
 熊本県と聞いて、 何を連想するだろうか。 広大な阿蘇山の自然、 キリシタン
の天草、 豪壮な熊本城、 球磨焼酎、 思わず舌鼓を打つ馬刺しなど。 そして、 忘
れてならないのが、 肥後のあか牛である。 このたび、 あか牛の生産現場を訪れ
る機会を得たのでレポートしたい。 

 あか牛の名で知られる褐毛和種は、 その名のとおり体毛が褐色の和牛で、 次
のような特徴を持っている。 

・発育が早く、 産肉能力が優れている。 
・草の利用性に富み、 体質強健で放牧に適している。 
・繁殖能力と泌乳能力が優れている。 
・性質が温順で群飼に適する。 
 
 褐毛和種の雌牛 (2歳以上) は全国で41,910頭、 そのうちの68%、 28,617
頭が飼われている熊本県はあか牛の本場であり、 阿蘇山の広大な草地でのんび
りと草をはむ放牧牛は、 誠に絵になる風景である。 
飼養頭数の減少と肥後牛のブランド化
   「火の国」 熊本の特産品とも言えるあか牛であるが、 飼養頭数は年々減少し
てきているのが現実である。 18カ月以上の子取用雌牛の頭数は、 元年の33,696
頭が4年には29,334頭へと毎年、 じりじりと減少してきている。 また、 日本人
が好むサシが入りにくいことなどから、 子牛の価格は黒毛和種に比べて約12万
円低く(5年度)、 苦戦してきた。 
 
 県は、 この事態に手をこまねいていたわけではなく、 様々な施策を講じ、あか
牛の振興を図ってきた。 その中でも肥後牛流通促進対策事業は、 従来、ややもす
ると生産対策に偏りがちであった施策を消費・流通の面からアプローチし、 肥
後牛ブランドの確立を通して、 あか牛の振興を図ろうとする意欲的なものであ
る。 ただ、 肥後牛は熊本県で生産された和牛を対象としており、 黒毛和種も含
まれ、 あか牛だけを指すのではないので、 今後、 肥後牛の中での整理が必要と
なるのかも知れない。  
放牧で鍛えられる子牛たち
  繁殖雌牛は春から秋にかけて、 広大な阿蘇の牧野に放牧される。 南阿蘇畜産
農協管内の放牧地では、 この時期に次々と誕生する子牛が、 母牛とともに豊か
な草をはみ、 草原をゆったりと動き回っている。 同農協では、 こうして、 放牧
で足腰と胃を鍛えた子牛について8から9月齢での出荷を奨励している。 幾分
早めの出荷月齢とも思えるが、 あか牛は発育が早いので、 肥育期間の短縮を図
りコスト低減を目指すため、 肥育サイドからも要望があるとのことである。 
 
  また、 2か月に1回行われるセリの名簿には、 何カ月間放牧されたかが記載
され、 購買者に的確な情報を提供している。 
 
繁殖農家への情報フィードバック
  熊本県では、 3年前から肉用牛改良情報システムを活用して、 産肉性に関す
るデータを収集分析し、 農協、 農家へフィードバックしている。 
 
  訪問した南阿蘇畜産農協では、 肉質の改良を組合員全員で進めるため、 6年
前から繁殖農家への枝肉成績のフィードバックに取り組んでいる。 これは、 管
内で肥育されたあか牛が4等級以上の成績を納めた場合に、 次のような葉書を
生産者に送付し、 計画交配を推進するものである。 また、 家畜市場内の休憩所
には優秀な枝肉の写真を掲示したり、 枝肉成績の見方についての勉強会を開い
たりと、 繁殖農家にも肥育結果に関心を持ってもらい、 あか牛の能力向上に結
びつけようと様々な活動を進めている。 
  
  同農協の後藤参事は、 「肉色が浅い赤色のあか牛は、 肉色重視の最近の傾向
にマッチしている。 その強みを生かして、 いかにA2を少なくし、 最低でもA
3、 A4以上の比率を高めていくかがこれからのポイント」 とし、 そのために
は 「肥育技術はもちろんのこと、 繁殖農家と一体となった肉質改良が必要だ」 
とあか牛にかける意欲を話してくれた。 
 
宅配の肥後ビーフ
  従来、 生産者は生産だけで、流通にはあまり関与してこなかったが、近年全国
各地で、 流通から販売に進出する動きが見られる。 熊本県畜産農協連では肥後
牛のPRと販売促進のため、 直営ミートショップやステーキレストラン 「カウ
ベル」 を営業している。 また、 菊池郡大津町の東肥畜産農協では、 直営の食肉
小売店を経営するほか、 あか牛のオーナー制度を運営している。 
  
  21,000円を支払ってオーナーになると毎月1sの肥後ビーフが半年間にわた
って自宅に届けられる。 ステーキカット、 焼き肉用スライス、 すき焼き・煮込
用スライスの3種類が順番に届く仕組みで、 部位のバランスを取っている。 
   
  生産者は消費者の顔を見て生産し、 消費者は生産者の顔を見て牛肉を食べる
ことができるこの制度、 牛乳や野菜などでは例があるが、 牛肉では他にあまり
例がない。 チラシに生産者の写真を刷り込んで、  「生産者の顔が見えるように
、 こういう人が作っているんだ、 と消費者にアッピールしている」 と同農協の
渡辺課長は強調する。 また、 昨年は町のバックアップを受けて、 生消交流とし
て消費者が生産現場を訪問するオーナーツアーを企画し、 非常に好評であった。 

  このようなイベントは、 あか牛のファンを広げるには、 絶好の機会である。 
色々な情報が氾濫している中で、 自分が実際に見聞きしたことは頭に残るし、 
友人、 知人にあか牛の良さを話すときにも経験に裏打ちされた確実な情報とし
て伝わっていくものである。  
あか牛の出番
  昨年9月の褐毛和種農家に対するアンケート調査によると、  「今後の飼養規
模をどうするか」 との問いに対して繁殖経営、 一貫経営の22%が増頭、 56%が
維持すると答え、 合わせて78%の農家が、 あか牛の経営に前向きに取り組んで
ることを示している。 増頭すると答えたのは6頭以上飼養農家が多く、 増頭、 
維持の理由としては、 昨年度から褐毛和種と黒毛和種が分離された生産者補給
金制度の改正と飼料生産基盤の確保を挙げている。 
 
  さて、 あか牛を牛肉として見たときのセールスポイントは何であろうか。 

・適度なサシ

・和牛特有の味と香り

・手頃な価格

  の3点が挙げられるだろう。 
さらに大きなポイントとして、  「阿蘇に代表される大自然の中で、 豊富な草資
源を最大限に活用しながら、 健康にのびのびと飼育されている」 点が挙げられ
よう。 

  自給飼料に立脚し、 特色のある畜産を展開しているあか牛は、 日本全体の畜
産にとっても重要で欠かすことのできない存在である。 肥後熊本のあか牛は、 
がんばっている。 

                                                       (安 井 護) 

参考資料‥熊本県褐毛和種振興方策検討会報告書 

元のページに戻る