乳業部
この調査結果の報告(概要)は、先月からの続きである。 先月までのまとめは、3月号を参照していただきたい。 2.アンケート集計結果 (2)今後の経営の予定 @ 今後の経営の予定(地域別)(図−1参照) 今後の経営の予定に対する回答は、回答があった酪農家1,160戸の内、「拡大 していきたい(拡大)」は314戸(27.1%)、「現状維持のまま(維持)」は696 戸(60.0%)及び「縮小していきたい、又は経営を中止したい(中止)」は149 戸(12.8%)であった(「不明」は、1戸(0.1%))。 これを、地域別でみると、「拡大」意向は、北海道(32.9%)及び東北(32.5 %)で高く、関東(15.4%)及び近畿(19.2%)で低く、また「中止」意向は、 関東(17.8%)のみがやや高かったが他の地域にはあまり大きな差がなかった。 A 年齢階層別の経営意向 アンケートの集計結果からは、年齢(階層)と今後の経営の予定をクロス集計 することで、年齢が経営意欲にどのように反映するかを分析することができる。 この分析結果は、図−2の通りであり、今後の経営に対する意向は、年齢を経 るにしたがって「拡大」意欲がだんだん失われていき、また、同様に年齢を経る にしたがって「中止」ということに気持ちが傾いていくことを如実に物語ってい る(なお、27歳未満及び72歳以上は回答者の数が極端に少なくなることから、分 析からは除外してある。)。 この結果をみていくと、「拡大」の意欲は「33歳から36歳まで」の層がピーク となって、それ以降、年齢を経るにしたがって意欲が減退しており、特に「36歳 から47歳まで」の間で急速に「拡大」意欲が失われている。 なお、この間では「中止」の意向が徐々に増加している。 また、「48歳から59歳まで」の間は、「拡大」「維持」及び「中止」の意向が ほぼ一定の割合となっており、現状を容認して経営方針を立てている、いわばあ る意味での「安定期」といえる。 その後、「60歳以降」は急速に「拡大」意欲が衰え、「中止」意向が急増して いる。 このことを、サラリーマン等に例えるなら、60歳なり65歳で退職し、その後は 自適の生活をすると考えれば、「中止」意向が増加するのは当然とも考えられる が、「酪農」の大半は個人経営であり、経営を継承させていこうと考えるのが普 通であり、この場合の「中止」は経営を継承できない、すなわち「後継者」がい ないことを物語っているのではなかろうか。 B 今後の経営にとっての重視事項 アンケートでは、今後の経営の予定で「拡大」及び「維持」と回答した1,011 戸の酪農家に対し、今後の酪農経営を考えた場合、どのような点を重視するかに ついて回答を求めた。 結果は、「拡大」及び「維持」の合計(全国)でみると、「1頭当たりの産乳 量の増大」(73.3%)、「生産コストの削減」(71.1%)及び「乳質の向上」 (64.4%)と回答した者が多く、「乳肉複合経営の導入」(13.4%)、「後継者 の確保」(17.4%)、「経営耕地の拡大・集積」(21.0%)及び「労働力の確保」 (22.0%)は他に比べれば少なかった。 また、地域別では、各地域とも項目単位では回答の多かった項目と少なかった 項目は「全国」と変わらなかったが、「全国」と比較した場合北海道では「借入 金の返済(又は低利資金への借換)」(53.9%、全国39.8%)及び「粗飼料生産 の拡大」(45.5%、全国36.6%)の回答が多く、「糞尿処理対策の充実」(40.6 %、全国48.5%)がやや低くなっている。 東北では「糞尿処理対策の充実」(56.7%)及び「乳肉複合経営の導入」(2 2.1%、全国13.4%)が多く、「借入金の返済等」(30.8%)が低く、関東では 「借入金の返済等」(23.4%)、「施設の充実」(25.7%、全国35.0%)及び 「粗飼料生産の拡大」(26.9%)が低いことで目につく。 北陸・東海では「糞尿処理対策の充実」(61.4%)がかなり高く、「粗飼料生 産の拡大」(15.7%)が低く、近畿では「糞尿処理対策の充実」(63.0%)及び 「乳肉複合経営の導入」(19.6%)が高く、「労働力の確保」(15.2%)、「施 設の充実」(19.6%)及び「借入金の返済等」(23.9%)が低くなっている。 中国・四国では「糞尿処理対策の充実」(55.8%)がやや高く、「乳肉複合経 営の導入」(6.9%)、「後継者の確保」(11.1%)及び「施設の充実」(25.0 %)がやや低く、九州・沖縄では「粗飼料生産の拡大」(41.3%)がやや高く、 「後継者の確保」(9.8%)及び「借入金の返済等」(25.0%)が低いという結 果であった(表−1参照)。 以上のことから、今後の経営の重視事項は、全国共通的には直接所得に結びつ く「1頭当たりの産乳量の増大」、「生産コストの低減」及び「乳質の向上」に 最も重きを置き、その他は各地域の置かれている生産、環境条件によって重点の 置き方が変わってくることを表している。 特に「糞尿処理対策の充実」及び「借入金の返済等」については、北海道と都 府県では重きの置き方が異なり、今後の経営を考えた場合、前者は都府県では深 刻な問題であり、後者は北海道では深刻な問題だと言えそうである。 意外な結果は、「後継者の確保」が、酪農からの離脱(離農)の最大原因とな っているにもかかわらず、東北で若干高いものの、今後の経営の重視事項として は低い値になっていることである。 これらを更に細かい点を見ていくと、各地域毎に重視事項に若干の差異がそれ ぞれの地域特性を表しており、先月号でも記したとおり酪農に関する何らかの対 策が必要な場合には、一律的な対策に地域特性を組み合わせることでより有効な 対策を行う場合の基礎に利用できるものと思われる。 また、今後の経営の予定の回答を「拡大」と「維持」とに分けて今後の重視事 項を見ると、いずれの場合でも上位3項目への回答が多いことには変わりはない が、「拡大」と回答した者の「飼養規模の拡大」(78.3%)が非常に高いのは当 然であるが、「施設の充実」(61.1%)、「糞尿処理対策の充実」(58.3%)、 「借入金の返済等」(54.4%)及び「経営耕地の拡大・集積」(41.4%)が、 「維持」と回答した者に比べてかなり多い結果となっている。(表−2、図−3 参照) (3) 平成5年11月1日現在の経産牛の飼養頭数 @ 経産牛飼養頭数規模(階層別)の分布 飼養頭数については、5頭未満(0から4頭)(構成比率は2.2%)、5頭か ら9頭(4.9%)、10頭から14頭(7.0%)、15頭から19頭(8.6%)、20頭から 29頭(25.3%)、30頭から39頭(23.4%)、40から49頭(15.9%)、50頭から 69頭(8.9%)、70頭から89頭(2.2%)及び90頭以上(1.2%)の10階層に分け て分布を見てみた。 結果は、図−4の通りであった。 回答のあった酪農家の平均経産牛飼養頭数は、31.5頭(育成牛19.3頭)であり、 北海道は36.7頭(28.0頭)、都府県は27.2頭(12.3頭)、東北は23.2頭(12.4 頭)、関東は26.5頭(11.7頭)、北陸・東海は35.4頭(13.7頭)、近畿は26.6 頭(9.7頭)、中国・四国は26.5頭(11.3頭)、九州・沖縄27.8頭(14.3頭)で あった。 この結果は、中央酪農会議の「酪農全国基礎調査(平成4年度)」の飼養規模 で最も多い「20〜29頭」(19.5%)、次の「30〜39頭」(16.6%)、「5〜9 頭」(13.5%)の結果に比べて構成比率が異なるのは、先月号でも触れた通り酪 農家の選定の仕方が大規模層に若干偏ったことによるものと思われる。 また、「基礎調査」での平均経産牛飼養頭数は、北海道では42.1頭(育成牛3 5.7頭)、都府県では21.8頭(10.0頭)であり、このこともこの調査結果では、 北海道では下方に、都府県では上方にシフトした結果となった。 このことについては、農家の選定は分布の基礎を単に飼養頭数のシェアーとし たため、大規模層に偏ることは予測できたが、なぜこのような結果となってしま ったかは原因不明である。この辺りがサンプル調査(全体に対するカバー率は、 僅か2.3%)の限界なのかもしれない。 A 経産牛飼養頭数規模別の今後の経営予定 経産牛飼養頭数規模別の今後の経営の予定は、飼養頭数規模が大きくなるほど 「拡大」の比率が多くなり、特に20頭規模以上ではその傾向が強い、また、逆に 「中止」意向は、飼養頭数規模が大きくなるほど減少しており、20頭規模以上で は「中止」意向は10%以下まで減少している。 なお、10頭未満の規模での「中止」意向は50%を超えており、この層は急速に 離脱(離農)していくものと思われる。(図−5参照) B 経産牛飼養頭数規模別の今後の経営の重視事項 ほとんどの項目について、飼養頭数規模が大きくなると回答の比率が高くなる 傾向にあるが、その傾向の強いのは「飼養規模の拡大」(9.1%→42.9%)、 「糞尿処理対策の充実」(9.1%→71.4%)及び「借入金の返済等」(9.1%→7 1.4%)等であり、「労働力の確保」(22.0%→57.1%)、「生産コストの低減」 (54.5%→71.4%)もその傾向にある。 なお、今後の経営の重視事項で回答率の高い「1頭当たりの産乳量の増大」及 び「乳質の向上」は、中規模の20頭から50頭規模程度までの規模層では比率が高 く(ピークになっている)、小規模層、大規模層の両方に向かって比率が低くな っているのが目につく。(表−3、図−6参照) 来月号では、この2〜3年以内の資本投入計画等を分析していく予定である。