牛枝肉取引規格と格付結果について

 

牛枝肉取引規格と格付結果について


(株)日本食肉格付協会

業務部長   井関 敏夫


はじめに

 牛枝肉取引規格は、全国を統一した共通の規格として食肉流通の合理化を図る
ため昭和36年10月に設定され、39年10月から食肉市場等において規格にもとづく
格付が実施された。規格は枝肉取引における評価と、価格形成の基準として機能
するのみならず、枝肉から部分肉、精肉と変化しながら消費者とも関連している。
それは消費者の食肉の品質、価格等に対する要望が規格を通して生産段階に生産
指標として機能しているからである。

 このことから、規格取引の普及推進と、格付結果の活用による肉畜生産の振興
と品質の向上が図られると共に、生産・流通及び消費の変化に対応して5回の改
正が行われた。

 なかでも、63年4月に改正された規格は、肉用牛資源の変化、過度の脂肪交雑
(サシ)重視に伴う肥育期間の長期化による肥育牛の大型化という飼育形態の変
化、需給規模の拡大による取引数量の増大と流通の広域化といった流通規模の変
化、鍋物需要に加え焼肉需要の増大という消費形態の変化などに対応するもので
あった。

 改正の内容は、中央畜産会「食肉取引規格検討会」2カ年にわたり検討の結果、
60年1月に農水省畜産局長に答申されたものを具体化したものである。

 日本食肉格付協会は農水省畜産局長の通達をうけ、専門委員会において60〜61
年度にわたり調査検討を重ね、さらに試験格付を実施し最終原案をとりまとめた。
改正原案は63年3月農水省畜産局長の承認をうけ、同年4月から実施され今日に
至っている。

1.改正の骨子

 従来の「枝肉重量」、「外観」、「肉質」の3基準による総合評価と6等級区
分から以下のとおり改正された。

(1)歩留等級の新規導入
 
  生産段階において経済的肥育を推進し、赤肉歩留りの高い枝肉の生産を図る。

(2)肉質等級の見直し
   @ 脂肪交雑評価基準を緩和して経済的肥育を推進、効率的な肉用牛の生産
    を図る。

   A 脂肪交雑評価基準の緩和に準じて、肉質項目の見直しをする。

(3)枝肉切開部位の統一

  取引数量の増大と流通の広域化に対応して、より一層の流通の合理化を図り同
 一条件で格付を実施するため、全国的に第6〜7肋骨間で平直に切開することに
 統一した。

(4)等級区分及び等級表示の変更

  歩留等級の3区分と、肉質等級の5区分による分離評価と、歩留・肉質の15区
 分の連記表示をする。このため需要の多様化に対応した枝肉の選択ができるよう
 になった。



2.格付の方法と等級判定

(1)歩留等級

  歩留等級は、わが国では初めて導入されたもので、枝肉からどれ位の部分肉
(部分肉取引規格の分割・整形方法による)が得られるかを示すものである。
  左半丸枝肉切開面の測定値を歩留基準値の算式に入れて算定する。

<歩留基準値の算式>
 
 歩留基準値=67.37+〔0.130×胸最長筋面積(p2)〕
          +〔0.667×「ばら」の厚さ(p)〕
                 −〔0.025×冷と体重量(半丸枝肉(kg))〕
                 −〔0.896×皮下脂肪の厚さ(p)〕

 ただし、肉用種枝肉の場合には2.049を加算する。

 また、筋間脂肪が枝肉重量、胸最長筋面積に比べかなり厚いとか、「もも」の
厚味に欠け、かつ、「まえ」と「もも」の釣合いが著しく欠けるものは、歩留等
級が1等級下になる場合がある。


<等級区分>
   
等級 歩留基準値 歩留
A 72以上 部分肉保留が標準より良いもの
B 69以上72未満 部分肉保留の標準のもの
C 69未満 部分肉保留が標準より劣るもの

 歩留等級の区分は、3区分であり、等級呼称は、A、B、Cとする。



(2)肉質等級

 肉質等級は、脂肪交雑、肉の色沢、肉の締まり及びきめ、脂肪の色沢と質の4
項目について切開面で判定し、その項目別等級のうち最も低い等級に格付する。
肉質判定の時期は切開後1時間を原則とするが、格付場所によって温度、光量な
どと共に異なるので規格の適用条件には示されなかった。また、各項目について
判定基準が導入され、客観的な判定ができるようになった。

<脂肪交雑の等級区分> 
等級 B.N.S.No. 脂肪交雑評価基準
かなり多いもの 8〜12 2+以上
やや多いもの 5〜7 1+〜2
標準のもの 3〜4 1−〜1
やや少ないもの 0+
ほとんどないもの 1
B.M.S. No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10 No.11 No.12
脂肪交雑基準 0+ 1- 1 1+ 2- 2 2+ 3- 3 4 5
等級 1 2 3 4 5
<肉色及び光沢の等級区分>
等級 肉食(B.C.S.No) 光沢
かなり良いもの 3〜5 かなり良いもの
やや良いもの 2〜6 やや良いもの
標準のもの 1〜6 標準のもの
標準に準ずるもの 1〜7 標準に準ずるもの
劣るもの 等級5〜2以外のもの
<肉の締まり及びきめの等級区分>
等級 締まり きめ
かなり良いもの かなり細かいもの
やや良いもの やや細かいもの
標準のもの 標準のもの
標準に準ずるもの 標準に準ずるもの
劣るもの 粗いもの
<脂肪の色沢と質の等級区分>
等級 脂肪色(B.F.S.No.) 光沢と質
かなり良いもの 1〜4 かなり良いもの
やや良いもの 1〜5 やや良いもの
標準のもの 1〜6 標準のもの
標準に準ずるもの 1〜7 標準に準ずるもの
劣るもの 等級5〜2以外のもの
 
(3) 枝肉等級の表示
 規格の等級表示は、歩留等級及び肉質等級を連記表示する。
<規格の等級と表示>
歩留等級 肉質等級
A A
A
A
A
A
B B
B
B
B
B
C C
C
C
C
C
<等級の表示>

B

(4) 瑕疵(カシ)の種類区分と表示

 枝肉には、商品としての瑕疵が種々あるので、下の種類区分により等級表示に
付記して枝肉に表示する。

<瑕疵の種類区分と表示>
瑕疵の種類 表示
多発性筋出血(シミ)
水腫(ズル)
筋炎(シコリ)
外傷(アタリ)
割除(カツジョ)
その他
<筋炎の場合の表示(例)>

B


 なお、その他(カ)は、背割不良、骨折、放血不良、異臭、異色のあるもの及び
著しく汚染されているもの等ア〜オに該当しないものである。


3.格付状況


(1)都道府県別格付場所

 平成5年12月現在、127場所で全国の一般と場(厚生省調べ356場所)の35.7%を
占めている。なお、年間1万頭以上の格付場所は32場所、格付頭数の70%を占めて
いる。

(2)格付頭数及び格付率の推移
 
 格付頭数は元年を除き年々増加し、5年は前年に比べ2.6%増加した。
                                 (単位:頭、%)
区分 昭和63年 平成元年 2年 3年 4年 5年
格付頭数 922,951.5 909,370.5 924,674 972,447.5 1,018,734 1,045,154.5
と畜頭数 1,442,187 1,376,001 1,374,586 1,431,231 1,470,662 1,493,010
格付率 61.9 64.2 66.4 67.9 69.3 70.0
(3)平成5年の格付場所別、畜種別割合

 中央市場では和牛の割合が57.1%と高く、食肉センターでは乳用牛が多く61.9
%を占めている。全体では乳用牛去勢が31.7%、次いで和牛去勢が23.9%を占め
ている。格付率をみると、和牛去勢、乳用牛去勢が83%前後と高い割合になって
いる。
                                    (単位:%)
区分 和牛めす 和牛去勢 乳用牛めす 乳用牛去勢 その他の牛 合計
中央市場 23.4 33.7 20.3 12.1 10.5 100.0
指定市場 15.8 24.6 20.4 31.3 8.4 100.0
食肉センター 12.5 17.6 17.9 44.0 7.9 100.0
全体 16.4 23.9 19.1 31.7 8.8 100.0
格付率 64.2 83.8 53.2 82.3 48.9 100.0
注)その他の牛は、外国種及び外国種と和牛の交雑種を含む。



(4)平成5年の畜種別、場所別割合
                      (単位:%)
区分 中央市場 指定市場 食肉センター 全体
和牛めす 44.8 16.6 38.7 100.0
和牛去勢 44.2 18.3 37.5 100.0
乳用牛めす 33.3 19.0 47.7 100.0
乳用牛去勢 11.9 17.6 70.5 100.0
その他の牛 37.3 17.1 45.6 100.0
全体 31.4 17.8 50.8 100.0

 格付場所別にみると、食肉センターが全体の50.8%を占めており、乳用牛の割合
が高く年々増加の傾向にある。和牛(めす、去勢)は中央市場の割合が高く、需給
の実情を反映した価格形成と建値機能を果たしている。


(5)平成5年の格付結果

 畜種・性別の格付結果は表(1)のとおりである。

@ 全体についてみると、等級B−2が最も多く24.0%(前年23.0%)、次いでB
 −3が16.9%(同18.5%)を占め、この2等級で40.9%(同41.5%)を占めてい
 る。

A 和牛去勢についてみると、A−4が最も多く23.5%(同23.4%)、次いでA−
 5が21.8%(同24.2%)を占めており、前年に比べA−4の割合がA−5の割合
 より多くなっている。

B 乳用牛去勢についてみると、B−2が最も多く45.0%(同41.3%)、次いでB
 −3が29.0%(同32.2%)を占めている。

C 雑種去勢についてみると、B−3が最も多く35.3%(同36.2%)、次いでB−
 2が30.6%(同26.9%)を占めているが乳用牛に比べ、歩留・肉質とも上位にあ
 ることがわかる。


4.去勢牛枝肉の肉質等級について


(1)去勢牛の格付結果

和牛去勢
                                (単位:頭、%、kg)
年次 格付頭数 格付率 A-5 A-4 A-3 A-2 A-1 B-5 B-4 B-3 B-2 B-1 「4」以上 平均枝肉重量
5年 250,016 83.3 21.8 23.5 21.0 11.3 0.3 2.3 5.6 7.8 5.3 0.2 53.2 421.3
4年 237,166 82.2 24.2 23.4 18.6 10.2 0.5 3.2 6.5 7.4 4.7 0.3 57.5 522.5
乳用牛去勢                                
格付頭数 格付率 B-5 B-4 B-3 B-2 B-1 C-5 C-4 C-3 C-2 C-1 「3」以上 平均枝肉重量
5年 331,743 82.3 0.1 2.0 29.0 45.0 0.7 0.0 0.4 7.8 13.0 1.6 39.5 424.9
4年 354,236 81.4 0.1 2.6 32.2 41.3 0.8 0.0 0.5 8.3 12.0 1.7 43.9 427.1
雑種去勢
年次 格付頭数 格付率 B-5 B-4 B-3 B-2 B-1 C-5 C-4 C-3 C-2 C-1 「3」以上 平均枝肉重量
5年 41,087 調査不能 2.1 11.3 35.3 30.6 0.5 0.1 1.1 5.6 5.8 1.0 60.0 426.8
4年 28,960.5 調査不能 2.7 12.5 36.2 26.2 0.4 0.2 1.5 7.0 6.7 0.9 63.7 429.9

@ 和牛のC等級(5年1.0%、4年1.0%)
  乳用牛のA等級(5年0.5%、4年0.6%)
  雑種のA等級(5年6.7%、4年5.1%)は省略

A 和牛去勢の肉質等級「4」以上の率は、平成5年次で前年に比べ4.3ポイント
  低下した。

B 乳用牛去勢の「3」以上の率は4.4ポイント低下した。

C 雑種去勢の「3」以上の率は3.7ポイント低下した。


(2)肉質等級低下の要因

 肉質等級が前年を下回っている主要な格付場所で、肉質低下につながったと思わ
れる要因について聞き取り調査をした。以下の要因が複合的に働いた結果と思われ
る。

@ 飼養管理

・規模拡大により個体管理が不十分
・密飼いによる発育不良やストレス障害
・価格低迷による生産意欲の減退に伴う管理不足、疾病等の多発
・天候不順(冷夏、長雨)による食い込み不足やストレス障害(台風による畜舎の
 損壊)

・乳用牛から和牛肥育に転換した技術不足
・生産コスト節減のため肥育期間を短縮

A 飼料

・コスト節減のため低価格飼料へ切り換え
・配合飼料から自家配合へ切り換え
・増体重視の飼料へ切り換え
・事故(ビタミンA欠乏症によるズルの発生等)の防止策として飼料内容の変更
・良質な粗飼料の不足(天候不順でワラ不足)

B もと牛

・導入時の高騰、先行き不安によるもと牛低下
・子牛育成時の濃厚飼料の多給(子牛市場での高値販売)による肥育効率の低下


(3)今後の対策

 肉質に関係する要因は多く、複合的に影響し合っているものと思われる。肉質が
もと牛の遺伝能力と、その能力を十分に引き出せる肥育技術及び給与飼料等によっ
て決定されるならば、これ等の改善が図られなければならない。肉質のなかで脂肪
交雑形質をみても、遺伝能力のほか飼養管理やその他の環境要因が大きく影響する
 −遺伝4分に飼い6分−といわれている。 今後は肥育技術の向上と、飼養管理面
での合理化が望まれる。また、格付結果が生産段階で肥育及び繁殖経営の改善に活
用され、肉質向上につながることが望まれる。

 


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