★ 巻頭言


畜産振興審議会食肉部会を終えて

(財)日本食肉流通センター 理事長 犬伏 孝治


 去る3月、例年通り畜産振興審議会が開かれ、同月29日の食肉部会において、
平成6年度の指定食肉の安定価格と肉用子牛の保証基準価格および合理化目標価
格についての答申が出され、あわせて建議が行われた。

 本年の食肉部会におけるこれらの答申および建議に至るまでの審議の経過と結
果について、これらの背景となっている需給事情、価格動向、経営状況等にもふ
れながら、また本年度の若干の特徴的な点にもふれながらその要点を述べてみた
い。


(1) 概 観

 食肉部会の審議は、例年同様、畜産局長からまず食肉等をめぐる一般情勢と需
給および価格の動向について説明を受け、引き続いて食肉鶏卵課長から試算値と
その算定内容の説明を聴取したのち、委員からの資料要求、質問等を経て、各委
員全員から順次意見の開陳が行われ、最後に答申案および建議案の作成に入り、
諮問に対する答申と8項目にわたる建議が行われた。

 この審議の流れは全く例年の通りであったが、本年は、ガットのウルグアイ・
ラウンドの合意が昨年末に行われた後を受けて最初に開かれた畜産物価格を審議
する審議会であったため、同合意後のわが国畜産の将来展望と政府の対応につい
て強い関心が寄せられたこと、また牛肉自由化の影響の深化とその対策が一層重
視されこれまで以上の論議が行われたこと等が特徴的であった。

 以上の審議の経過を集約していえば、試算値で示された諮問価格については、
委員の全員が賛成ないし止むをえないとする意見であり、細部について若干の指
摘もあったが総体としては順当に答申がまとめられたと思う。一方、関連して述
べられた意見は、おおむね建議の内容に盛り込まれており、その具体的施策のす
みやかな実施が要請されたところである。


(2) 牛肉の安定価格について

 牛肉の安定上位価格および安定基準価格は、平成2年度以降毎年度引き下げら
れてきているが、本年度も両者とも3.3%の引き下げとなった。

 牛肉の需要は、食生活の高度化、多様化等に伴い近年安定的に増加してきてお
り、平成5年度においても、需要の約5割を占める家計消費が金額面では減少し
ているものの、購入量の面では前年を上回って増加しており、加工用需要も含め
た全体の消費量では、前年をかなり上回って推移していると見られる。一方国内
生産は、枝肉生産量の推移でみると、平成2〜4年度は着実に増加しており、平
成5年度は横ばいとなってはいるものの、国内生産量の4割強を占める肉専用種
は引き続き増加してきている。また輸入については、平成3年4月に自由化され
て以降、自由化直後の3年度は一時減少したが4年度からはかなりの増加が継続
している。国内の肉用牛の飼養状況は、頭数は依然増加しており戸数は小規模層
を中心に引き続き減少しているものの、規模の拡大は着実に進んでいる。価格面
では、省令規格の枝肉の卸売価格は自由化後低下したが、平成5年度は季節的影
響を除くとほぼ横ばいで推移している。

 牛肉の安定価格は、従来から需給実勢方式により過去一定年間(7年間)の農
家販売価格と生産費の動向に基づいて算定されており、本年度も同方式で算定さ
れている。その算定結果が上述の引下げとなったのであるが、牛肉についての近
年の国内価格の動向や肉牛生産の規格拡大による生産性の向上等を考慮すれば、
今回の安定価格のこの程度の引き下げは止むをえないものと考えられる。

 今回の価格決定に関連して、多くの委員から意見が述べられた。国内生産によ
る牛肉の安定的供給と畜産経営の健全な持続的発展を確保してゆくために中長期
の視点に立った施策の総合的な推進を図ること、ガット・ウルグアイ・ラウンド
の農業合意の実施とも関連して価格安定に関する施策を適時適切に実施すること、
国内生産の技術面・経営面における指導援助を拡充実施すること、食肉流通の合
理化高度化のための施策を総合的に展開すること等各般にわたっており、これら
は、上述のように建議の内容に織り込まれている。


(3) 豚肉の安定価格について

 豚肉の安定上位価格および安定基準価格は、平成元年度以降据え置かれてきて
いたが、本年度は前者が4.4%の引き下げとなり、後者は引き続き据え置かれる
こととなった。

 豚肉の需要は、近年ほぼ横ばいで推移しており、平成5年度においては、家計
消費が前年をわずかに上回る水準となっているものの、従来増加傾向のあった加
工用需要が前年よりわずかに減少しており、全体としては前年をわずかに下回る
水準となっている。一方国内生産は、平成2年度以降環境問題等から毎年前年度
を下回って推移してきていたが、平成5年度は前年度をわずかに上回る水準とな
っている。養豚経営の動向をみると、飼養戸数が小規模層を中心に依然減少する
一方、飼養頭数も平成2年度からは減少に転じその後も減少を続けており、今後
の動向が懸念される。価格面でも、枝肉卸売価格は平成4年度から前年を下回る
水準で推移してきており、5年10月から本年2月にかけて調整保管が実施された。
最近の価格の低迷は、輸入牛肉との需要の面での競合であるとか、輸入豚肉の増
加とくにテーブルミート用に向けられるチルドものの増加の影響であるとかその
理由は色々いわれているが、その動向にも注意を払う必要があろう。

 豚肉の安定価格の算定は、牛肉と同様本年度も需給実勢方式により過去一定年
間(5年間)の農家販売価格と生産費の動向に基づいて行われており、その算定
の結果が上述の上位・安定両価格となった。安定上位価格はともかく、安定基準
価格が据え置きとなつたのは、規模拡大による生産費の動向や農家販売価格の低
下傾向があるものの、上述のような豚肉の国内生産等をめぐる諸事情を考慮する
と止むをえないことと考えられる。しかし、かなりの委員から、わが国の養豚経
営の将来についての言及があり、養豚経営の活性化や体質強化のための方策、さ
らには環境保全対策、流通消費対策等幅広い分野にわたる意見が述べられ、これ
らはおおむね建議の中に織り込まれた。


(4) 肉用子牛の保証基準価格および合理化目標価格について

 黒毛和種および前年度新しく区分された褐毛和種についての両価格は、前年度
と同額に据え置かれたが、その他の肉専用種および乳用種については、両価格と
も前年度に引き続いて連続の引き下げとなった。

 牛肉自由化の方針が決定されて以降の肉用子牛価格の動向は、牛肉卸売価格の
傾向を反映して品種間格差を伴いながら低下傾向で推移している。品種別に見る
と、黒毛和種は自由化後高水準で推移してきたが、平成4年度に入り下落が始ま
り、平成5年度は下落した水準でおおむね横ばいとなっている。保証基準価格を
下回ることはなく生産者補給金の交付はされなかったものの、かつての水準から
見れば相当の下落であり、このため平成5年第1四半期から子牛生産拡大奨励金
の交付が行われているほか、昨年末からは生産安定緊急対策が実施されている。
褐毛和種については、黒毛和種とは異なる価格動向を示していることから、前年
度から黒毛和種から分離して補給金制度が適用されることとなり、同年度の第1
四半期から3期連続で生産者補給金が交付されてる。その他の肉専用種について
は、自由化前の平成2年秋以降大幅に価格が下落し、乳用種についても、平成3
年度に入り保証基準価格を下回って低下しており、この両種とも現在まで連続し
て補給金の交付が行われている。

 保証基準価格の算定は、これまでと同様、自由化の影響の出ていない過去の一
定年間に実現した肉用子牛の市場における実勢価格を基本として、これに生産費
の変化率を織り込んで算定する需給実勢方式に基づき行われている。また、合理
化目標価格は、肥育経営において輸入牛肉と対抗しうる価格で国産牛肉を生産す
るのに必要とされる肉用子牛価格として算定されている。いずれも従前どおりの
算定方式であるが、その他の肉専用種および乳用種については、保証基準価格は
生産コストの変化により、合理化目標価格は輸入牛肉の価格低下傾向を反映して、
上述のようにそれぞれ引き下げられた。

 子牛の不足払と呼ばれる本制度については、すでに生産者補給金の支給額は相
当多額(平成5年度第3四半期までの交付金額の合計761億円)にのぼっており、
肉用牛経営を支えるものとして大きく機能してきている。本制度の健全な運営が
図られるよう支払財源の確保や支払円滑化のための措置が要請されたところであ
り、その旨が建議の中に入れられている。


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