消費者からみた鶏肉
消費者からみた鶏肉

- みやぎ生協の産直 -

みやぎ生活協同組合
生鮮部畜産惣菜グループ総括 小野 勝一郎

 農林水産省畜産局中央畜産研修施設では、毎年、都道府県、市町村の畜産関係
者等を対象として、約20の研修会を開催し、好評を得ております。

 これは、平成5年12月7日に開催された「養鶏」の研修会の中から、みやぎ生
活協同組合生鮮部畜産惣菜グループ統括小野勝一郎さんの「消費者からみた鶏肉」
の講義内容をご本人にとりまとめていただいたものです。


組合員世帯数全国第2位のみやぎ生協

 当生協では、「COOP若鶏」、「COOP90日鶏」のブランドで鶏肉の産直
販売を行っています。ここでは消費者としての意見をまじえながら、その取り組
みの様子を紹介しようと思います。

 まず、みやぎ生協について簡単に説明しますと、1982年3月に当時の県民生協
と学校生協が合併してできました。現在、組合員が37万人で、宮城県の全世帯が
74万世帯ですから過半数を占めていることになります。売上高は830億円ほどで
すが、組合員の全世帯数比率では「コープこうべ」に次いで全国第2位となって
います。共同購入、文化事業など、それこそ組合員の「衣・食・住」をまかなえ
る各種の事業を行っています。



「顔と暮らしの見える産直」に取り組む

 みやぎ生協では、「産直とは生産者と消費者が交流、学習、検討を重ねる中で、
生産者は消費者が要望するものを生産し、消費者は生産者が要望する価格を保証
していく方法で、現在の食生活が抱えている問題を克服していこうとするもの」
と定義しています。平たくいえば、生産者エゴと消費者エゴがあり、生産者は少
しでももうけたい、消費者は安全で少しでも安いものを買いたいというお互いの
エゴをぶつけ合うことにより、お互いに理解し合っていいものを作っていこうと
いうことです。

 また、産直には「広義の産直」と「顔と暮らしの見える産直」があります。広
義の産直とは、@生産者がわかること、A使用している農薬とか栽培方法がわか
ること、B生協の組合員と生産者の要求に基づき作られたものと言えると思いま
す。一方、「顔と暮らしの見える産直」とは、@、Aはそれほど変わりませんが、
Bとして、生協の組合員と生産者の間に日常的な交流があることが揚げられてい
ます。すなわち、「広義の産直」は、生産者が組合員の要求をもとに「提携品カ
ード」(仕様書)で確認しているものの両者に日常的な交流はありませんが、
「顔と暮らしの見える産直」では両者の意志疎通があり、ともに産直品を作り上
げようという信頼関係があります。

 当生協には、産直を支える8つの委員会があります。毎月1回、野菜、果物、
青果、食肉、米、納豆、鶏卵、牛乳の各委員会を開催し、消費者と生産者が交流
しています。田植えや稲刈りのときに、消費者は生産者と一緒になって作業をし
ています。ですから、冷害で米が不作のときは悲惨な状況を自ら感じとることが
できます。

 酪農でも、消費者と生産者が交流しています。酪農家は、毎日、搾乳のときに
お乳をタオルできれいに拭きますが、見学会のときに「この手ぬぐいだけでも大
変な費用になります」と委員から発言があったことから、「みんなでタオルを出
し合いましょう」と声をかけたところ、6千本も集まりました。「消費者が生産
者にできる簡単なことは何んだろう」ということからスタートとしたのですが、
生産者の感激は大変なものでした。



農家廃業の危機から生まれた「COOP若鶏」

 生協で取り扱っている畜産物の産直には、黒豚、しろ豚、ホルス牛肉、鶏肉、
ハム加工品などがありますが、今日はこの中から「COOP若鶏」と「COOP
90日鶏」を紹介します。

 生協における鶏肉の供給羽数は約55万羽ですが、そのうち、「COOP若鶏」
は36万羽、「COOP90日鶏」は9万5千羽を占めており、一般のブロイラーは
9万5千羽となっています。

 「COOP90日鶏」は10年くらい前から生産をはじめました。最初は、品質は
良かったのですが、他の鶏肉と比べて値段が倍もしたので、思ったほど販売量が
伸びませんでした。また、「90日鶏」以外の鶏肉について、組合員から「生協で
扱っているブロイラーはどんなエサを食べさせているのですか、安全ですか」と
いう声が多数ありました。ブロイラーの生産は企業まかせでしたので、回答する
にも明確な答えが出ずに苦労しました。

 一方で、当時は鶏肉相場が低落し、養鶏生産者の倒産、合併が頻繁に行わてい
ました。宮城県でも、蔵王の生産者が廃業か、他とは飼育方法が全く違う鶏肉を
つくるかという選択を迫られていました。そこで、生協内でその農家を支え、消
費者の要望する鶏肉を作ってもらおうという運動が起こりました。「おいしさと
価格のマッチングで、圧倒的多数者の利用がある鶏肉」を開発コンセンプトとし、
生産者にぶつけてみました。生産者は廃業の危機にあったわけですから、「渡り
に船、経営が維持できる」という状態でした。何十年も養鶏をしてきた人ですか
ら、技術は十分にありました。蔵王町を中心に8名で「COOP若鶏生産者部会」
をつくり、生産に乗り出しました。

 生産の特徴は、鶏種は「チャンキー」を使い、指定配合飼料、地養素を添加し、
休薬期間を2週間にしました。開発後2年間は生産量が2桁の伸びをみせ、平成
5年には供給面で安定期に入ったと思っています。

 しかしながら、課題も多数あります。例えば「もも」は売れているのですが、
「むね」はよくありません。スーパーなら、「むね」の価格を相場で決めるとか、
いらないとか言えるのですが、みやぎ生協では年間供給計画から年間、月間の生
産量を決め、それを全量買い取っており、納入価格も「もも」、「むね」の正肉
の合計で決めています。ですから、「むね」肉の消費拡大のために加工品の開発
を行い、チキンウィンナーやみそ漬けを作り出しました。そのほか、雄雌わけず
に飼養したことと、食鳥処理場の関係で週に4日しか処理できないため、1鶏舎
6千羽以上の鶏を処理すると、最初に処理したものと最後に処理するものとで1
週間も差ができ、正肉にした時の大きさが違ってくるという問題があります。し
かし、一番の問題は生産者の高齢化だと思っています。多い人で10万羽、大部分
の人は1〜2万羽の飼養規模ですが、どんどん若い人にも生産に加わってもらい、
高齢者を巻き込んで生産意欲を上げていってほしいと思っています。

消費者の声から生まれた「COOP90日鶏」

 「COOP90日鶏」は、「鶏肉が水っぽくておいしくない」という多数の組合
員の声が起こったことから、ブロイラーを生産していた2戸の農家が「おいしさ、
安全性を優先させ、経済性も加味」していこうと検討を重ねた結果、生まれたも
のです。発売は56年からです。

 鶏種は、最初のアーバーエーカーから、チャンキー、そして平成5年からは国
産のハリマに変えています。飼料は自家配合で、生ワクチンは生後、2週令、4
週令に投与し、抗生物質は幼雛期14日間のみです。開発後徐々に販売量は伸びま
したが、ブロイラーとの価格差はどうしようもなく、4年程前から伸び悩みとな
っていました。「COOP若鶏」の発売もあり、「COOP90日鶏」の落ち込み
が心配されましたが、逆に組合員の比較学習の中で認知度が高まり、逆に販売量
は伸びていきました。両方食べながら「90日鶏には他にないおいしいさがある」
という評価が組合員の中で固まってきたのではないでしょうか。

 問題点としては、脂肪過多が上げられます。これは、90日間飼養するこの鶏肉
にはどうしても起こります。国内産のハリマに変えてから、幾分良くなっている
みたいです。また、育成率が80%と低く、特に、30日前後のへい死率が高くなっ
ています。抗生物質を2週令以降投与していないので、特に衛生管理には気を遣
うことにしています。


組合員の声を大切に

 組合員の方の声は、直接あるいは共同購入の際のチラシにつけられている投書
用紙で私たち担当者に返ってきます。私たち実務担当はその一枚一枚全てに回答
しています。お答えができないものを売るわけにはいかないという考えが今でも
生きています。産直という観点で育ててきた「COOP若鶏」と「COOP90日
鶏」ですが、今後も消費者の声に耳を傾け、さらに喜ばれるものをつくっていき
たいと考えています。

 
  


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