◇ 投 稿

10代を含めた女性に焦点を

― 93年牛乳の消費動向調査の教えるもの ―

 

社団法人 全国牛乳普及協会 会 長   鴻  巣  健  治


昨年度、 社団法人全国牛乳普及協会が実施した 「牛乳・乳製品の消費動向に関する
調査」 の概要等について、 同協会の鴻巣会長にご投稿いただきました。 
はじめに
 普及事業は、 モノを売るのではなく、 文化を売るのだ、といっている。とはいっ
ても、 牛乳の文化は、 インドから中近東、 欧州にかけて数千年の歴史をもってい
るものの、 日本では、 庶民にとって一世紀余りの歴史しかない後発ものだ。

  浸透させるには、 かなりの努力がいる。導入初期の明治のころは、 その売り方も、  
当時にしては異様で、 真剣味をとおりこして、 こっけい味さえ感じられる。
 
 福沢諭吉ら知識人が先頭にたって、 牛乳の栄養価値の啓蒙につとめた。
 政府の士族授産政策による 「武士の商法」 のひとつで、 牛乳店は、 いかめしかっ
 たらしい。

 大塚滋教授の 「食の文化史」 によると、 家は玄関構えで、 袴をつけた玄関番がい
て、 注文にきた庶民がおずおずと、「遠方お気の毒ですが、 どうか毎朝一合ずつお届
けなすってください」 とたのむ有様だったという。
 
 日本では、 コメの文化は二千年、 味噌醤油の文化も室町時代から六百年の伝統を
ほこる。 食文化は、 保守的なものだから、  その変容はじわじわといく。 
 
 牛乳の需要は、 1970年代の10年間に118万のび、 1980年代の10年間に99万kリッ
トルふえ、 1990年代はほぼ500万kリットルで推移している。
 
 金額にして、 約1兆円の市場である。
 牛乳は、 戦前には、 薬にちかい存在とみなされ、 飲用する消費者も、 病人などに
かぎられていた。 戦後は、 今日までの半世紀のあいだに、 大衆のなかに爆発的に普
及した。 この間に牛乳をめぐって形成されたコンセプトは、

 @ 清涼飲料に酷似する、

 A 加工食品だが、 生鮮食品にかぎりなくちかい、
 
 B 幼児、 老人、 病人むけの飲料
 
というものである。
この性格が、 これまで牛乳需要の拡大に寄与したものの、  
逆に足かせともなり、

 @ 天候しだいで変動する需要量

 A 消費者などがこだわる製造日付

 B ハイティーン層以後の牛乳ばなれ

という壁につきあたっている。

調査のやり方
  
 これは、 正式には、 しかつめらしく 「牛乳・乳製品の消費動向に関する調査」 と
いう。 
農水省と畜産振興事業団の後援をいただいて毎年度実施している。 今回は、 7回目
になる。
全国から13歳以上の男女個人とその世帯の主婦 (単身世帯は本人) 6000サンプルを
住民基本台帳から層化多段抽出する。 
 
 留置併用訪問面接法でしらべるので、 回収率は、 75. 9パーセントとたかい。 
 わたくしが着任したときには、 フィールドでの調査がおわっていたので、 とりま
とめに関与した。 次回からは、 調査の設計から関与し、 消費者のライフ・スタイル
と関連づけながら、 牛乳の消費動向をつかみたい。 
 
 調査をしたのは、 日本リサーチセンター。 総勢 100人くらいをかかえている大手
の調査機関だが、 たいへんしっかりした成果をまとめてくれた。 
 
  ぼくは、 不勉強だから、 調査に接するまで、 この調査機関を知らなかった。 
 最近、 永年の親友である田島義博学習院大学教授のエッセイ集 「商の春秋」 を読
んで、 その生い立ちを知った。
 
  教授が一橋大の学生だった1950年代初期に、 一橋大と日本女子大のインタカレッ
ジのクラブとして社会調査研究会が発足した。 会長は、 両大学の教授をしておられ
た南博先生だった。 先生は、 アメリカ社会学の新風をふきこんだ著名な社会学者だ。 
 
  研究会には、 岩波ホールの総支配人をしている高野悦子さんや亡くなった有吉佐
和子さんたちもいた。 
 
  主な活動は、 歌舞伎座、 明治座、 新橋演舞場などへでかけて、 天井桟敷から舞台
ではなく、 客席の方を観察し、 芝居にたいするお客さんの反応を調査することだっ
た。 仇討ち物として上演が禁止されていた忠臣蔵などがやっと上演できるようにな
った時分で、 泣いているお客さんをみつけると、 座席表にしるしをつけておいて、 
幕あいにインタビューにいく。 生まれ、 住まい、 ご主人の職業などをきく。 それを
集計して、 どんな属性をもった人が芝居のどんな筋にどう反応するかを研究したわ
けだ。  
  
  学生たちは、 タダで芝居がみられ、 東京の著名な芝居小屋が木戸御免ということ
に優越感をいだいて参加したという。 
 
  研究会はそののち社会調査研究所となり、 やがて日本リサーチセンターに発展す
るのだが、 もとは歌舞伎マニアの集まりからスタートしたというのだから、 おもし
ろい。  閑話休題。 調査結果を紹介しよう。 
 
停滞する飲用量と10代の女性の少ない飲用量
  牛乳の飲用頻度は、 1か月平均19回、 飲用量は1日あたり平均138mlとなってい
る。 1回あたりの飲む量は、 1989年以降ほぼ停滞傾向となっている (図1、 図2)。
 男女とも小学生では1日200ml以上牛乳をのむ。 ただ高校生、 大学生、 社会人にな
るにつれて、 飲む量はへり、 この年代層以降は1日コップ1杯 (130ml前後) となる 
(図3)。 
 10代の女性をみると、 牛乳の飲む量がおなじ年齢の男性にくらべて、 ローティーン
は7割程度、 ハイティーンは半分以下と低い。 
 このあたりに焦点をあてて、 どう牛乳を飲んでもらうかが今後のおおきな課題だ。 
 
横ばいの購入頻度と購入量
  消費者が牛乳を買う頻度は世帯当たり月平均14回、 週平均の購入量は3. 6リット
ルで、 消費の停滞を反映して、 過去7年間横ばいで推移している (図4)。 

 購入場所は、 スーパーというのがもっとも多く (79パーセント)、 ついで宅配(19
パーセント)、 コンビニエンスストア (18パーセント)、 共同購入 (16パーセント) 
の順となっている (図5)。  
 宅配は過去6年間低下傾向にあったが、 今回わずかながら復活している。 カルシ
ウム強化牛乳など宅配向きの商品をメーカーが開発し、 それが軌道にのった証拠で
あろう。 

値ごろ感をもたれる牛乳
  60パーセントの人が牛乳の価格を適当と評価し、 35パーセントの人が割安と感じ
ている (図6)。 
 不況の時代だから、 野菜、 果物、 魚、 肉はすこしでも安いものを選択するが、 牛
乳は景気に比較的関係なく買われている (図7)。 飽食の時代といわれても、 不景
気になると、 魚や肉などに財布の口がしまるのをみて、 日本人の食生活の底の浅さ
を感じる。 牛乳は健康飲料だから別格とみられているようだ。 
 
のびるヨーグルトなどの家庭常備率
 いつも家庭にある乳製品として、 67パーセントの人がバターをあげ、 54パーセント
の人がチーズをあげ、 33パーセントの人がヨーグルトをあげている。 バターをあげ
る人の割合は過去3年間横ばいだが、 チーズやヨーグルトをあげる人の割合は年を
おって増えている (図8)。 これらがしだいに家庭に浸透していることを物語る。
 
家庭内でしめる高い位置
 好きな飲み物、 家にいつもある飲み物、 家で飲む物などとして、 牛乳をあげる人の
割合は、 首位か日本茶につぐ2位をしめる (図9)。 
 牛乳は朝飲む人がもっとも多く (52パーセント)、 ついでおやつや間食時にとる
人が多い (28パーセント)。 
 これらの事実から、 牛乳を主婦が買って家庭の冷蔵庫におき、 家人がいつでも
のめる状態をつくりだすことを今年のプロモーションの主眼としている。 
 
のびているカルシウムや骨粗しょう症の知識
 牛乳はカルシウムを効率的にとれる食品と知っている人の割合は、 逐年ふえて、 い
まほとんどの人が知っている (91パーセント)。 
 
  ただ、 牛乳をふつうに飲んでいるかぎり、 コレステロールや肥満を心配すること
はないと知っている人は、 30パーセントにすぎない (図10)。 
 
  ここをあらためていかねばならない。 
 
  骨粗しょう症という言葉だけ知っている人は11パーセント、 内容まで理解してい
る人は63パーセント (図11) とかなり高い。 わたくしども協会の多年の努力がむく
いられたといいたい。 ただその原因をカルシウム不足と正確に理解している人は13
パーセントにすぎない。 
 
  そこで今年はこの知識をひろめるためのキャンペーンをテレビ、 新聞をつかって
集中的にやりはじめている。 行政側の援助をえて、 骨密度測定も牛乳フェアなどで
試みている。  
むすび
 この調査は、 牛乳販売店に読んでもらうようにつくってきたというので、 なにもひ
とりでそう思いこむことはない。 生処販はもちろん、 消費者が読んでも参考になる
ものに今回は仕上げたつもりだ。 
 
この調査が教えるものは、 要約すれば、 
 
 @ 10代を含めた女性にもっと牛乳を
 A 兼業主婦や高齢化の時代に宅配の見直しを
 B 骨粗しょう症の原因であるカルシウム不足の周知を
 C 牛乳や乳製品を普通にとってもコレステロールに影響のない旨の徹底をである。 

 ことし、 わたくしたちは、 これらに重点をおいて、 プロモーションを展開中である。 



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