◎地域便り

 この「地域便り」では、北海道、岩手県、群馬県、宮崎県及び鹿児島県の協力を得て、地域における畜産の新しい動き、先進的な畜産経営の事例等を紹介してます。
 

トカラ列島・口之島の野生化牛を捕獲

(鹿児島県 萬田 正治)

  鹿児島市から南南西へ200kmの海上に口之島 (鹿児島郡十島村) がある。 
そこには古くから和牛の原型を留める野生化牛が生息する。 大正時代に口之
島で飼われていた和牛が、 管理不十分により奥山に逃げ込み野生化したもの
で、 未改良の和牛であり、 和牛のルーツと言われている。 これまでの調査で
生息頭数は30〜100頭の範囲にあるとされる。 
 
  この口之島野生化牛の研究が、 鹿児島大学農学部で昭和36年から開始され
た。 当時の解剖学研究室の林田重幸教授 (在来家畜調査団) により初めて調
査が行われ、 在来和牛として貴重な存在であることが初めて提言された。 そ
の後、 研究は西中川駿教授によって息長く引き継がれ、 特に解剖学的な所見
が明らかにされてきた。 平成5年には西中川教授らによって本牛の捕獲が行
われ、 雌3頭が鹿児島大学に導入された。 これを契機に口之島野生化牛に関
心を抱く農学部内の教官陣 (13名) により 『口之島野生化牛研究会』 が組
織され、 本格的なプロジェクトチームが初めて誕生した。 

 この研究会の狙いは、 まずは貴重な生物資源である口之島野生化牛の保護
を図ることにある。 そのためには、 現地の口之島野生化牛群の実態を把握す
ることが何よりも重要であり、 第1次調査が8月に予定されている。 もう一
つの狙いは、 本牛の性能を明らかにし、 積極的な活用を図ることにある。 特
に、 在来和牛としての特質を解明し、 本県肉用牛生産の振興に役立てたいと
考えている。

  このような目的を達成するため、 本研究会では5月に口之島野生化牛の捕
獲を試み、 4頭 (雄2頭、 雌2頭) を導入することに成功したが、 そのうち
の雄1頭は、 捕獲や輸送ストレスに加えて虚弱体質であったことにより導入
直後死亡した。 現在、 以前導入された雌3頭に今回導入の雄1頭、 雌2頭を
加え、 6頭の口之島野生化牛が鹿児島大学農学部で飼育されている。 受精卵
移植による増殖に取り組んでおり、 今後の研究が期待されている。 

元のページに戻る