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利用が進む酪農ヘルパー事業 

(社団法人 酪農ヘルパー全国協会 専務理事  星 井 静 一)


  
は じ め に

 酪農の町、 北海道中標津の牧場を舞台にした山田洋次監督の映画 「遙かなる山の
呼び声」 で、 病気のとき農協に頼んで来てもらうヘルパーがいることを紹介してい
ました。 しかし、 お金が掛かる心配の方が酪農婦人は気掛かりでした。 今から15年
も前の昭和55年のことです。 
 
 その中標津では、 現在、 農協が出資した有限会社のヘルパー利用組合ができてお
り、 ゆとりある生活をしようと農休日制度の普及、 定着を活動目標に、 ヘルパー事
業が進められています。 
 
 このような酪農ヘルパー利用組合は、 全国に375組合あります(平成6年8月現在)。 
なかには、 昭和30年代に活動を始めた古い歴史の利用組合もありますが、 酪農ヘル
パー事業の普及推進のため、 畜産振興事業団の指定助成対象事業として平成2年度
に創設された酪農ヘルパー事業円滑化対策事業が全国的に実施されるようになって
からたくさんの利用組合が組織されました (表1)。
 
 農協や市町村の枠を越えて、 広域でヘルパー活動をしているところもあります。 
また、 「ゆ〜とり組合」 とか、 「デーリイハッピーワーク組合」 とか、 利用組織の名
称に、 ゆとりは自分達で創り出すという気持ちを表わして活動しているところもあ
ります。 
表1 利用組合組織化の推移        (単位:組合数)
  元年末 2年末 3年末 4年末 5年末 6年8月
全国 146 194 240 338 365 375
北海道 10 22 48 67 73 73
都府県 136 172 192 271 292 302
資料:農林省畜産局 酪農ヘルパー利用組合利用実態調査結果
(平成6年8月1日 以下表6までと同じ)
 毎日が搾乳で休むに休めない酪農作業のなかで、 どうして休みをとり、 家族旅
行をしたり、 仲間付き合いをしていくか、 この工夫を家族ぐるみ、 仲間同志でし
ながら、 休日がとれるヘルパー利用組織を育ててきているのです。
 

1 酪農ヘルパー利用組合組織状況

 酪農ヘルパーの制度は、 冠婚葬祭や病気怪我のとき、 搾乳や給餌の仕事を近隣
の酪農家に相互扶助でしてもらう形から発展してきました。 飼養規模の拡大が進
んできて、 近隣の農家の作業を助ける余裕がなくなってきたり、 酪農家戸数も減
少してきて頼める仲間も少なくなってきたりして、 専任のヘルパーが必要になり
ました。 
 
 お金が掛かるが計画的に休むには、 確実に仕事が頼める専任ヘルパーは便利で
す。 

 共同して要員の確保をして休日をとる利用組合組織が各地に出来たのです。 
 これには、 他産業では週休2日制が一般的となり、 労働時間も年間1,800時間
以内が目標にされる時代の背景もありますが、 何よりも経済的にも力がついてき
て、 ゆとりある酪農経営をしようとする酪農家自身の意識の高まりがあります。 
 
 まず、 利用組合の活動形態ですが、 これは、 定期的な休日確保に対応する組合
(定期型)、 冠婚葬祭など緊急的利用に対応する組合 (不定期型) 及びその双方に
対応する組合 (併用型) に大別されますが、 定期型及び併用型が全体の9割を超
え、 定期利用の要望に沿って組織化されてきたことが分かります (表2)。
 
 利用組合の運営主体は、 酪農家が構成する任意団体が大部分(約9割)で、 農協
等生産者団体が行う組合が約1割となっています (表3)。 なお、 任意団体組織
の多くは、 事務局を農協のなかに置いたり、 財政援助を受けるなどして、 生産者
団体の全面的な支援のなかで運営が行われています。 

 また、 中標津の有限会社のような法人格を有する組織は、 全国で3組織にすぎ
ません。 
 
表2 活動形態別利用組合数       (単位:組合数、%)
  定期型 不定期型 併用型 合計
全国 141(37.6) 28(7.5) 206(54.9) 375(100.0)
北海道 21(28.8) 0(0) 52(71.2) 73(100.0)
都府県 120(39.7) 28(9.3) 154(51.0) 302(100.0)
表3 組織形態別利用組合数       (単位:組合数、%)
  任意組合 農協等 法人 合計
全国 337(89.9) 35(9.3) 3(0.8) 375(100.0)
北海道 68(93.2) 2(2.7) 3(4.1) 73(100.0)
都府県 269(89.1) 33(10.9) 0(-) 302(100.0)
 ここで利用組合への加入農家数をみると、 全国では19,600戸を数え、 全酪農家
の約4割が利用組合に加入していることになります。 まだ利用組合が組織されて
いない区域もあり、 利用組合の活動範囲内の酪農家数からみると、 約5割強の加
入率となります (表4)。 地域的には、 北海道においては、 加入戸数が着実に増
加の傾向にありますが、 都府県においては、 前年比やや減少の傾向がみられます。 
経営者の老齢化や後継者不足による経営離脱など厳しい酪農情勢を反映したもの
とみられ、 ヘルパー事業は、 直線的な利用組合組織、 会員増大の時期を終え、 利
用度向上など内部充実がより重要な時期になってきているといえます。

表4−(1)利用組合加入戸数及び加入率
  利用組合加入戸数A 利用組合の活動範囲内戸数 B 加入率
A/B
酪農家全戸数 C 加入率 A/C
全国 19,614戸
(52.3戸)
37,018戸
(89.7戸)
53.0% 47,600戸 41.2%
北海道 6,516戸
(89.3戸)
9,371戸
(128.4戸)
69.5% 12,600戸 51.7%
都府県 13,098戸
(43.4戸)
27,647戸
(91.5戸)
47.4% 35,000戸 37.4%
注:@酪農家全戸数は、畜産統計平成6年2月1日現在
  A( )内は、1利用組合当たり平均酪農家戸数
表−4(2)利用組合加入農家の推移   (単位:戸数)
   3年 4年 5年 6年
全国 17,074 19,169 19,686 19,614
北海道 4,643 5,674 6,306 6,516
都道府県 12,431 13,495 13,380 13,098
注:各年8月時点


 平成6年度の(社) 中央酪農会議の酪農全国基礎調査では、 全国平均で利用組合
の組織率 (注1) は80.5%、 加入率 (注2) は44.2%の状況ですが、 その率は、 
年代の若い経営者ほど、 また飼養頭数規模の大きいほど高くなります。 
  しかし、 100頭を超えると、 保有労力の関係からかやや低くなります。

 

         利用組合管内酪農家数
(注1)  組織率 =   全酪農家数

         利用組合加入酪農家数
(注2)  加入率 = 利用組合管内酪農家数


 また、 全酪連による酪農婦人の意識・実態調査からも、 ヘルパーを利用してい
ない人のなかには、 「制度はあるが必要ない」 と答えた人 (22%) もいるものの、 
「制度ができれば利用する」 という人 (37%) が多くおり、 酪農家のヘルパーニ
ーズを考慮した一層の加入促進、 利用促進が必要です。 なお、 酪農婦人のなかで
は、 家事を手伝う生活ヘルパーに対して関心がもたれており注目されます。 



2 酪農ヘルパー利用状況

 組織化の進展にともなって、 酪農ヘルパー業務に従事するヘルパー数も増加し
てきています。 平成6年8月現在で、 合計2,329人、 うち専任ヘルパーが897人 
(38.5%)、 臨時ヘルパー1,435人 (61.5%)となっていて、 なかでも専任ヘルパ
ーの確保が確実に進んでおります (表5)。
表5−(1)酪農ヘルパー員数
  合計 専任ヘルパー 臨時ヘルパー
全国 2,329人(100.0%) 897人
(38.5%)
1,435人
(61.5%)
北海道 750人
(100.0%)
220人
(29.3%)
530人
(70.7%)
都府県 1,579人
(100.0%)
677人
(42.9%)
905人
(57.1%)
表5−(2)1利用組合当たりの酪農ヘルパー員数
  合計 専任ヘルパー 臨時ヘルパー
全国 6.2人 2.4人 3.8人
北海道 10.3人 3.0人 7.3人
都府県 5.2人 2.2人 3.0人
 1利用組合 (全国平均の加入酪農家52.3戸)当たりにすると、 専任2.4人、臨
時3.8人、 計6.2人の陣容になります。 
 
 実際の酪農ヘルパー利用の状況についてみますと、 最近1年間に実際に酪農
ヘルパーを定期利用をした酪農家は、 全加入農家の約7割に当たる14,372戸で
、 急速に増加してきています。 しかし、 利用回数はまだ月2回以下の利用がほ
とんどです(表6)。 
 
  また、 冠婚葬祭、 病気事故などの緊急的な事態でのヘルパー利用は、 4,528
戸で、 年間1戸当たりでは、 4.1日となっています。 このうち、 1,186戸の酪
農家が病気怪我でヘルパーを利用し、 その約2割が1週間以上の長期にわたる
作業代行をヘルパーにしてもらっています。

表6−(1)定期利用の状況
  合計 1〜12日
(月平均1回以下)
13〜24日
(月平均1〜2回)
25日以上
(月平均2回超)
利用戸数 14,372戸
(100.0%)
9,515戸
(66.2%)
3,920戸
(27.3%)
937戸
(6.5%)
利用組合加入農家のうち定期利用した農家の割合 73.3%(5年8月 60.0%)
表6−(2)不定期利用の状況

利用戸数 利用農家1戸当たり平均利用日数
4,528戸 4.1日
3 酪農ヘルパー関連対策の実施

 酪農ヘルパー事業の普及定着のため、 古くからヘルパー活動を助長するための
対策が各方面から行われ、 その進展を助けてきました。 
 
 全国段階での最初の助成措置は、 昭和43年度に、 地方競馬全国協会が、 湯沸設
備、 ミルカーをセットした巡回搾乳自動車の導入事業を実施したことから始まり
ました (63年度まで、 延117セット補助)。 
 
 国の対策は、 昭和51年度から、 酪農ヘルパー組織を育成しその活動を円滑にす
るために、 ヘルパーの出役調整活動やヘルパーの技術向上研修等に対して助成す
る事業が実施され(39道県、 187地区)、 以後60年度からは事業の内容を変えて続
けられ、 平成2年度の指定助成対象事業へと引き継がれました。 
 
 平成2年度から開始された酪農ヘルパー事業円滑化対策事業は、 全国段階及び
都道府県段階に基金を造成して、 その運用益をもって、 ヘルパー事業の総合的か
つ永続的な推進を行おうとするもので、 都道府県事業基金で利用組合の運営費(人
件費を除く。) 助成の道が開かれました。
 
 46都道府県事業基金 (和歌山県を除く。) 全体では、 総額120億円の造成規模と
なり、 平成6年度には約2.8億円の運用益を産みだし、 ヘルパー事業推進に役立
っております。 
 
  しかし、 金利の大幅な低下にともなう運用益の減少から、 所期の目的どおりの
組織活動が困難となり、 定着しつつあるヘルパー事業の円滑な実施に支障を来し
かねないことから、 都道府県事業基金の畜産振興事業団助成分について金利低下
相当額を無利子融資する支援措置が、 平成7年度の指定助成対象事業として実施
されることになったところです(事業実施主体; (社) 酪農ヘルパー全国協会、 
基金造成額;10億円、 実施期間;平成7年度から6年間。 図1)。 



4 地方公共団体の支援措置

 先駆的な県では独自の振興基金が設置されており、 また、 平成2年度からの円
滑化対策事業基金の造成には、 全ての都道府県から助成がなされました。 1/4負
担が主で、 なかには、 補助残全額を負担した県や応分の負担をした市町村もあり
、 大きな支援になりました。 

 更に、 平成6年度からは、 自治省の農山漁村対策として酪農ヘルパー組織の育
成など地域の実態に応じた地方単独事業の実施のための地方交付税措置(6年度
100億円、 7年度120億円) が講じられ、 これを契機に地方公共団体のヘルパー
事業に対する新たな財政援助が進みつつあります。
 
 都道府県段階の平成7年度の地方単独事業の実施状況は、 8道県 (7月現在、 
予定を含む。) に及んでおり、 措置内容は、 地域の実情に沿って多岐にわたって
います。 

・金利低下による運営費助成 (北海道、 岩手) 
・ヘルパー要員確保、 研修のための助成 (北海道、 宮城、 山形、 徳島) 
・身分保障に関する助成 (石川) 
・新規車両等購入費助成 (三重) 
・推進事務費助成 (福島) 
 
 市町村段階では、 地域酪農ヘルパー事業の支援のため、 以前から多くの市町村
が財政措置を講じてきていますが、 平成7年度においては、 約200市町村 (予定
を含む。) が財政支援を行っております。 その殆どが人件費を含む利用組合運営
費助成ですが、 振興基金を造成して運用益を補助する例 (北海道下) や利用組合
協議会を通して直接利用酪農家へ補助する例 (群馬、 千葉県下) など市町村の意
向のもとに地域の実態に応じた支援となっています。 

 なお、 都道府県段階、 市町村段階ともに、 厳しい財政事情のなか、 地域酪農ヘ
ルパー事業の推進のための財政援助の実現に努力中のところもあり、 その取組み
が実り、 地域に根ざしたヘルパー活動が更に進むことが期待されます。 



5 全国協会事業

 社団法人酪農ヘルパー全国協会 (会長:檜垣徳太郎、 会員;14中央団体、 46都
道府県団体の計60会員、 賛助会員;21関係団体) は、 平成2年12月設立され、 先
に述べた酪農ヘルパー事業円滑化対策事業により全国事業基金 (14億円) を造成
し、 全国的立場から酪農ヘルパー事業の普及推進、 ヘルパー要員の養成研修、 技
術修得資金の貸し付け、 臨時ヘルパーの傷害保険加入促進などの事業を行い、 間
もなく5周年を迎えようとしています。 
 この間、 平成3年度からは、 酪農ヘルパー作業に起因する損害を補償する賠償
保険の加入促進の事業 (地方競馬全国協会補助)、 平成6年度からは、 1) 利用組
合が、 新規採用ヘルパーを対象に行う実践研修に対する助成及び2) 全国協会が行
う酪農ヘルパー研修の実施施設の整備に対する助成の事業が逐次加わってきまし
た。
 
 なお、 平成5年7月には、 (社)中央畜産会から円滑化事業基金の管理業務の移
管を受け、 利用組合、 都道府県団体、 全国協会という一貫した推進体制が整えら
れたところです。 
 ここで、 全国4ヵ所の委託研修施設であらたに酪農ヘルパーになろうとする者
を対象として、 全国協会が行っている酪農ヘルパー専門技術員養成研修(期間1
ヵ月間)について紹介します。 平成3年度から6年度までの間に、 293名が受講し
(うち193名が技術修得資金を受給)、7年度も、 7月までに53名が研修を終え、 ヘ
ルパーとして活動をしています (表7)。 酪農後継者などの応募ばかりでなく年々
都会出身の若者、 中でも女性の志望者が増える傾向にあり、 将来酪農をやりたい
という人もいます。 また、 ヘルパーになろうとする前に酪農体験を希望する若い
女性も増えており、 こうした人を対象とした研修も実施しています。 

 また、 その他の事業の実施状況については、 平成6年度には、 酪農ヘルパー実
践研修助成では、 37組合、 44名を対象に4ヵ月以内の助成 (1ヵ月当たり72,500
円)、 臨時ヘルパー傷害保険加入促進では、 41都道府県、 229組合の1,414名に保
険料助成 (1名当たり1千円助成)、 損害賠償保険加入促進では、 25道県、 207組
合を対象に保険料助成 (専任ヘルパー15千円、 臨時ヘルパー3千円/人/年)を
実施し、 ヘルパー事業の普及PR (参考のページ参照)にも取り組んでいます。 

表7−(1)酪農ヘルパー研修受講者数
  研修受講者 出身地域別 研修場所別
北海道 都府県 北海道 宮城 福島 岡山
累計 293名 78名 215名 119名 47名 69名 58名
6年度 95 19 76 36 14 19 26
5年度 76 17 59 24 12 15 25
4年度 86 31 55 42 21 19 4
3年度 36 11 25 17 0 16 3
資料:(社)酪農ヘルパー全国協会
表7−(2)研修受講生の学歴等
研修受講者 最終学歴 出身別 性別
中学校 高校(うち農校) 農業大学校 大学 農家 非農家
293名 13名 182(68)名 54名 44名 143名 150名 230名 63名

6 中標津の活動状況
 平成元年に設立された有限会社組織の利用組合 「ファム・エイ」 は、 別海町に
属する地域も含む会員数350戸の広域利用組合です。 管内3農協 (中標津、 計根
別及び上春別) は、 それぞれ利用組合を組織していて、 定期利用について専任ヘ
ルパーを抱える有限会社組織 (平成元年6月設立) に業務委託し、 緊急型利用は
、 農協の利用組合が受け持っています。 各利用組合がヘルパー利用計画を作成し、 
「ファム・エイ」 は、 これに基づき実施計画を立てヘルパーを就業させるのです。
 
 また、 経営面では、 「ファム・エイ」 は、 配置要員数を基本に組合ごとに決め
られる業務受託収入と円滑化補助金により運営する一方、 利用組合は、 組合員か
らの利用料、 町および農協からの補助金等で運営しています。
 
 加入農家はやや減少していますが、 要員確保が進み、 ヘルパー利用が進んでい
ます (表8)。 経営状況などから程々の利用にしておいて、 いざというときにヘ
ルパーを利用しようと考える農家がいる一方で、 学校が土曜休校制になったこと
から、 子供たちのためにもっと休みをとりたい酪農家も出てきており、 全体の利
用が増えているのです。 
表8 (有)ファム・エイ管内ヘルパー利用状況    (単位:戸、日、人)
年度 酪農家戸数 加入農家戸数 定期利用戸数 年間定期利用日数別戸数 定期利用日数 病気利用日数 不定期利用日数 ヘルパー数
〜12 〜24 25〜 専任 臨時
平成5年 614 348 263 263 18 1 1,478 - - 9 -
平成6年 604 339 295 229 57 9 1,849.5 167 237 11 -
資料:(有)ファム・エイ(各年8月時点、直近1年間)


 要員は、 現在12人 (うち女性2人)、 平均年齢は30歳。 出身別では、 道内8人
、 道外4人で、 全国協会の研修修了者も3人います。 陣容が整い、 ヘルパー業務
も対象が逐次広がってきています。 各農協の利用組合が受け持つことでスタート
した緊急型ヘルパーを平成5年秋から一部引き受けるようになり、 7年度からは、 
日中の給餌作業を業務対象とすることになり、 大型農家への3人出役も対応でき
るようになりました。 

 また、 この地域は大型化が進む酪農地帯なので、 ヘルパー作業 (給餌作業) に
トラクタ操作が必要な酪農家が4割を超え、 運転技術をもつ要員 (免許保有者現
在5人) が必要になっており、 酪農家の協力を得て機械操作の研修を行い、 技術
向上に努めています。 更に、 利用農家のニーズを的確に把え業務に反映させるた
め、 モニター制度を取り入れるなど酪農家に信頼されるヘルパー事業の確立に取
り組んでいます。 

 なお、 会社を退職したヘルパーのなかには、 技術を活かして開業ヘルパーや削
蹄師などになったり、 人生の伴侶を見つけ他所で共にヘルパーをしている女性も
います。 個性豊かで酪農家にも信頼される若者であれば、 転身分野も広がります。 



7 今後の課題

 中央酪農会議の調査にもみられるように、 後継者のいない小規模経営を中心に
酪農からの離脱が見込まれる一方、 環境問題にも対応しながら、 大規模経営を志
向する元気な経営者も少なくありません。 今後は、 一率の拡大ではなく、 コスト
低減・労働時間短縮・ゆとりの生活が大事になるなかで、 飼養・搾乳形態もフリ
ーストール・ミルキングパーラー方式の導入など省力化、 機械化が進み、 自給飼
料生産のコントラクター委託、 ほ育育成やきゅう肥生産の専門化など作業の外部
化も進むとみられます。 ヘルパー利用も、 家族経営の酪農に欠かせない休日確保
の制度として増えるでしょう。 
 
 ヘルパー利用は、 平均すると、 まだ月1回以下の状況です。 酪農家が点在化し
、 参加できない地域もあります。 要員確保や組織化の工夫をしながら、 地域の生
活改善活動にも呼応して、 推進する必要があります。 

 要員確保は、 経済の低迷による就職難の時代を迎えたこと、 ヘルパーの仕事が
知られるようになったことなどから、 ひと頃より容易になっているようです。 地
域の農業者大学校との連携、 都会からの就業志望者の発掘など、 幅広い募集活動
のなかから、 優れた人材を求める必要があります。 また、 利用者の信頼とニーズ
に応えるため、 ヘルパーの養成研修や技術向上研修の充実強化は益々重要です。 
 他方、 ヘルパーの働きやすい環境整備が必要です。 ヘルパーの労災、 雇用保険
加入など身分保障も進んできましたが、 未加入の組合もまだあります。 給与水準
についても、 平均的には、 他の農事雇用者の給与と比べても劣らない状況にはあ
るものの、 朝早く、 夜遅い特殊な仕事に見合った待遇を求めるヘルパーも少なく
ありません。 農村に住むことを望みながら、 生活基盤がない都会出のヘルパーに
は、 将来に不安を抱く者もいます。 

 ヘルパー利用が酪農家に役に立つと同時に、 働くヘルパーにも不利にならない
ように利用料を定め、 しかも、 赤字は出さないようにしなければならないヘルパ
ー利用組合の運営は、 極めて重要です。 利用充実が求められる今日、 この原則を
認識しながら、 ヘルパー事業を着実に実施することが大切です。 



お わ り に

 家族で働き、 地域社会を維持し、 自然を守りながら栄養豊かな牛乳を生産し、 
しかも、 多数のヘルパーにも就業の機会を与え、 関連産業を育てている酪農は、 
日本農業のなかのすばらしい旗手です。 

 ウルグアイ・ラウンド農業合意により、 新しい国際的な貿易枠組みのもとに置
かれ、 外国に負けない強固な生産基盤を確立することが急がれています。 地域酪
農の維持に不可欠なヘルパー組織をこれまでに発展させてきた酪農家の知恵と活
力が、 諸施策の実施と相まって、 その一層の充実はもとより、 自給飼料生産作業
外部化の促進など、 これからの強い酪農基盤づくりの原動力になるものと思いま
す。 それを元気なヘルパーが助けます。

 


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