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酪農経営の実態と今後の課題
― 平成6年度酪農全国基礎調査から ―

(社団法人 中央酪農会議  総合対策課 迫田 孝)


  
 昨年12月のWTO設立協定案の批准を受け、 今年4月より乳製品の関税化が実施
され、 我が国の酪農経営は大きな転換期を迎えることとなった。 当面の6年間は一
定の関税率が確保されているとはいえ、 今後本格化していく国際競争に備え、 将来
にわたって酪農経営の安定的展開を図っていくためには、 この6年間に生産基盤の
強化を促進することが極めて重要となっている。 
 
1 「酪農全国基礎調査」 の背景
       

 「酪農全国基礎調査」 は、 その実施の背景にウルグアイ・ラウンド交渉の経過、 
そして国内における各種の問題の顕在化があった。 すなわち、 現時点における酪農
家の経営実態を正確に把握し、 それに基づく体系的な指導・支援のあり方を明らか
にするという目的のもと実施されている。 

 従来の同種の調査に比べ、 悉皆調査であること、 酪農家の意向や意識に関する調
査をも取り入れていることなどの特徴をもち、 我が国酪農経営に関するはじめての
総合・体系的調査として、 関係者の協力のもと80%を超える回収率を達成し続けて
おり、 極めて信頼性の高い情報を提供している。 


2 平成6年度調査結果の概要

  「酪農全国基礎調査」 は平成3年度に開始され、 3年度及び4年度に酪農家全戸
を対象とする調査を実施し、 データベースを作成した。 また、 5年度及び6年度に
おいては、 基礎的な16項目に絞って農協段階でこのデータベースを更新している。 
以下、 6年度調査の結果を中心にその概要を紹介する。 

(1) 経営継続状況

 平成5年度以降に酪農経営を中止した農家は6.5%で、 地区別にみると四国が9.6
%と最も多く、 東北の9.2%が続いている。 逆に最も少ないのは沖縄の3.9%、 次い
で北海道の4.7%となっている。 特に小規模層で酪農経営からの離脱が目立つ。
 (表−1) 
 
  なお、 平成3年度の調査結果であるが、 5年以内に酪農を中止すると答えた経営
は、 都府県の10頭未満層で35.3%となっているのに対し、 30頭以上層では5.2%に
とどまっている。 また、 平成4年度に実施した酪農経営中止農家調査結果によれば、 
中止理由として 「高齢化、 後継者なし」が58.8%と最も多く、 次いで 「労働力不足」
(50.7%) があげられている。 

(2) 酪農経営形態 ― 法人化の状況 ―

 酪農経営の大半はいまだに非法人の家族経営である。 無回答を除く総経営数に法
人経営が占める比率は全国で4.2%にとどまっている。 農地法による区分では法人
経営の63.1%が農業生産法人である。 

 地域別にみると、 法人経営が占める比率は、 関東が最も高く5.9%、 次いで九州、 
北海道の順となっている。 一方低いのは東北で、 1.7%となっている。 
 
  法人の割合は、 経営規模とのあいだに明瞭な関係がある。 規模が拡大するほど法
人経営の率は上昇し、 経産牛飼養頭数100頭以上では、 回答者の58.1%が法人経営
である。 (表−2) 

(3) ヘルパー組合への加入の有無
 
 ヘルパー組合について、 80.5%の経営が地域に組織されていると回答している。 
うち、 「加入」 が44.2%、 「非加入」 が36. 3%である。 北海道は86.6%と組織率が
高く (加入率60.6%)、 都府県は78.5% (加入率38.9%)。 (表−3) 

 このように都府県においては組織率もさることながら、 十分に活用できる体制で
ヘルパー組合が組織されていないという問題が明らかとなっている。 

 なお、 平成3年度調査結果によると、 ヘルパー利用の理由については 「冠婚葬祭
」 が52.6%と最も多く、 次いで 「定期的に休日を取るため」 (37.3%)、 「レジャー
のため」 (33.6%) の順となっている。 

(4) 後継者の確保状況
 
 後継者については、 対象となる16歳以上の子供がいる経営は60.3%。 このうち後
継者が決まっているのは27.5%である。 北海道は経営主の平均年齢が都府県にくら
べ若いこともあり、 16歳以上の子供がいる経営の割合自体は48.5%と少ないが、 こ
のうちの42%に後継者が確保されており、 都府県の24%を大きく上回っている。 ま
た、 都府県を地域別にみると、 東海と九州で確保率が高く、 逆に四国及び中国では
 「後継者がいない」と明確に回答している経営が多いという結果が出ている。 (表−
4) 
 
  なお、 規模が大きくなるほど後継者の確保率は高くなる。 経産牛飼養頭数が40頭
以上の規模の経営では46.3%、 100頭以上になると66.1%に後継者が確保されてい
る。 

(5) 牛舎と搾乳施設
 
@ 牛舎形態

 牛舎をフリーストールにしている農家は2.9%であり、 85.1%は繋ぎ飼い方式であ
 る。 北海道ではフリーストールが5.4%と都府県の2.1%を大きく上回っている。 
 都府県の地域別には沖縄が8.8%と最も高く、 九州 (3.5%)、 東海 (3.3%) がそ
 れに続いている。 
 大規模経営に適した形態であることから経産牛飼養頭数との相関ははっきりしてい
 るが (100頭以上の規模では51.8%が導入)、 このほか経営主の年齢別にも興味深
 い結果が得られている。 30代の経営では導入率が4.6%と最も多く、 それに続くの
 が20代以下と40代の3.7%である。 若い経営層が新しい畜舎形態の採用に積極的で
 あることが伺える。 

A 搾乳形態

 搾乳形態はパイプラインが54.9%、 バケットが30.5%とこの二つで85.4%を占め、 
 ミルキングパーラーは2.5%の経営で採用されている。 フリーストールとセットで
 導入されることが多く、 フリーストールの経営は1,125戸、 ミルキングパーラーに
 よる搾乳は969戸となっている。 
 北海道ではパイプラインによる搾乳が70.9%と高く、 またミルキングパーラーの
 導入率も4.3%と都府県 (1.9%) の2倍以上である。 都府県を地域別にみると四
 国、 東北、 近畿でバケットが多い。 また、 沖縄、 東海ではパイプラインの比率が
 75%を超えている。 沖縄はミルキングパーラーの導入率も高く、 8.1%となってい
 る。 

(6) 平成5年度の出荷乳量
 
 平成5年度 (調査年度は平成6年度) の出荷乳量は平均194.1トンであり、 300ト
ン以上の経営が19. 5%と最も多い。 北海道では実に46.2%が300トン以上の経営で
ある。 一方、 都府県では100〜200トンの間にピークがあり、 300トン以上の経営は
10.7%となっている。 都府県を地域別にみると東海 (平均256.5トン)、 沖縄(213.8
トン) の順で規模が大きく、 逆に東北 (109.0トン)、 四国 (117.2トン)で小規模経
営が目立つ。 

 平成2年度 (調査年度は平成3年度) と比較すると、 全国の平均出荷乳量は156.8
トンから194.1トンへと23.8%増加している。 うち北海道は23.9%、 都府県は20.7%
の増加。 (表−5) 

(7) 平成6年9月の経産牛飼養頭数
 
 経産牛飼養頭数は一戸当たり平均28.9頭であり、 10〜19頭の経営が最も多く20.0%
、 次いで20〜29頭 (19.1%)、 30〜39頭 (17.3%) となっている。 

 北海道においては50〜99頭の経営が32.0%と最も多く、 平均飼養頭数は44.5頭であ
る。 都府県平均の23. 7頭と比較すると、 1.9倍の経営規模となっている。 

 平成3年度との比較では、 全国の平均飼養頭数が25.6頭から28.9頭へと12.9%増加
している。 (表−6) 



3 求められる指導・支援体制

 以上、 6年度調査結果の概要を駆け足で説明したが、 冒頭でも述べたとおり、 この
調査の価値は、 個々の酪農家の生産基盤の実態という、 いわば事実の認識もさること
ながら、 平成3年度・4年度の調査において、 今後の経営展開の方向など、 全国の酪
農家の意向が悉皆レベルで把握されたという点にある。 

 我々指導・支援に携わる者は、 この調査で得られた結果に基づき、 いま何が求めら
れているのかということをはっきりと認識したうえで、 真に効果の上がる支援対策を
講じていく必要がある。 

 例えば、 情報提供のあり方については、 いま経営に必要とされている情報を提供す
ることが重要であり、 不要な情報の提供は必要なものへの関心を拡散させてしまう。 
また、 個々の経営は、 その経営形態・立地条件だけでなく、 情報の受容能力において
も差がある。 これらを十分考慮したうえで、 効率的な情報提供を行っていかなければ
ならない。 なお、 現在最も必要とされている情報は、 経営診断についてのものであり
(36.2%)、 乳質改善・ふん尿処理関連がそれに続いている。 (平成4年度調査) 
 
 また、 後継者の確保問題についても、 経営規模によって必要としている対策は異な
る。 経済的条件の改善はどの階層においても最大の項目として挙げられているが、 な
かでも経営規模の拡大は小規模層及び100頭以上の層に多く、 負債の軽減は30〜100未
満の階層で多くなっている。 また、 労働条件の改善を求める経営は規模にほぼ比例し
て多くなるが、 これも100頭以上層では若干減少する。 また、 規模が大きくなるにつ
れ、 酪農の必要性、 重要性についての社会的認知を求める経営が多くなり、 100頭以
上層では最大の項目となっている。 (平成3年度調査) 

 農家と直接かかわりを持つ農協の指導・支援体制について、 過半数の農協は酪農経
営への指導を月に1回以上実施しているが、 一方、 ほとんど行っていない農協も15%
以上ある。 その指導内容に関しても、 最も希望の高かった、 経営診断分野についての
指導があまり実施されていないという問題がある。 (平成3年度調査) 

 農協に求められる指導・支援はますます広分野となっている。 ふん尿処理に代表さ
れるような酪農経営共通の問題に対処する一方で、 個々の経営が個別に抱える問題に
も応えなければならない。 さらには、 現在、 先進酪農経営からの高度な要求も増加し
ている。 しかし、 これらに対応し得る力量と柔軟性を農協が獲得し、 将来にわたって
酪農支援組織としての役割を果たし続けていかなければ、 地域の酪農経営を継続的に
維持、 発展させていくことはできない。 


4 おわりに ― 平成7年度調査について ―

 前述のとおり平成5年及び6年度は農協段階でのデータベース更新というかたちで
調査を行った。 このため、 経営展開の方向など個々の酪農家の意向や、 生産技術力等
の把握は平成4年度調査時点のものとなっており、 酪農経営を取り巻く環境が構造的
な変化を迎えようとしている現在、 地域あるいは個々の経営に応じた指導・支援を行
うためには、 再度これらについて把握しなおすことが必要となっている。 

 このような観点のもと、 7年度においては、 平成3年度及び4年度に実施した酪農
家全戸、 及び全生乳出荷農協を対象とした悉皆調査を再度実施することとしている。 
乳製品の関税化をむかえ、 酪農家が今後の経営についてどのような意向を持っている
のか、 また、 整備している生産資材・技術等について貴重なデータが得られるものと
期待している。 

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