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食品の日付表示に係る基準の改正について

 (厚生省生活衛生局乳肉衛生課   井 関 法 子) 


  
1 は じ め に

 食品の日付に係る表示については、 食品衛生の観点から従来、 製造又は加工年
月日 (以下 「製造年月日等」 という。) の表示が義務づけられておりましたが、 
平成6年12月27日付けで食品衛生法施行規則、 乳及び乳製品の成分規格等に関す
る省令及び栄養改善法施行規則の一部が改正され、 従来の製造年月日等の表示か
ら期限表示に移行する制度が、 本年4月1日から施行されております。 そこで、 
改正に至った経緯、 改正の概要等について述べることとします。 

 
2 改正の経緯等

 食品の日付に係る表示については、 食品衛生法第11条に基づき、 厚生大臣が公
衆衛生の見地から、 販売するための食品等の表示の基準を定めることができると
され、 また、 その基準に合う表示を行わない場合には、 販売し、 販売のために陳
列し、 又は営業のために使用してはならないとされております。 この表示の基準
により、 名称、 製造所所在地、 製造者氏名等に併せて製造年月日等の表示が義務
づけられていました。 
 
 この食品等の表示の主な目的は、 消費者に対し、 その食品についての的確な情
報を提供すること、 食中毒等の事故が起きた場合にどこに責任があるかを明らか
にし、 保健所等が行う製品回収等の措置を迅速、 かつ、 的確に行うための手がか
りとすること等が考えられます。 
 
 しかしながら、 製造年月日等の表示については、 食品衛生上期待される本来の
機能を果たしているかどうかについて、 次の点を考慮する必要が生じてきました。 

@ 食品衛生に係る情報として、 適当であるか否か

 近年、 食品の製造・加工技術や流通手段が飛躍的に発達したこと等により、 食
品等の品質劣化の判断について消費者が、 これまでの製造年月日等を起点として
経験的知識から適切に判断することが難しくなってきていることが挙げられます。 
 なぜならば、 製造技術や衛生管理の飛躍的向上、 無菌充填包装等の新しい技術
を応用した食品が増えてきたこと、 流通技術の発達により低温流通が主流となっ
たことなどにより、 従来の経験上の知識だけをたよりに食品の劣化の目安を判断
することが適当ではなくなったからです。 具体的には、 従来の意識では、 数日の
日持ちであると考えられる生めんであっても、 無菌的製造により、 数カ月間の日
持ちが可能な場合があることなどがあげられます。 

A 表示すべき 「製造」 時を特定することが難しくなっていること
 弁当のような、 複数の食品を寄せ集めてひとつの食品とする場合等には、 品質
劣化の起点とされる製造日そのものの特定が困難となっていることもあり、 表示
されている製造年月日等からは、 食品の品質がいつまで保持されるのかという判
断が困難な食品が増加しているということもあります。 

B 国際的整合性
 一方、 国際的には、 コーデックス規格 (FAO/WHO合同による食品に係る
国際的規格) やEU諸国における規制等にみられるように、 食品がいつ作られた
かということよりも、 いつまで品質が保持されるかという期限表示が一般的であ
り、 食品の国際流通の増大に従い、 食品の日付に係る基準について、 国際的調和
を図ることが従来以上に重要となってきたことが挙げられます。 

C その他
 さらに、 消費者の過剰な鮮度重視の志向により、 製造日の新しい食品が要求さ
れ、 製造業者においては、 深夜・早朝操業などにより労力の負荷が増大するなど
の弊害が生じていたり、 製造年月日等が少しでも古くなると返品廃棄されてしま
うなど資源の無駄も生じてきていることが挙げられます。 

 これらの状況に併せて、 国内外から食品の日付表示の見直しを求める声が出さ
れていました。 平成4年12月の行革審答申の中で 「食品の日付表示方法について
は、 国際的な動向を踏まえ、 品質保持の期限表示について早急に検討を行う」 こ
ととされ、 また、 平成5年9月の経済対策閣僚会議において出された緊急経済対
策においては、 規制緩和等の推進策の一項目として、 食品の日付表示を国際的な
規格・基準等も踏まえ、 製造年月日表示から期限表示を原則とする方式へ移行す
ることがあげられていました。 さらに、 EUや米国からは、 OTO (市場開放問
題苦情処理推進本部) の場などにおいて、 貿易障害の面から日付表示の変更を求
める声が出されていました。 これらの社会的な状況に対応し、 まず、 農林水産省
では、 平成4年3月に 「食品表示問題懇談会」 を設置し、 JAS法に基づく食品
の日付表示の在り方の検討を行い、 平成5年11月には、 原則として製造年月日か
ら期限表示に移行することが適当であるとする同懇談会の報告がまとめられまし
た。 

 また、 厚生省では、 これら食品衛生をとりまく環境が大きく変化したことに対
応した食品の日付表示を検討するため、 平成4年12月に 「食品の日付表示に関す
る検討会」 を設置し、 消費者団体等の関係団体から聴取したご意見等も踏まえて
食品等の日付に関する表示の在り方について検討がなされ、 平成5年11月に、 食
品の日付表示としては、 製造年月日表示よりも、 品質保持の期限そのものの表示
を行うことの方が有用であるとする報告がまとめられました。 さらに、 同検討会
の報告の考え方に沿って、 平成5年12月に 「食品の日付表示を期限表示とするこ
とについて」 食品衛生調査会への諮問を行いました。 食品衛生調査会では、 食品
規格部会と乳肉水産食品部会の合同部会で検討が行われ、 平成6年4月11日に同
部会の報告がまとめられました。 そして、 ガット通報を行った後、 平成6年9月
には食品衛生調査会常任委員会を開催し、 「食品の日付表示については、 製造・
加工技術の進歩等を踏まえ、品質保持にかかわる情報としては、 製造年月日表示
よりも、 品質保持の期限そのものの表示 (期限表示) を行うことが有用であり、 
食品の劣化速度に応じた 「消費期限」 と 「品質保持期限」 という2種類の期限表
示を導入することが適当である」 との食品衛生調査会の答申となったところです。 
 
 これらの答申を受け、 平成6年12月27日に食品衛生法施行規則の一部改正が行
われ、 食品の日付表示に係る基準について、 製造年月日等の表示から期限表示と
なったものであり、 平成7年4月1日から施行されております。 


3 期限表示制度の概要

 期限表示制度の内容については、 食品衛生法施行規則等の一部が改正された後、 
厚生省生活衛生局長から各都道府県知事等あてに通知された同規則等の運用通知
(平成7年2月19日付け衛食第31号) 及び食品衛生法に基づく表示指導要領の改
正に係る通知 (平成7年3月31日衛食第74号) に示されております。 
 
 この通知をもとに期限表示の制度についてご紹介します。 

(1) 期限表示とは

 食品衛生法に基づく期限表示制度においては、 従来、 製造年月日等の表示が義
務づけられていた別表に定める食品等について期限表示を行わなければなりませ
ん。 期限表示には、 消費期限と品質保持期限があり、 次のように定義されていま
す。 

@ 消費期限
 定められた方法によって、 保存した場合において品質が急速に劣化しやすい食
品等にあっては、 消費期限 (定められた方法により保存した場合において、 腐敗、 
変敗その他の食品等の劣化に伴う衛生上の危害が発生する恐れがないと認められ
る期限を示す年月日をいう。 以下同じ) である旨の文字を冠したその年月日。 

A 品質保持期限
 上記@に規定する食品等以外の食品等にあっては、 品質保持期限 (定められた
方法により保存した場合において、 食品等のすべての品質の保持が十分に可能で
あると認められる期限を示す年月日をいう。 以下同じ) である旨の文字を冠した
年月日。 
 
 消費期限を示すべき食品等は、 具体的には、 定められた方法により保存した場
合において製造又は加工の日を含めておおむね5日以内の期間で品質が劣化する
食品をいいます。 
 
 したがって、 これらの食品等は、 消費期限を過ぎた場合には、 衛生上の危害が
発生するおそれがでてくる可能性があり、 消費期限を過ぎた場合は、 販売を厳に
謹むべきものでしょう。 また消費者にあっては、 消費期限を表示された食品は、 
期限内に速やかに消費する必要があります。 
 
 品質保持期限を表示すべき食品等とは、 一般的に言えば、 日持ちのする食品で
あり、 表示された期間内においては、 食品等の全ての品質が保持されているもの
であり、 食品等が腐敗・変敗するいわゆる終期よりも十分に余裕をもって設定さ
れるべきものであるので、 品質保持期限を過ぎたからといって、 すぐに衛生上の
危害が発生するわけではありませんが消費者は、 速やかに消費する必要がありま
す。 

(2) 保存方法の表示等について

@ 保存方法の表示
 食品等がいつまで日持ちするのかは、 食品等の保存方法に影響されるものであ
ることから、 期限表示は定められた方法により保存することを前提とし、 期限表
示に併せて保存の方法を表示しなければなりません。 
 
 また、 その保存の方法は、 食品の流通時、 家庭の冷蔵庫等において可能な保存
の方法をよく考慮したうえで、 適切に定める必要があります。  (ただし、 食品衛
生法第7条第1項の規定により、 保存方法の基準が定められている食品には、 そ
の基準に合う保存方法であること) 
 さらに、 保存方法の表示は、 「○○℃以下で保存」 等のようにわかり易く、 か
つ、 具体的に記載する必要があります。 

A 常温で保存する旨の表示の省略
 上記のように期限表示に併せて保存の方法を表示しなければなりませんが、 保
存方法が常温の場合には、 常温で保存する旨の表示を省略することができます (
ただし、 乳及び乳製品のうちLL牛乳等のいわゆる常温保存可能品を除く)。 ただ
し、 常温で保存する食品等であっても表示された期限に影響を与える温度以外の
保存の条件がある場合 (たとえば直射日光を避けること、 暗所に保存すること等)
、 それらの保存条件を保存方法として表示する必要があります。 

B 期限の設定方法
ア 期限の設定者について
 期限の設定については、 食品等の劣化速度は、 原材料の衛生状態、 製造・加工
 時の衛生管理の状態、 保存方法等の諸要素により左右されるので、 期限の設定
 に当たっては、 当該食品等について知識を有するものが設定すべきものであり
 ます。 
 基本的には製造・加工を行う営業者 (輸入食品等の期限設定については、 輸入
 業者) が行わなければなりません。
 
イ 期限の設定方法について
 期限の設定は、 食品の特性に応じて、 微生物試験や理化学試験及び官能検査の
 結果に基づき、 科学的・合理的に行う必要があります。 具体的な期限の設定方
 法については、 保健所等に相談することも可能であり、 食肉・食肉製品、 乳・
 乳製品については、 各関係団体が期限の設定方法についてガイドラインを作成
 しているので参考にすることも可能です。
 
 特に、 品質保持期限は、 製造又は加工の日から終期までの期間 (日数) に安全
 性を見込んで算出することが必要であり、 仮に算出した日数が5日以内となる
 食品は、 品質が急速に劣化する食品として取扱い、 品質保持期限ではなく消費
 期限を記載する必要があります。 
 
 なお、 この期限表示制度の施行にあたっては、 製造・加工者が食品の期限設定
 のための試験を行うのに必要な期間や包装資材の在庫等を配慮し、 2年間の経
 過期間を設けており、 平成9年3月31日までは、 従来の表示を行うことも可能
 ですが、 できる限り速やかに期限表示に移行することが望まれます。 
 以上、 概要を紹介しましたが、 これ以外にも日付に関する規定や注意事項等が
 ありますので、 先の通知を参考にして下さい。 


4 お わ り に

 今回の日付に係る制度の改正により、 これまでの製造年月日等の表示に代えて
期限表示を行うこととされましたが、 期限表示は、 従来の製造年月日等の表示が
意図する食品の衛生を確保することを目的とした情報を全て含むものであること
から、 期限表示制度の導入により今後は、 製造年月日表示は必要ありません。 従
来の製造年月日等の表示は、 製造者が食品を製造又は加工した日を表示し、 その
表示をもとに消費者が自らその食品がいつまで持つか等の衛生に係る判断をして
いたところですが、 今後は、 製造・加工者がその食品がいつまで持つのかを保証
するものとなります。 
 
 従って、 製造・加工者の食品の安全性に関する責任がこれまで以上に課せられ
ることとなります。 
 
 保存の方法が食品の期限に大きく影響することから製造・加工者ばかりでなく、 
流通・販売者にあっても、 表示された保存方法に従ってこれまで以上に食品を衛
生的に取り扱う等の衛生管理の徹底がさらに必要となってくるでしょう。 期限表
示制度を円滑に導入し、 また、 消費者に理解されるためには、 官民一体となった
普及啓蒙活動が必要となりますが、 特に、 営業者は、 

@表示される期限表示が消費者に信頼されるものであるためには、 期限の設定方
 法が科学的根拠に基づき適切に設定され、 また、 消費者等から期限表示に関し
 て質問された場合には、 その根拠を提示できるようにする必要があること
 期限表示は、 衛生管理の条件によって左右されるものであり、 科学的根拠に基
 づかない期限の設定により、 過当競争にならないようにしなければならないこと

A安全な食品を製造するためには、 安全な原材料を調達することや、 食品の製造
 ・加工・保存等を衛生的に取り扱う必要性があること
 など、 今後より一層食品の衛生について配慮が必要となるでしょう。 
 新しい日付表示制度の導入により、 消費者により安全な食品が提供されるよう
 営業者の一層の努力がなされることを望んでやみません。 




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