高知大学 農学部 櫻井 孝志
西井 一成
松島 貴則
今回の畜産業は、牛肉をはじめ、鶏卵、鶏肉等が全般的に過剰基調にあり、飼 養規模拡大によるコスト低減が強く求められ、経営の合理化が進められてきた。 しかしながら、低価格の輸入畜産物は、そのような国内畜産農家の努力を一蹴し、 牛肉においては国内流通量の約6割を占めるまでに至った。このように国内畜産 業をとりまく環境は厳しいが、高知県の約95%を占める中山間地域では、畜産を 地域農業振興の重要部門と位置づけ、地域特産品として独自の販売経路開拓等に よる展開を志向している事例が多く見られる。 そこで、地域特産品としての高知県産褐毛和種牛(以下「土佐褐牛」という。) に注目し、その生産・流通の新たな動向と課題を整理し、高知県下の消費者意向 アンケート調査とあわせ今後の地域特産畜産物の展開方高について検討する。2 生産・流通の概要
土佐褐牛の飼養頭数は、昭和61年から平成5年までほぼ8,000頭前後で推移し てきたが、平成3年4月からの牛肉の輸入自由化以降の急激な子牛価格の低迷等 の影響から、平成6年には前年比8.7%減少の7,392頭(うち雌成牛3,444頭)と なった。県下で飼育される肉用牛全体に占める土佐褐牛の割合は圧倒的に高く、 平成6年は71.3%である。 飼養農家戸数は一貫して減少傾向にあり、昭和62年の1,542戸が平成6年には 876戸とほぼ半減している。なお、1戸当たり平均飼養頭数規模は着実に増加し、 平成6年度には8.44頭となっている。 土佐褐牛は県下一円で飼育されているが、主な生産地は土佐町、本山町を中心 とする嶺北地域、窪川町を中心とする高岡郡全域、土佐清水市などである。 表-1 県内における土佐褐牛の飼養状況
昭和62年 | 平成元年 | 平成3年 | 平成5年 | 平成6年 | |
農家戸数 | 1,542 | 1,385 | 1,241 | 1,006 | 876 |
飼養頭数 | 7,845 | 7,806 | 8,129 | 8,099 | 7,392 |
1戸当たりの飼養頭数 | 5.09 | 5.64 | 6.55 | 8.05 | 8.44 |
飼料:高知県畜産課 土佐褐牛の流通経路を図-1に示す。農家から出荷された牛は、食肉センター でと畜され枝肉となり、約6割がセリで小売業者に落札され、落札されなかった 残り4割の枝肉は経済連により一度引き取られ、部分肉に解体後、小売業者に出 荷される。また、食肉流通業者が直接農家から牛を買い取り量販店に販売する形 態があり、これらのほかに産地直送形態などがある。
(1)株式会社ビーフ・キャトル 株式会社ビーフ・キャトルは、高知市から国道56号線にて西方へ約70km、高岡 郡窪川町にある。
ア 設立の契機と発展の経過 昭和38年から44年の間に高校を卒業し、それぞれ肉用牛肥育に取り組んでいた 窪川町内の5名の若者が、小売業者の価格抑制圧力に対抗するために、昭和45年 に自主的なグループとして「ビーフ・キャトル」を結成したのが、組織の発端で ある。 当初、経営は個別であったが、各人がそれぞれ素牛導入、飼育技術、飼料、総 務および販売の5部門の責任者となり、経営と技術の充実を図ることとなった。 この時点での1戸当たりの飼養頭数は20〜60頭であった。 昭和47年、県下一円にチェーン店を持つある量販店の申し出により、定量、定 質の牛肉を出荷するという信頼取引を一部で始めた。双方の利益が一致したため に、翌年の昭和48年に販売をその量販店に一本化し、生産費補償方式により価格 を設定する取引が展開していくこととなった。その際、量販店の要望が「大衆向 け牛肉」であったため、全員が乳用種肥育に切り替えた。 昭和49年、経営の合理化を図るために、個人経営を解消し、1名加わって6名 で農事組合法人ビーフ・キャトルを設立した。その後、畜産環境整備事業により ふん尿処理施設を導入し、処理した有機肥料を「キャトル有機」として販売し始 めた。 昭和53年には、流通部門の拡大により株式会社ビーフ商亊を設立して、販売部 門を分離独立させた。このころ、窪川町内に点在していた各農家を1か所に集め、 畜産団地を構築する計画もあったが、環境問題から用地の確保が困難、家族労働 が十分利用できないなどの理由により、断念せざるをえなかった。 昭和55年には、当時の農事組合法人による生産体制では生産規模の拡大に限界 が生じ、需要に対し供給量が不十分となってきたため、販売部門であるビーフ商 亊はそのまま存続させ、農事組合法人のみを解消し、生産部門を個人経営にする ことによって、各農家ごとに規模拡大を図ることになった。 翌年には、中村市に枝肉カット場も完成し、量販店のニーズにより細かく応え られることとなった。さらに、「品揃えの充実」という量販店側からの要望によ り、土佐褐牛の肥育も開始した。 平成3年、株式会社ビーフ商亊の名称を株式会社ビーフ・キャトルに変更し、 現在に至っている。 イ 組織の概要(図−2) 「ビーフ・キャピトル」グループの組織は生産者兼役員7名(うち常勤1名)、 グループ員6名および社員4名の計17名の構成員から成り立っている。 ウ 生産方法 @ 肥育素牛 現在、ホルスタイン種去勢については、株式会社ビーフキャピトルの決定した 素牛導入計画に従い、北海道の特定農家より6ヵ月齢の子牛を1頭約7万円で、 年間1,000頭前後導入し、各農家に配分している。子牛価格は、ホクレン農業協 同組合連合会が市況および餌代などを考慮し、毎月決定する(平均280円/kg)。 また、土佐褐牛については、県下家畜市場において購入している。 A肥育 生後6ヵ月の素牛に、グループ内でほぼ統一された自家配合飼料を給与し、16 〜17ヶ月齢まで肥育する。
エ 販売方式(図ー3) @ 販路 農家がまだグループ化していない昭和45年以前は、町内量販店の他に、生体 のまま大阪や宿毛市などへ出荷していたが、ビーフ・キャトル社の設立から2年 後の昭和47年以降、現在に至るまで、特定量販店のみとの取引を継続している。 A 出荷および販売体制 出荷は毎日約3頭ずつで、食肉センターにおいてと畜・解体後、隣接の枝肉カ ット場へ輸送し、さらに分解を行い、カット肉として真空包装で冷凍保存する。 そして、量販店からの注文により、要求部位・量を高知市一宮の量販店物流セン ターあるいはチェーン店に納入されたカット肉は、ここで、スライス等の作業を 経て販売用にパックされた後、各チェーン店に配送される。また、各チェーン店 に納入されたカット肉は店内のバックヤードにてスライス等の作業が行われる。 いずれもラベルに生産者の氏名を印刷し、販売される。 B ブランド化 ビーフ・キャトル社が販売する肉用牛は、一部の土佐褐牛を除いてほとんどホ ルスタイン種去勢牛だが、量販店からは「ホルスタイン種去勢牛」では消費者に 対するイメージが悪いとされたため、産地の明示、安心・安全で県内産イメージ が強いという見地から、「窪川牛」というブランドで販売してる。 C 販売頭数 年間販売頭数は、平成元年にはホルスタイン種859頭で、平成4年には966頭、 平成元年にはホルスタイン種859頭で、平成4年には966頭、平成5年ではホルスタ イン種1,024頭に新たに土佐褐牛も170頭も加わり、着実に頭数を増やしている。 D 価格設定 2月と8月に生産者と量販店の両者で取り決めを行い、半年間はその価格で取 引が行われる。格付は(社)日本食肉格付協会の格付方法に準じてはいるが、個 体ごとの枝肉格付はビーフ・キャトルの販売担当常務が行っており、販売する側 が価格を決めることができる。平成6年8月の枝肉設定価格と、県内平均価格ま たは東京市場の平均枝肉価格を表−2に示すが、大消費地である東京よりも単価 が高いことがわかる。 また、生産費補償方式のため、格付が低い枝肉の方が平均単価より高くなり、 格付が上がると平均と変わらなくなる。特に、土佐褐牛については販売価格が決 まっているため安心して素牛導入を行うことができ、地域内にある家畜市場の子 牛を買い支えている。 表−2 潟rーフ・キャトル枝肉販売単価 土佐褐牛 (円/kg)
項目/格付 | 2 | 3 | 4 |
ビーフ・キャトル | 1,340 | 1,530 | 1,700 |
県内平均 | 1,200 | 1,500 | 1,700 |
ホルスタイン種
項目/格付 | 3 | 3+ | 4 |
ビーフ・キャトル | 1,000 | 1,100 | 1,200 |
東京食肉市場平均 | 917 | 1,176 |
(注1)潟rーフ・キャトルの価格は聞き取り調査、平均価格は 高知県畜産課資料、肉牛ジャーナルを参考にした。 (注2)格付の3+は、ビーフ・キャトル独自の格付で3クラス の上位のものをいう。 オ 本事例の特徴と今後の課題 本事例の特徴として、次の諸点を挙げることができる。 @ 素牛導入の一元化と統一自家配合飼料による肉質の均一化 A 販売会社の設立による販売管理の一元化 B 生産費補償方式の価格設定と定時定量出荷による量販店への一元販売 C 販売会社による流通過程への参入 D 生産者名の表示による差別化 等 今日まで、牛肉の輸入自由化による価格の大幅な低下には、経営の合理化、 肥育牛の多頭化および安全性の追及などの対応が見られてきた。子牛価格が低 下し、また、円高により自家配の飼料原料価格も低下したものの、今以上の生 産費の引き下げは困難な状況にある。 しかしながら、本事例では生産者が直接、量販店に出荷しているために量販 店を通じて消費者の声を聞くことができる。そして、生産者が消費者のニーズ に直接応えることができる面で輸入肉に勝っている。 経営のさらなる合理化とともに、この点を生かして消費者の求める牛肉を生 産し、輸入肉にはない付加価値をつけていくことが、生き残るために必要不可 欠である。 (2)株式会社れいほく畜産 株式会社れいほく畜産は、高知県北部山間の嶺北地域に位置する本山町にあ る。 ア 設立の契機と発展の経過 本川村を除く嶺北4ヵ町村は、肉用牛飼育を地域の重要な産業として位置づ け、県下で初めての広域的な取り組みとして、昭和40年代後半に蒲莓k畜産協 会を設立し、牛の増頭、改良および生産のコストの低減に取り組み始めた。そ の結果、肉用牛が農家経営の大きな柱となり、林業と畜産などの複合経営農家 が育ってきた。 しかし、牛肉の輸入自由化にともなう価格の低迷は、生産だけに主力を注い だ地域システムに大きな打撃を与え、農家の畜産の放棄や離農につながりかね ない状況をつくりだした。 そこで、4ヵ町はふるさと定住事業の主軸として、従来、(社)嶺北畜産協 会が取り組んできた生産支援活動に加え、消費者と直結した産地直売方式を実 現するなど、嶺北畜産協会が取り組んできた生産支援活動に加え、消費者と直 結した産地直売方式を実現するなど、嶺北牛の生産から販売にいたる一貫した 新たなシステムを確立し、畜産農家の経営安定を図るため、平成6年7月に( 株)れいほく畜産を設立した。 イ 組織と人員体制 現在社員は3名だが、平成9年に予定されている蒲莓k畜産協会との組織の 一体化後は、社員6名、パート3名になる予定である。 ウ 生産方式 出荷に至るまでには3つのタイプの生産方式がある。その大部分を占めるも のが、5、6差以上の土佐褐色の経産牛をれいほく畜産に預託し、6ヵ月肥育 (必要経費:10.8万円)の後、出荷するという預託方式である。この方式では 、農家は飼料費などの必要経費を支払うのみで、牛を預けることにより空いた ペンに新しい牛を導入することができる。その他に、農家にれいほく畜産指定 の飼料で6ヵ月肥育させた土佐褐牛の経産牛を同社が32万円で買い取るという 買い取り方式、買い取り方式と同様の方式で肥育させたものに販路を斡旋する という斡旋法方式が存在する。いずれの方式においても、牛は産次の進んだ土 佐褐牛の経産牛で、肥育中の飼料には残留農薬のない極めて安全性の高いもの を使用し、また、抗生物質および成長ホルモンの投与は全く行っていない。 エ 販売方式 @出荷および販売体制 肥育センターにおいて肥育終了後、徳島県池田町の食肉センターでと畜・解 体し、再びれいほく畜産のミートセンターへ輸送する。さらに、ここでブロッ ク単位に解体し、ロースおよびももはほとんどがコープ神戸へ、その他の部位 は量販店、飲食店を中心に出荷、県内S住宅団地および2ヶ所の消費者グルー プには産地直送販売もしている。 また、「土佐和牛 嶺北ビーフのタタキ」あるいは「土佐和牛 嶺北ビーフ の詰め合わせのセット」など「ふるさと小包」による全国配送体制も整えてい る。 Aブランド化 れいほく畜産が扱っている肉用牛は、土佐褐牛が大部分(一部で黒毛和種の 飼育がある。)であるが、ここから出荷する牛肉はすべて、「土佐和牛嶺北ビ ーフ」の名で販売されている。高知県の嶺北地区に限定したネーミングによっ て、高知の自然豊かな土地で育った牛を表し、「吉野川源流の天然水を飲んで 育っている」ことや「飼料中に添加物を含んでいない」などの牛肉の安全性に 重点を置き、近年高まってきた安心・安全指向の消費者を意識して販売してい る。
B販売価格 産次の進んだ土佐褐牛の経産牛の活用と産地直送方式の導入により、販売価 格をある程度低く抑えることができる。枝肉の格付は自社の格付員が行い、平 均800円/kg前後というホルスタイン種去勢牛並の価格で取引される。 農家収入は、前述した預託・買い取り方式では肥育にかかった餌代、と畜解 体料を差し引いた額(約21万円程度)となり、斡旋方式では手数料としてれい ほく畜産が売却金額の5%を受け取る。 オ 「れいほく畜産」事業計画 表−3は平成6年度から9年度の「れいほく畜産」販売予定(計画)量であ る。6年度あh9月からであるため出荷頭数が少ないが、県外生協と量販店を 中心に順次出荷頭数を増やしていく予定である。 表−3 鰍黷「ほく畜産販売予定(計画)量
6年度 | 7年度 | 8年度 | 9年度 | |
コープ神戸量販店 | 5,000kg 20頭分 |
15,000kg 60頭分 |
15,000kg 60頭分 |
35,000kg 135頭分 |
飲食店 | 600kg | 1,560kg | 4,800kg (2〜3店) |
5,000kg |
瀬戸団地 | 200kg 年2回訪問 |
400kg | 400kg | 400kg |
地元消費者グループ | 133kg | 472kg | 532kg | 1,365kg |
専門販売 | 4,000kg | 4,000kg | 4,000kg | |
合計 | 5,933kg | 21,432kg | 24,732kg | 45,765kg |
(注)6年度は6年9月〜7年3月の数字である。
カ 本事例の特徴と今後の課題 本事例の特徴として、以下の諸点を挙げることができる。 @株式会社れいほく畜産による嶺北地域4ヵ町村の土佐褐牛経産牛の一元的な 販売管理 A株式会社れいほく畜産の所有する肥育センター、ミートセンターによる肥育 管理の集約化、消費に対する柔軟な対応 B経産牛の活用、流通過程の簡素化による付加価値の創出と低価格和牛肉の提 供 C安全性に重点を置いた肥育管理 等 れいほく畜産は平成6年7月に設置されて間がなく、以下のような解決すべ き課題がある。 @現在の肥育センターの規模の制約や嶺北地域内における経産牛頭数の制約等 により、生産量が需要に追いつかない状況にある。今後、肥育センターの増 設やそれにともなう去勢牛肥育の開始が予定されている。 A「ロース」あるいは「ヒレ」などの人気のある部位は販売しやすいが、「ば ら」などの部位については出荷頭数の増加とともに販路の確保が必要である。 B今後、牛肉関税の引き下げ等市場をとりまく環境が厳しさを増すなか、「土 佐和牛嶺北ビーフ」ブランドを如何にして確立していくか。 (3)東津野村における「和牛オーナー肥育研究会」 東津野村は高知市の西方山間部の愛媛県との県境に位置し、清流四万十川の 源流が流れる自然豊かな土地である。 ア 活動の契機と発展の経過 東津野村の農業は、棚田主体の稲作を中心に、急傾斜を生かした茶栽培と、 肉用牛、鶏卵および養蚕などを地域農業の基幹作目としてきた。しかし、昭和 50年以降、農家戸数の減少、農家の高齢化と後継者不足が進行していた。さら に平成3年4月からの牛肉の輸入自由化をひかえ、既存の肉用牛飼養農家は肉 用牛部門の放棄も考えかねない状況にあった。 そのような折、村内のある肉用牛飼養農家が、出荷時の牛肉の枝肉単価と、 量販店あるいは専門店などの小売店で販売される値段に大きな差が生じている ことに注目した。他の畜産農家や農協職員などと相談の結果、「肥育技術の研 究と地域の生産出荷体制を一貫させる」、「よい系統の土佐褐牛を村に残す」 および「土佐褐牛を実際に食べる」ことを目的として、素牛購入代金および肥 育にかかる飼料費等の費用について出資者を募り、生産された牛肉を分配する という方式を実行することとなった。この呼びかけに村内の12人が参加し、平 成2年3月「第1回和牛オーナー肥育研究会」が発足した。第2回終了後、新 聞、雑誌などにこの和牛オーナー制度が取り上げられ、県内各地からも出資者 になりたいとの要望があり、それまで村内に限定していた組織を拡大し、県内 各地から出資者を広く募り、平成6年3月「第3回和牛オーナー肥育研究会」 が発足した。オーナーは40名で、肥育牛も1頭から2頭に増やした。当初の目 的の他に「土佐褐牛と村内の人達とのつながりの輪を広げる」、「村内の畜産 農家の繁殖技術を育成し、村内外へオーナー肥育を広げる受け皿を作る」、「 カルスト放牧経験のある素牛を肥育してどのような結果となるかを確かめる」 および「オーナー肥育の継続により畜産振興し、村おこしにつなげる」などを 新たに目的に加え、今後も続ける予定である。 イ 生産方式 四国カルスト放牧経験のある村内の畜産農家の繁殖牛が分娩した10ヶ月齢の 去勢牛を、会員でもある肉用牛農家に委託し肥育する。肥育期間は18ヶ月とし、 28ヵ月齢でと畜する。
ウ 収入および収支 「第3回和牛オーナー肥育研究会」の予算書を表4に示す。 エ 本事例の特徴と今後の課題 本事例は、消費者である会員が肉用牛農家に出資および委託して、土佐褐牛 を肥育させ、小売業者をも通さずに会員達で牛肉を分配するところに特徴があ る。 今後の課題としては以下の諸点を挙げることができる。 @ 牛の肥育において、事故および病死などが発生した場合、農協の共済保険 で対処するが、肥育終了間近の事故の場合、出資金の全額は戻らず、また、 オーナー達は待ち望んだ牛肉を得られないこととなり、オーナー牛制度に対 する信用を失う可能性がある。このため、牛の差し替えなどで対応できる体 制整備が必要である。
表−4 「第3回和牛オーナー肥育研究会」予算書 (単位:円/1頭当たり) 1)収入の部
項目 | 金額 | 内訳 |
入会金 | 300,000 | 15,000×20人 |
会費 | 400,000 | 月額1,000×20ヶ月×20人 |
雑収入 | 1,000 | 利息、他 |
合計 | 701,000 |
2)支出の部
項目 | 金額 | 内訳 |
素牛代金 | 200,000 | |
共済掛金 | 30,000 | 保険額500,000円 |
保険費 | 7,500 | 蹄切 他 |
飼料費 | 250,000 | 乾草 他 |
会議費 | 120,000 | 60,000×2回 |
牛運搬費 | 10,000 | |
と畜経費 | 35,000 | 食肉センター |
雑費 | 1,850 | ハナカン、ロープ、他 |
事務通信 | 2,500 | |
予備費 | 44,150 | |
合計 | 701,000 |
A これまでの研究会では肥育牛は2頭までと規模が小さく、肥育技術の育成 を目的としていることもあり、牛の飼育者の労働費を全く考慮していない。 オーナー牛制度が軌道に乗れば入会金および飼料費に労働費分を上乗せする 予定であるが、その算出が難しい。 B 「和牛オーナー肥育研究会」の拡大のためには、現在の組織では限界があ るので、村自体が生産から販売までを請け負う等、村一体となった取り組み が必要である。4 県産褐毛和牛に対する県下の消費者意向
土佐褐牛は、今後、高知県の地域特産畜産物としての展開が期待される。土 佐褐牛について県内消費者のもつイメージと購入意欲を把握し、消費者の立場 からあるべき生産・流通形態を検討するために、高知県立農業高等学校の父兄 を中心に学校関係者などの40代前半から50代半ばの主婦、または直接牛肉や鶏 卵を購入する立場にある者250名を対象にアンケート調査を実施した。 有効回答数は153であった。 土佐褐牛を購入したことのあると答えた回答数は153名中118名(77.1%)で あり、購入場所はスーパー54.2%、専門店(肉屋)17.8%、農協11.9%、そし て生協10.2%の順であった。 購入場所による価格の感じ方の違いは、スーパーあるいは専門店で購入する 人は、他に比べて高いとの回答が多かった。農協で購入する人は安いと答えた 人が若干見られた。産地直送販売では、4割以上の回答者が安いと安いと答え、 高いと答えた人は2割に満たなかった(図−6)。この結果は、産地直送販売 がほとんど流通コストがかからず、価格が他に比べ抑えられているという価格 差を消費者が実感していることを示している。 品質と価格は、味および見た目はほぼ8割以上の回答者がおいしい、よいと 答えた。 値段は適当が59.3%で高い37.3%より多く、土佐褐牛の価格設定がほぼ妥当で あることが示唆された。また、6割以上が安全と感じている、と答えた。いず れも肯定的な意見が否定をかなり上回った。 土佐褐牛の購入量の増加に必要なことは、価格の低下という答えが圧倒的に 多く、続いて安全が保証される、どこの店でもおいている、生産者の顔が見え るなどであった。 また、土佐褐牛を購入したことがない人では値段が高いという考えが最も多 く、どこで購入すればよいかわからないが続いた。これは、土佐褐牛の生産量 の少なさあるいは県外への出荷による県内販売量の低下が考えられる。しかし ながら、土佐褐牛を知らなかったと回答した割合は1割にも満たなかった。 なお、今回調査した一般消費者の半数以上は、購入する牛肉のうち60%以上 が和牛であると答えたことから、低価格の輸入牛肉の流通が拡大しながら、和 牛の需要もまだ十分あるように思われる。しかしながら、和牛購入の目安は何 かという問いに、国産、県名、地方名あるいはJビーフの表示があるもの、と 答えた回答者が多いことからブランド名にはある程度の知識を有しながら、和 牛の正確な認識には欠けているようである。 これらの結果は、土佐褐牛が決して魅力のない牛肉ではなく、価格の引き下 げ、消費者への的確な情報提供、消費者の安全志向への的確な対応等により、 一層の消費拡大が可能であることを示唆している。5 まとめ
土佐褐牛の生産・流通の新たな動きとして今回調査した3事例に共通するこ とは、@生産段階における組織的取り組みによる定時・定量出荷と食品の安全 性への配慮、A産地直送方式など消費者に生産者の顔が見えることを重視した 流通形態の開拓、B中間業者をカットした流通経費の削減等であり、既存の生 産・流通の枠から脱却することにより、畜産農家の経営の安定化、所得の増大 に貢献していることである。 また、消費者意向アンケート調査では、土佐褐牛の品質、安全性にかなり満 足しており、購入量を増加させるためには価格低下が必要と答えている回答者 が多かったことから、流通経路の削減は重要であると考えられる。 さらに、同調査では、販売場所が不明などの意見も少なからず見られ、消費 者への的確な情報提供も必要とされるところである。現在、土佐褐牛のPR活動 はそれぞれの飼育農家あるいは流通業者を中心とする組織で行われているよう であるが、各組織の提携が不十分であるため同じ牛でありながら地域によって 商品名が異なるという奇妙な現象を生み出している。各地域の特色を活かした 商品名による差別化もよいが、土佐褐牛のブランドの確立に向けた一体的なP R活動が重要と考えられる。 低価格の購入畜産物が増加した今日、生産環境に恵まれい中山間を取り巻く 状況は厳しいが、高知県下の消費者にとり土佐褐牛が決して魅力のないもので はないだけに、今後、生産段階における組織的・地域的取り組みと、流通過程 における関係機関・組織の連携・協力により、安全でより良いものを適切な価 格で、安定的に、正確な情報と共に供給していく体制を整備していくことが必 要であろう。そのことが、中山間地域の特産畜産物の確実な消費拡大と農家の 経営安定化、ひいては、同地域の活性化に結びつくと考えられる。 *本報告は、平成6年度に畜産振興事業団の委託で実施された調査研究「中 山間地域特産畜産物の加工・流通の展開方向に関する研究」から高知県褐 毛和種牛関連についてとりまとめたものである。