★ 農林水産省から


食肉の衛生対策について

農林水産省 畜産局 食肉鶏卵課 畜産専門指導官 熊谷 法夫




● はじめに

 食肉に関しては、 国民の健康を保持増進する立場から、 (1)家畜のと畜・解体
処理については 「と畜場法」、 (2)食肉の卸、 小売等の流通については 「食品衛生
法」 (いずれも厚生省所管) により、 施設の設置や営業の許可等の規制のほか、 
施設の構造の基準等が設けられており、 これらの法令等を順守することによって、 
衛生的で安全な食肉の提供が確保されている。 

 また、 農林水産省としても、 安全な食料を国民に供給する立場から、 食肉の処
理段階における衛生管理の徹底については、 従来から畜産再編総合対策における 
「国産食肉産地体制整備事業」 や農畜産業振興事業団助成における 「食肉処理施
設等再編整備事業」 等により、 と畜解体から部分肉処理までを省力的かつ衛生的
に一貫処理する産地食肉センターの整備等を推進するとともに、 家畜の生産段階
における衛生管理の徹底に努めてきたところである。 

 特に、 平成8年度においては、 腸管出血性大腸菌O−157による食中毒問題に対
応するため、 厚生省と連携して、 平成8年7月以降、 と畜場及び食肉処理場にお
ける食肉等の自主検査と衛生管理の自主点検を実施するよう関係者を指導し、 食
肉等の衛生管理の徹底と安全性の確保に努めてきたところである。 

表1 と畜解体を行う食肉処理施設の設置カ所数の推移

 資料:農林水産省「食肉流通統計」

表2 と畜処理頭数規模別の施設数と処理頭数(1日当たり豚換算頭数、平成7年)

 資料:農林水産省「食肉流通統計」
  注:1日当たりの処理頭数は、年間処理頭数を244日で除して算出した。

表3 食肉センターの整備等に係る補助事業等の概要


● と畜施設における衛生管理

 食肉に起因する食中毒を未然に防止するため、 厚生省においては、 と畜場等の
衛生管理や構造設備の基準を強化することとし、 その一環として、 と畜場法施行
規則の一部を改正したところであり (平成8年12月25日)、 その内容は、 と畜施
設内における衛生管理の基準の見直しが中心となっている。 この内容については、 
農林水産省としても、 食肉卸売市場、 食肉センターなど関係業界の意見をも聴き
つつ調整を行ってきたところである。 

 農林水産省は、 こうした措置に対応し、 当面の緊急的な措置として、 平成8年
度の補正予算で、 と畜場等を対象に衛生管理機器の整備等を行う事業を実施した
ところである。 

表4 と畜場法施行規則の一部改正の主な内容


● 食肉処理場における衛生管理

 食肉処理場については、 食品衛生法に基づき都道府県知事等が衛生基準を設定
しているが、 さらに今回のと畜場法施行規則の改正の趣旨に即した基準設定によ
る衛生管理の徹底が重要であることから、 厚生省においては 「食肉処理業に関す
る衛生管理について (平成9年3月31日付け、 生活衛生局長通達)」 を発出し、 
食肉及び食用に供する内臓 (以下 「食肉等」) の処理室の適切な温度管理、 まな
板、 ナイフ等の洗浄消毒、 軍手の原則使用禁止等の事項について基準設定の参照
とするよう、 都道府県知事等に要請したところである。 

表5 食肉処理業に関する衛生管理の主な内容

 

● 生産段階における衛生管理

 食肉の衛生管理の確保に関しては、 食肉の処理から販売に至るまでの段階のみ
ならず、 飼養管理する生産段階においても、 衛生管理の一層の徹底を図ることが
従前にも増して重要となっていることから、 農林水産省としては、 「牛等のと畜
場への出荷等における衛生管理の徹底について (畜産局長通達)」 を発出し、 体
表にふん便等が付着した牛等は、 と畜場へ出荷する前にこれらを落としてから出
荷すること、 健康な状態でと畜場に搬入するよう努めること等、 衛生管理の徹底
が図られるよう、 都道府県、 生産者団体に出荷者等に対する指導をお願いしてい
るところである。 

表6 牛等のと畜場への出荷等における衛生管理の主な内容


● 食肉に対する消費者の信頼回復

 昨夏のO−157による食中毒問題に際しては、 食肉の安全性に関し消費者に不安
が広がり、 牛肉を中心に消費減退が見られたことから、 農林水産省においては、 
通常の国産食肉消費拡大キャンペーンに加えて、 食肉小売店頭でのチラシの配布
やポスターの掲示、 新聞広告の掲載等を行い、 食肉の適切な調理方法等について
消費者への正確な情報の提供を図り、 消費者の不安解消に努めたところである。 

● 今後の食肉の衛生管理の徹底

 最近の食中毒の発生状況をみると、 本年に入っても依然としてO−157による食
中毒が発生しており、 その多くは原因食品が不明である。 このような状況に鑑み、 
総合的な食品衛生対策の一環として、 食肉の処理・流通段階における衛生管理の
徹底を図り、 安全で高品質な食肉の供給を図ることが緊急の課題となっている。 

 このため、 農林水産省においては、 畜産物価格関連対策において、 より衛生的
で安全な食肉を消費者に供給するため、 産地食肉センターの施設を衛生的に改善
するための事業について、 補助率のアップ (1/3以内→1/2以内) と事業費
の拡充 (約1.5倍) を行うとともに、 最新の衛生知識等を食肉流通関係者に普及
するための講習会等の開催を全国で実施するなど、 ハード、 ソフトの両面で食肉
の衛生管理の徹底を図ることとしている。 

 また、 8年度にはO−157食中毒問題により、 食肉等に対する消費者のイメージ
が悪化し、 減退したことから、 各種マスメディアや小売店等において消費者向け
に食肉の安全性や正しい知識に関する広報等を実施し、 食肉等の消費の回復・拡
大を図ることとしている。 

表7 食肉の衛生管理等に係る畜産物価格関連対策の概要


表8 平成9年腸管出血性大腸菌O−157による食中毒等の発生状況
(月別、都道府県別)
●表●
 資料:厚生省生活衛生局食品保健課
  注:平成8年7月に発生し、平成9年2月1日に死亡した堺市在住7歳女子
    については、本表に計上していない。4月11日現在。

● おわりに

 食肉の衛生管理の向上は、 国産食肉に対する消費者の信頼を確保し、 食肉消費
の維持・増進を図っていく上で最も重要であることから、 行政としても、 関係省
庁・関係機関等と緊密な連携をとりつつ、 可能な限り、 関係業界に対する指導や
施設整備に対する支援等に努めることとしているが、 もとよりこれらの対策が最
大限の効果をあげるためには、 食肉業界の皆様方の理解と協力が不可欠である。 

 食肉の生産・流通に携わる関係者におかれては、 それぞれの役割の中でより一
層の衛生管理の徹底に努めるとともに、 お互いに密接な連携を図りつつ、 今後と
も、 安全で高品質な食肉・食肉製品の生産、 供給に努められるようお願いする。 


元のページに戻る