◎地域便り


酪農家手作りの映画会

北海道/川田 武
 都市では 「見たいもの」 「聴きたいもの」 に日常的に触れることが簡単である
が、 北海道北部の酪農専業地帯では、 「映画会」 などここ40年くらい開催された
ことがない。 

 このことに疑問を持った酪農家の主婦の発案で、 先日 「映画:地球交響曲 (ガ
イアシンフォニー)」 が宗谷支庁管内幌延 (ほろのべ) 町下沼体育館で上映され
た。 

 下沼地区は、 市街地から30kmも離れた酪農専業地域で、 ここ数年で数戸の離農、 
学校の統廃合、 駅の無人化など過疎化が足音を立てて進行し、 地域の催しも少な
くなり、 近くの町に映画館もない状態である。 

 そこで、 酪農家の主婦、 稲垣順子さんが代表となり上映協力会を発足させた。 
夜と朝は搾乳時間帯であるため、 上映は酪農家が家を空けやすい昼過ぎの時間帯
とし、 暗幕等は近くの学校から借り、 子連れの母親のために託児サービスを用意
するなどの気配りもした。 

 この手作りの上映会には地域住民約400名が集まり、 40年ぶりの上映会を楽し
んだ。 作品は、 有名な登山家メスナー、 元宇宙飛行士シュワイカート、 植物学者
野沢重雄らが、 それぞれの体験や思い出を語るという内容。 

 酪農家は1日たりとも飼養管理を休むことはできないが、 そんな中での上映会
は、 住民の心温まる思い出になった。 「年に1度はコンサートなど住民みんなで
楽しめる催しを続けたい」 と、 稲垣さんたちは今回の成功に感激し、 この試みを
息長く続けることに意欲を燃やしていた。 

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