◎地域便り


都市型畜産とは何だろうか

愛知県/安藤 学
 彼は34歳、 愛知県西尾市において搾乳牛100頭を飼う酪農家である。 経営地周
辺には都市化の波が押し寄せており、 周辺環境が経営展開に大きな影響を及ぼし
ている。 彼には、 妻と子供2人がいる。 2人の子供は小学校と幼稚園に通ってい
るが、 その友達のほとんどがサラリーマンの子供である。 妻の交際範囲の大部分
もサラリーマン族である。 彼は言う、 「酪農だから、 生き物を飼っているから、 
そんな理由で妻や子供に不自由な思いをさせたくない」 と。 都市型畜産とは、 サ
ラリーマン族との競争であり共存である。 彼はサラリーマン族に負けないことを
目標とし、 経営理念として、 (1)休日の取れる経営体制、 (2)仕事と家庭の分離、 
(3)経営成績の堅持、 の3つを掲げる。 

 彼は、 経営理念に基づき経営改革を断行してきた。 (1)作業の省力化と規模拡
大を目的に、 これまでの自家配合を切り捨て、 飼料メーカーの指定配合に転換し
た。 (2)個体管理の平準化と給餌作業の省力化のために、 自動給餌機を導入した。 
(3)出荷生乳に自信と誇りが持てるよう、 乳房炎対策を徹底している。 (4)ヘルパ
ー制度を積極的に活用することで、 月2回、 家族全員による充実した休日を実現
した。 (5)畜舎で作業服に着替え、 家に帰る前にはシャワーを浴び、 着替えて帰
ることで、 仕事と家庭のけじめをつけた。 (6)簿記記帳を徹底することで、 どん
ぶり勘定から脱却した。 (7)環境対策を重視し、 処理施設を設置するとともに、地
元耕種農家との間で契約によるたい肥流通ネットワークを形成した。 (8)サラリ
ーマン族との交流を図るため、 夏には近所の家族を招き自宅庭でバーベキュー大
会を行い、 冬には牛乳料理講習会を開催している。 (9)近所の子供たちには、 写
生大会等を通じて畜舎を解放している。 

 彼は言う、 「妻や子供の喜ぶ顔が見たい。 子供に誇りに思ってもらいたい」 と。 
家族に支えられ、 地域と共存できる経営を目指し、 彼は変わり続けようとしてい
る。 彼、 辻村正樹は、 愛知県畜産会主催の第44回愛知県畜産経営体験発表共励会
において、 農林水産大臣賞を受賞した。

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